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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
一章 お兄ちゃんのために両親を引きずりおろします!
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11.4歳の誕生日

 4歳の誕生日パーティーは、嫌味な貴族たちに囲まれるのかと思うと、憂鬱だったが、出席しないわけにはいかない。お兄ちゃんの13歳の誕生日も、ファンヌの2歳の誕生日もパーティーなど開かないのに、私だけ開かれるのは、やはりルンダール家を父親が乗っ取ろうとしているに違いない。

 矢面に立つのが嫌だから、私を当主に据えて、自分たちは領地の収益で贅沢三昧をして暮らそうと考えているのかもしれないが、私が成人するまでにはまだ14年かかる。それに、私は両親の傀儡(かいらい)になってやるつもりなどなかった。

 けれど、もしも両親がお兄ちゃんやファンヌを人質に取ったら。

 あの両親ならばやりかねないという思いが、幼いながらにもあった。私がお兄ちゃんとファンヌを守らなければいけない。

 そのためには、パーティーは嫌でも出ておく必要があった。

 かなり喋れるようになった私に、執事のセバスティアンさんがその日は傍についていてくれた。お手洗いも長時間行かなくても大丈夫になったのだが、どうしても料理のテーブルに手が届かず、料理を取ることができない。


「食べない方が賢明かと思われます。ルンダール家の親戚が参りますよ」

「あのひとたちは、ルンダールのしんせきだったの?」


 3歳の誕生日パーティーでも、新年のお祝いでも私を取り囲んだひとたちは、ルンダールの関係者のようだった。お兄ちゃんがルンダールの正式な血統であると唱えることは、彼らもルンダールの血統を引いていて、入り婿の父親やその妻の母親には権利がないことを示していたのだ。


「アンネリ様が亡くなった時点で、出て行けばよかったのではないでしょうか」

「入り婿の分際で当主面など、よくできますね。よほど面の皮が厚いのでしょう」


 父親に対する嫌味は、私にも降りかかる。


「オリヴェル様がいないのに、どうしてこの子が」

「この子はルンダール家を継げないとお分かりでしょう?」

「オリヴェル様はお身体が弱く、公の場に出られる状態ではありません。息子はその代わりです」


 「代わり」という言葉に、私を取り巻く貴族たちがざわめく。


「そうやって、当主も『代わり』にさせるおつもりでしょう?」

「そんなことは御座いません。私が当主にいるのもオリヴェル様が成人するまでのこと」


 今年の冬に14歳になるお兄ちゃんが成人するまで残り4年。4年後にこの屋敷から追い出されるなど、両親は考えたくもないだろう。


「お手洗いは大丈夫ですか?」

「だいじょうぶです。ありがとうございます、セバスティアンさん」

「ご立派になられて。オリヴェル様から気を付けるように、よくよくお願いをされております」


 両親に止められて実際に会うことはできないが、お兄ちゃんとセバスティアンさんは連絡を取り合っていたようだった。


「おにいちゃ……あにうえが?」

「使用人の料理を作っておりますのも、スヴェンでございます。スヴェンを通して、お手紙をいただきました」


 スヴェンさんを通して渡された手紙には、お兄ちゃん自身の困っていることよりも、私やファンヌに対して気を付けて欲しいという願いが書いてあったと言われて、涙が出そうになった。

 あんな境遇でも、お兄ちゃんは私とファンヌのことを気にかけてくれる。

 夜遅くまで続くパーティーは、眠くなってしまうので、誰も私を気にかけなくなったところで、セバスティアンさんが私を子ども部屋に戻してくれる。

 部屋で待っていてくれたお兄ちゃんは、まず私をお手洗いに連れて行って、お風呂に入れて着替えさせてから、残しておいてくれたご飯を食べさせてくれた。

 冷めていたがお兄ちゃんと食べるご飯は美味しい。パーティー会場で何か口にしても、味など分からなかっただろうから、セバスティアンさんの忠告はありがたかった。


「おにいちゃん、セバスティアンさんに、わたしのこと、おねがいしたの?」

「セバスティアンさんは良くしてくれた? 前のパーティーのときに何をすればいいか分からなくて、イデオンに声もかけられなかったって、スヴェンさんを通して聞いたから」


 お手洗いに行きたくても行けなかったこと、料理が取れなかったことなど、お兄ちゃんはちゃんと私がパーティーで困っていたことを知っていてくれた。その上で、セバスティアンさんが私をどう助ければいいか聞いたときに、明確な答えを渡したのだ。


