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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
三章 幼年学校で勉強します!(一年生編)
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30.決闘の代理人の立候補

 お兄ちゃんの大叔父で、アンネリ様のお父様の実の弟に当たるコーレ・ニリアン。本気で私の父親を当主代理の座から引きずりおろそうとしていたのだったら、それは容易かったに違いない。嫌味を言ってもコーレ・ニリアンがそれを実行しなかったのは脅しをかけて父親から利益を受け取っていたからだった。


「ニリアン家はイデオンくんの父上の統治時代に、貴族にまでかけられていた税金を免除されているどころか幾ばくかの金を受け取っていた形跡がありますね」


 過去の当主代理の帳簿を探してくれたカミラ先生は、お兄ちゃんと私の部屋に来て報告してくれた。

 繋がりはあった。これからそれをどうやって呪いをかけた証拠へと導いていくかだ。当の呪術師に話を聞いても口を割るわけがない。口を割ったところで犯罪者の言うことだと言われてしまえばどうしようもない。


「カミラせんせい、けっとうをうけるつもりですか?」

「挑まれたら受けます。拳で治めるのが私にとっては一番容易いので」


 そんなこと一生に一度くらい言ってみたい気がするが、私もお兄ちゃんも攻撃の魔術の才能はないとはっきり調べられていた。お腹に赤ちゃんがいても自信満々のカミラ先生は相手が卑怯な手を使ってこない限りは勝てそうだった。


「コーレ・ニリアンが貴族たちの署名を集めて国王陛下に直訴したとのことです。カミラ様、決闘を申し込まれますよ」

「のぞむところです!」

「ふぁ!?」


 魔術で得た情報を伝えに来たビョルンさんの足元をすり抜けて、愛らしくも凛々しい声が聞こえてしまった。

 なんで、ファンヌがここにいるの!?


「ファンヌ、だめだからね」

「ファンヌは決闘しないんだよ?」


 私とお兄ちゃんの二人がかりで説得しても、ファンヌは鞘のついた菜切り包丁を掲げてやる気満々である。


「わたくし、ぜったいにかちます! カミラてんてー、きょかをください!」


 うわー物凄くやる気だ。やる気に満ち溢れて菜切り包丁を鞘ごと振り回している。その姿は4歳なので小さくとても戦えそうにないが、私もカミラ先生もお兄ちゃんもファンヌの実力と頑固さを知っていた。

 ドラゴンの祠に入ったときもファンヌは絶対に私とお兄ちゃんの言うことなど聞かなかった。

 どうしよう、一番恐れていた事態が起きそうになっている。


「ファンヌちゃんは出なくていいですからね」

「わたくしにかくれておはなしをすすめても、むだなのです! かべにみみあり、ドアにヘソあり、わたくしにほうちょうありなのよ!」


 んん?

 そんな妙な諺があったっけ?

 思わず首を傾げてしまう私とお兄ちゃんを無視して、ビョルンさんを押しのけてファンヌはぽてぽてとカミラ先生に近付いて行った。


「カミラてんてー、あかちゃん、まもってあげるの」

「気持ちは嬉しいのですが、ファンヌちゃんを危険な目に遭わせるわけにはいきません」

「カミラてんてーは、なさおら、きけんなめにあっちゃだめなのよ」

「なさおら、じゃなくて、なおさら、ね」


 可愛い言い間違いにツッコミを入れてしまったが、ファンヌをどうにか説得しないといけない。


「けっとうはだいりをたてられるんでしょう? わたくしのききには、ドラゴンさんがきます」

「神獣が来れば、決闘どころではなくなりますね」

「ドラゴンさんがついてるからって、あいてもどんなのろいをつかってくるかわからないんだよ?」

「にぃたま、わすれたの? わたくしにのろいとまじゅつへのていこうがあるってこと」


 そうだった、ファンヌは呪いに晒されるようなこともなかったし、挑まれれば相手を倒してしまうので忘れていたが、呪いを抜きながら生活していたヨアキムくんと長く接していたおかげで呪いと魔術に対する抵抗があるのだ。

