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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
三章 幼年学校で勉強します!(一年生編)
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27.旅の終わり

 ドラゴンがミノタウロスを持って来たり、海で遊んでいたらシードラゴンが襲って来たり、ハプニングはたくさんだったが楽しい旅は終わりを迎えた。翌朝、朝食を終えて馬車に乗り込んで駅に行くと、ヨーセフくんが見送りに来てくれていた。


「来年も来いよ」

「うん、いろいろありがとうね」

「またな」


 すっかりと仲良くなっていたダンくんとヨーセフくんは拳を打ち合わせるようにして挨拶をしていた。男の子同士の友達ってこんなものなのだろうか。お兄ちゃんがいるとすぐに泣いてしまうし、ルンダール家で貴族として育てられた私は、ダンくんやヨーセフくんとは少し違うのかもしれない。

 そうであっても友達でいてくれる二人には感謝しかない。

 列車に乗っている間、私は首に下げている魔術具で撮った立体映像を確認していた。

 駅について列車と一緒に写っているダンくん、ミノタウロスのステーキを食べているダンくん、ヨーセフくんとダンくんの水着姿、泳ぎを習っているダンくん、蟹を捕まえたダンくん……家族の立体映像もたくさんあったがその中からダンくんの立体映像を選んでいく。

 半日かかる列車の旅もみんなが一緒だと楽しい。

 隣りの個室に行って、私はカミラ先生に纏めた立体映像を見せた。


「これをミカルくんやダンくんのごりょうしん、ダンくんもきがるにみられるようにしたいのですが、アルバムのようなものをおみやげにあげるのはどうでしょう?」

「素敵な立体映像がたくさんですね。これはご両親もミカルくんもダンくんも喜ぶでしょう。帰りにアルバムを買いましょうね」


 賛成してくれて喜んでいると、ファンヌもヨアキムくんもお目目を丸くして立体映像を見ている。ちゃんとファンヌやヨアキムくんを撮ったものもあると展開して見せると、二人とも身を乗り出してリーサさんとビョルンさんの膝から落ちそうになってしまった。


「ヨアキムくんがかわいいの」

「ふぁーたんも、いでおにぃにも、おりにぃにも、かーいーねー」


 これはもしかして、二人もアルバムが欲しいのではないだろうか。


「カミラせんせい、おうちでみられるアルバムをかってもいいですか?」


 買うだけのお金が残っていただろうか。マンドラゴラ品評会で稼いだお金は、買い食いやミカルくんとダンくんのカップにフレヤちゃんのヘアピンにと使ってしまっていた。


「それも一緒に買いましょうね」

「わたしのおかね、あとどれくらいのこってますか?」

「気にしないで、家族で見るものですから私が支払いますよ」


 自分が欲しいと思うものは自分のお金で買わなければいけないと思っていたが、カミラ先生はアルバムは家族のものだと認識している。それならば甘えてしまうことにするが、もう一つ私には買いたいものがあった。


「まにあわなかったけど、ヨーセフくんにアルバムをとどけることができますか?」


 駅まで送りに来てくれたヨーセフくん。去年は立体映像を撮る装置がなかったので思い出を残せなかったが今年はヨーセフくんの立体映像も私たちと一緒にたくさん映っている。

 二日間ずっと傍にいてくれて私もとても楽しかったので、ヨーセフくんにもお礼がしたかった。


「魔術で送りましょうね。アルバムにも色んなデザインがありますから、イデオンくんとダンくんで選んでくださいね」

「はい、ありがとうございます」


 お礼を言って自分の個室席に戻るとお兄ちゃんが膝の上に抱き上げてくれる。ダンくんの手前お兄ちゃんに甘えるのはダンくんが来たときには我慢していたけれど、シードラゴンの事件があってからすっかりと私は箍が外れていた。

 何より恥ずかしいことだと思っていたお兄ちゃんに甘えるという行為に対して、ダンくんもヨーセフくんも全く馬鹿にせず揶揄いもしなかったのでほっとしたのだ。


「内緒の話をしてきたの?」

「ないしょじゃないよ。ダンくんのりったいえいぞうと、ヨーセフくんのりったいえいぞうと、かぞくのりったいえいぞうをまとめたアルバムをかいにいくおねがいをしてきたの」

「おれのも、いいのか?」

「ダンくんがなにをしてたか、ごりょうしんもミカルくんもきになってるだろうし、いいおみやげになるとおもって。ヨーセフくんにはカミラせんせいがまじゅつでおくってくれるって」