「ありがとう、おにいちゃん」

「イデオンが少しでも嫌な思いをしなかったら良かったんだけどね」

「ルンダールけのしんせきのひと、おにいちゃんがとうしゅさまになることを、のぞんでるみたいだった」


 パーティーでの話をすると、お兄ちゃんは食べ終わった食器を片付けて、先に私に歯磨きをしてくれた。寝る準備が整って、私はお兄ちゃんに添い寝されて、ベッドに入る。

 そろそろ一人で寝られなければいけない年齢だったが、お兄ちゃんが傍にいないと私は夜に起き出して、お兄ちゃんを探してしまう。目を離した隙に、あの悪夢が現実になっていないか、夜は特に怖くなるのだ。


「ルンダール家の親戚からも、旦那様は税金を取っているようだよ」


 乗っ取り以前に、そのことで父親は親戚から疎まれている。

 話を聞いて、私はお兄ちゃんを見つめる。


「おにいちゃんはそんなことしない?」

「ううん、今、重税のせいで領民は貧しく飢えている。富める者から取って行かないと、領地は立ち直れない」


 当主にはなりたくないと言っていたが、お兄ちゃんにはしっかりとした目標があるようだった。凛々しい眼差しに、私は見惚れてしまう。


「おにいちゃんがとうしゅさまになったら、わたしとファンヌは、どうなるの?」


 それは、ずっと聞きたかったことだった。

 両親は当然父親の実家に帰されるだろうが、私とファンヌはこの屋敷で産まれて、この屋敷以外を知らない。両親と共に父親の実家に帰されたとしても、そこで馴染めるとは到底思えなかった。

 それどころか、両親と暮らすことが恐怖でさえあった。ルンダール家を追い出された両親は荒れるだろう。私とファンヌに当たらないとも限らない。


「僕が当主になったら、できたらイデオンかファンヌが成人したら当主を譲って、薬草学者として領地を富ませるための補佐に着きたいと思ってる」

「わたしか、ファンヌがとうしゅさま?」

「そうだよ。僕は薬草栽培を研究して、この領地でもう一度薬草栽培が盛んになって、飢えた人々が平穏に暮らせるようにしたいんだ。それに……」


 言葉を切ったお兄ちゃんに、私は「それに?」と首を傾げて問いかける。


「土は裏切らないって、母が言ってた。天候に左右されることはあるけれど、毎日手をかけて、丹精込めて育てていれば、土は裏切らず、薬草が育つって……」

「つちは、うらぎらない……」

「人間は、裏切るから」


 ぽつりと呟いたお兄ちゃんの顔が泣いているような気がして、小さな手で私は頬を撫でる。泣いてはいなかったお兄ちゃんは、にこりと笑って首を傾げた。


「どうしたの、イデオン?」

「うらぎられたの?」


 聞いてはいけないことを聞いてしまった気がしたが、私はもう止まれなかった。セバスティアンさんが、パーティーの料理に手を出したらいけないと言ったことが、今更ながらに思い出される。


「母は……病気じゃなかったのかもしれない」

「おびょうきでなくなったんじゃないの?」

「毒殺されたんじゃないかって、セバスティアンさんは言っていた」


 領地を治める当主の座を奪うために、入り婿に来て、当主を毒殺してしまう。

 それをしたとしたら、父親は犯罪者だった。

 ルンダールの領地にも警備兵が配備されているが、それは国から派遣されたもの。管轄が違うという意味を当時は分かっていなかったが、父親が犯罪者ならば、当主というのに関係なく、警備兵が捕らえて、王都で裁かれるだろうことは、ぼんやりと理解していた。

 アンネリ様は毒殺されたのか。

 そのことをもっと詳しく調べてみないといけないと思いつつ、私は眠気に負けて寝てしまった。

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