 鱗草で浄化しきれない呪いが襲い掛かったときにカミラ先生は抵抗する手段がないが、ファンヌには抵抗があるので呪いがかかる可能性は非常に低い。

 安全性から考えればファンヌを代理人にしてしまうのが、一番良いと私は気付いてしまった。


「やっぱり私が」

「ビョルンさんは下がっていてください」

「ビョルンさんはでてこないで」

「わたくしがやるわ」


 狼狽して自分が決闘で代理に立とうとするビョルンさんはあっさりとカミラ先生と私とファンヌに退けられた。

 色男、金と力はなかりけり、ではないが、ビョルンさんには決定的に戦いの能力が欠けている。カミラ先生を守ろうとする気持ちは立派なのだが、ビョルンさんだけは私の中でない人選だった。


「ファンヌはのろいへのていこうがあるし、あいてもファンヌをみればゆだんします。さくせんとしては、ありかもしれません」

「イデオンくん、ですが……」

「イデオンの作戦を信じて良いの?」


 もうこうなってしまったのならば仕方がない。ファンヌが勝てる作戦を練らなければいけない。

 小さなファンヌを戦わせることに関してカミラ先生は躊躇っているようだが、お兄ちゃんは私を馬鹿にしたりせずに私の意見を聞いてくれた。

 どちらの主張が正しいかを力で決めてしまうのは危険だが、貴族を味方につけたコーレ・ニリアンは退かないだろう。それならば一度痛い目を見せてアンネリ様の両親の呪いの件まではっきりと追及できるようにしなければいけない。


「ファンヌ、せきにんはじゅうだいだよ。わたしもできるかぎりのことはするけれど、できる?」

「やります」


 はっきりと答えたファンヌに私も腹を決めることにした。

 一度部屋に戻ってお兄ちゃんと一緒に鱗草でコサージュを作る。鱗草の葉っぱは透ける水色で美しいのだが、崩れやすいのでお兄ちゃんに硬化の魔術をかけてもらって、ファンヌのふわふわの髪を纏められるように小さく可愛く作っていく。


「呪いへの抵抗があるけど、鱗草も必要かな?」

「うろこくさは、のろいのまじゅつをすいとって、それをしょうこにできるから」

「そうか、そうだったね」

「それに、ファンヌがすこしでもきずつかないようにしないと」


 勇敢だがまだ4歳のファンヌはとても小さい。大人と戦うとなると間合いの問題でとても不利だった。可愛い妹に少しでも傷が付いたら後悔するとそのときの私は必死だったのだ。

 どれだけあの菜切り包丁が戦うときに大きくなるとしても、ファンヌの腕自体が大人に比べると非常に短い。それを補うだけの運動能力とすばしっこさはあるのだが、相手も卑怯な手を使うことを厭わない最低の大人なのだと理解しておかなければいけない。

 編み上げた硬化した鱗草のコサージュに、お兄ちゃんが更に強化の魔術をかける。


「ビョルンさんにはいざというときのために、のろいをとけるようにひかえてもらわなきゃ」

「ビョルンさん戦えないからね」

「ビョルンさんにはビョルンさんのたたかいかたがあるとおもうんだ」


 決闘場に出て戦うだけではなくビョルンさんは控えていて、いつでも怪我の対処ができるように準備をしておくという役目があった。


「イデオンも戦えないけど、充分戦っているものね」

「わたしも……?」

「こんなにたくさん考えてくれてるじゃないか」


 お兄ちゃんに言われて私の責任は重大なのだと思い知る。

 鱗草のコサージュが出来上がると、私は子ども部屋にそれを持って行った。ファンヌにコサージュを見せるとお目目を煌めかせている。


「とってもかわいいの。ヨアキムくん、みて?」

「ふぁーたん、にあうの」


 微笑ましい光景だが私の目的はもう一つあった。


「ヨアキムくん、いいかな?」

「あい?」


 ヨアキムくんを呼び寄せて手を取って見つめ合う。


「ファンヌがけっとうのだいりにんになったの。けっとう、わかる?」

「けっとう、なぁに?」

「カミラせんせいと、おにいちゃんのおじいさまとおばあさまをころしたかもしれないひとと、どっちがただしいか、たたかってきめるの」

「けっとう、あぶない?」

「そう、だから、ヨアキムくんのちからをかりたいんだ」


 真剣に話すとヨアキムくんはこくこくと頷きながら聞いてくれた。

 こうして下準備が整った。

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