 ダンくんとお兄ちゃんに報告すると、お兄ちゃんも首から下げた魔術具から立体映像を展開させた。

 私やファンヌやヨアキムくんやダンくんやヨーセフくん。子どもが中心の立体映像でときどきビョルンさんとカミラ先生も入る。私の立体映像が一番多いような気がするのは自意識過剰だろうか。


「僕が撮ったのもデータを合わせて入れてもらおうね」

「おにいちゃんもとってたんだ……いつのまに」

「可愛い弟と妹とその友達を撮らないなんてもったいないからね」


 展開されるお兄ちゃんの立体映像は人間のものだけではなかった。倒されたミノタウロスやシードラゴンの立体映像もある。ちょっと怖くて涙が出てきそうになったけれど魔物に晒される危険もある領地を将来治めるお兄ちゃんにしてみれば、資料として残しておきたいのは当然のことだろう。

 それでも直視できずにお兄ちゃんの胸に顔を埋めた私に、お兄ちゃんは急いでその立体映像は隠して次に進んだ。セバスティアンさんとヨーセフくんの微笑ましい祖父と孫の立体映像もある。

 お互いの撮った立体映像を見せ合って、ダンくんも外を見たり立体映像を見たりしていると時間は過ぎて列車は駅に着いた。行きよりも朝早い列車に乗ったので、お屋敷に戻ってからおやつの時間でちょうど良さそうだ。

 帰りの馬車に乗ると途中で立体映像を収めるアルバムや写真立てを売っている魔術道具のお店に寄ることになった。


「ダンくん、おうちにもってかえるアルバムはどれがいいかな? ヨーセフくんにおくるのもいっしょにえらんで」

「おれがえらんでいいのか?」

「ダンくんがえらんだほうが、ごかぞくも、ヨーセフくんもよろこぶよ」


 魔術具の売っているお店は初めてだったので私もダンくんも最初は触って良いのかおっかなびっくりだったけれど、選び出すと本くらいの大きさのアルバムを手に取って見比べて悩み始めた。


「みどりにきんのつたもよう、かっこいいんだけどな」

「これいいよね」

「あおにぎんのなみもようも、すてがたいんだよな」

「うみにいったからね」

「あ、こっち、みずいろのすいめんのもようがある」


 何冊もあるアルバムを出してもらっては見て、大きさもファンヌやヨアキムくんやミカルくんの小さな手でも持ちやすいものを探して、最終的に水色の水面の模様をヨーセフくんに、青に銀の波模様をダンくん一家に、緑に金の蔦模様を私たち一家に買うことになった。


「きまりました」

「どれも素敵ですね。データを写してもらうので、イデオンくんとオリヴェルはそれぞれに入れるデータを指定してください」


 魔術具を首から外してお兄ちゃんと私はお店のひとにデータを入れてもらった。


「ミノタウロスとシードラゴンのデータも、おれ、ほしい」

「分かったよ、ダンくん。お願いするね」


 私にとっては怖かったがダンくんにはそうではなかったようで、ミノタウロスとシードラゴンのデータもダンくん一家のアルバムには入れてもらった。

 無事にアルバムができて、ヨーセフくんの分はカミラ先生が店先でメッセージカードを買って書いて早速送って、ダンくんの分はダンくんがしっかりと抱いて、私たち一家の分はヨアキムくんが抱き締めて馬車に二手に分かれて乗った。

 お屋敷でおやつの用意をしていると、ダンくんのご両親がミカルくんを連れてダンくんを迎えに来た。ダンくんを見つけた瞬間ミカルくんの大きな黄色っぽい目から涙が零れる。


「にーたん!」

「ミカル、なんでないてるんだよ」

「寂しかったみたいだよ」

「もうかえってきたからな」


 泣きながら飛び付くミカルくんを抱き締めてからダンくんはアルバムをミカルくんに見せてあげていた。


「どうぞ、お茶を飲んで行かれてください」

「ダンがお世話になって、私たちまで、すみません」

「ダンくんのおかげでとても楽しかったんですよ」


 カミラ先生とビョルンさんがダンくんのご両親とミカルくんの席も作る。みんなでテーブルについてお茶を飲んでおやつを食べながら、旅行の思い出話をした。


「ミノタウロスを食べたんですか!?」

「シードラゴンも出たとは……ダン、無事で良かった」


 倒されたミノタウロスとシードラゴンの立体映像を見せながら話すダンくんはどこか誇らしげだ。二泊三日の旅行がダンくんにとって楽しいものならば良かった。なによりも、私も怖いことはあったがとても楽しかったし、ダンくんとの距離がまた近付いた気がしていたのだった。

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