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中くらいの青春〜帰り道日記〜  作者: 明石 裕司
一章 六人の帰り道
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8話 聞き耳

 寝る前に一時間くらい時間できるので、その時間になぜか執筆がどんどん進みます。

 翌日。


「あの、水筒音楽室に忘れたので、取りに行ってきてもいいですか?」


「分かった、いってらっしゃ~い」


 適当な理由をつけてパート練を抜け出す。

 まあ水筒がなくてのどが渇いているのは事実なのだが。


 音楽室の前に戻ってきてから、廊下に置いていた自分のバッグを漁る。

 水筒を引っ張り出して、そのまま教室に戻る―――わけではない。


 目的は音楽室の中だ。


 楽器を動かせないパーカッションは、音楽室に残って練習している。

 鈴音はパーカッションなので、今日もここで練習をしているはずだ。


 ドアのすぐそばまでしゃがんで近づく。

 覗けばさすがにばれるので、聞き耳をたてるだけにとどめておいた。


「じゃあ、この部分、練習しといてね」


「「「……はい」」」

 

「返事はもっとはっきり!」


「「「はい」」」


(まずい、こっち来る!)


 まだそこまで威勢のない返事をした一年生は、教室を出てきた。

 それにいち早く気付いた裕司は、そこを離れて立ち上がり、持っていた水筒に口をつけていた。


 彼女たちは裕司には目もくれず、隣にあった準備室に入った。


(危なかった……)


 もう一度音楽室に近づく。


「ほんと、なんであんな言うこと聞いてくれないのかな」


「挨拶もあんまりしないしね」


「先輩たちは『自分たちでやってみな』って、後輩のことはあんまり言ってこなくなったし……」


 どうやらこのパートは一年生の教育をほとんど二年生に任せているようだ。

 恐らく言いたいことがあれば多少は言っているだろうが、基本は干渉しないのだろう。


「はぁ……どうしたらいいの……」


 その声を漏らしたのは鈴音だ。

 これには裕司も動揺を隠せない。


 鈴音の弱気な声を聞いたのは、初めてだった。

 さきほどのキツい怒鳴り方にも相当驚かされたが、やはり普段元気な印象が強い彼女が落ち込んでいると、それ以上に驚く。

 そして、心配にもなる。


「これは先輩にも助けてもらおう」


「……うん」


 それだけ言って、彼女たちはまた練習を再開した。


 ついでにパーカス(パーカッションの略)の後輩の様子も少しだけ見てみる。


「先輩、なんであんなに怒鳴るんだろうね」


「挨拶くらいいいじゃん、別に」


「楽しめりゃそれでいいし」


 案の定、メトロノームの音ではなく、彼女たちの話声だけが聞こえてきた。

 どうやら後輩たちとうまくいっていないのは本当らしい。


 裕司は立ち上がると、音楽室のフロアを後にした。


「これは高村さんに報告だな」



 教室に戻ると「遅いよ」とちょっと怒られてしまった。

 どうやら、十分以上時間がたってしまっていたようだ。

 その日は、いつも以上に練習を真剣に行った。


 帰り際、奈菜に声をかける。


「ねぇ、高村さん」


「ん、なになに?」


「昨日言ってたことだけど、本当っぽい」


「まさか、さっき覗いてきたの?」


「人聞きの悪い言い方するなよ……」


 自然と小声になってしまっていたので、余計に怪しい。


 裕司は逸れそうになった話題を戻す。


「まあそういうこと。さっき水筒取りに行くついでにパーカスの練習見てきたの。だったら、後輩の態度が悪いみたいでさ。神田さんも怒鳴るほど」


「鈴音ちゃんが怒鳴ってたの?」


「うん。返事は適当だし練習もあんまりする気ないみたいでさ」


「それは鈴音ちゃんも大変だね……」


 裕司は深くうなずく。


「だから、そのことには直接触れずに、それとなく聞いてくれない?」


「オッケーオッケー、やってみるよ」


 奈菜は了承してくれた。


 これで裕司の果たすべきことは終わった。

 相談事などは、今はほかの人のほうが適任だろう。


「あ、じゃあ、蒼と彰にもそのこと伝えといてね」


「お、おう、わかった」


 裕司の仕事が一つ増えた。

鈴音編はもう少し続きます。

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