7話 原因を探ろう
毎日投稿はさすがに無理ですが、できる限り遅れを取り戻していこうと思い、今日は二日連続投稿しました。
鈴音の家から離れるために歩き、立ち止まる。
「まず、神田があんな風になったのは一週間前からだよな」
切り出したのは蒼だ。
その言葉に残りの四人はうなずく。
今裕司たちは、鈴音の家から二十メートルほど離れた、奈菜の家の前で話していた。
鈴音の家のように座る場所があるわけではないのだが。
「なんか、原因に心当たりとかない?」
これには誰も反応できない。
女子たちは何か知っているかと思ったが、首をかしげるだけだった。
蒼もしばらく頭を抱えていたが、やはり何も出てこない様子だった。
「今までもあんな様子見たことないしな……」
はぁ、と誰かがため息をついた。
「手がかりになる言葉もないのか?」
「残念ながら、記憶してる限りでは」
確かに自分の悩みなんて自分から話すことはあまりないが、普通なら手掛かりくらいあるはずだ。
だが鈴音の場合、考えてみても、それらしいことが見当たらないのだ。
「神田って案外自分のこと話さないんだな」
その蒼の一言は、全員の気持ちを代弁しているようだった。
全員の表情が暗くなる。
裕司も考えたが、鈴音の表情が沈んだところなど、本当に見た記憶がない。
(ん? 沈んだ表情? ……あ!)
裕司は「ねぇ」と呼びかける。
「みんな、勘違いしてるかも」
「どういうこと?」
裕司は思いついた仮説を話すことにした。
「多分だけど、みんな『神田さんが悩んでる表情』を想像してるんだと思う。違う?」
「あー、そうだな」
彰に続き、全員が少し遅れてうなずく。
「多分だけど、そんな表情、見た記憶ほとんどないでしょ」
「確かにそうだな」
「みんな『落ち込んでる理由』だから、落ち込んでる時のことを思い出そうとするのは当然だよね。けど、多分今回はそれじゃだめだ。もっと普段のふざけてるテンションの時のことを考えないと」
「ふざけてるって、ひどいな……」
彰が非難の言葉をぶつける。
だが否定しないので、彰も少なからずそう思っていたのだろう。
「だからさ、女子二人、あとお前らも、もうちょっと会話思い出してくれない?
愚痴とか冗談っぽく言ってたこととかからでいいから」
どちらかというと、愚痴や冗談っぽい言葉のほうが大事だったりする。
鈴音みたいなタイプは恐らく、ちょっと愚痴を言いたくなるが、心配をかけたくないという思いが勝手にはたらいて、つい軽い感じでその愚痴を誤魔化してしまうのだ。
だから、あえて「愚痴や冗談っぽく」を付け加えたのだ。
四人はしばらく考え込んでいたが、真っ先に顔が上がったのは岬だった。
ちなみに裕司は鈴音と話すことはほかの人に比べあまり多くなかったので、考えることを諦めていた。
「そういえば、『後輩がゆうこと聞かない!』って言ってた気がする」
奈菜もそれを聞いて思い出したようで、何度もうなずいている。
「あ、そうそう、テンション高めだったから気にしてなかった」
「多分、それだな」
裕司はあてずっぽうの自分が考えた理論で言ったので、本当に当たるとは思っていなかった。
「でもさ、それだけであんなに落ち込むか?」
反論してきたのは意外にも彰だった。
「そうなんだよな。それだけが理由じゃないのか?」
結局、それには誰も反応できない。
やはり蒼の言う通り、それだけではないのかもしれない。
というか、確実にそうだ。
「多分、神田さんの周りでいくつかのことが同時に起こったんだよ。弱り目に祟り目ってやつ」
「じゃあそれ以外の理由は?」
今度は岬だ。
だが、やはり他の理由と言われても思いつかない。
「……残念ながら、分からない」
目を逸らしながら答えた。
すると、裕司の後ろで声がした。
「もう仕方ねえか」
全員の目が発言者である蒼のほうに向く。
「これ以上は分からん。明日、本人に聞こう」
だがまた、文句が出た。
「それじゃあ、今日ここで話した意味は?」
彰が面倒そうな顔でつぶやく。
そういえば、もともとそんなに乗り気じゃなかったように思う。
単純に面倒だったのだろうか、こうして残って話し合うことが。
「あー、今日は理由考えるために残ったんだしな」
恐らく鈴音なら、聞いても「何でもないよ」と答えるだろう。
だからここで理由を考えようとしたのだ。
きっと五人とも同じ考えだからここにいるのだ。
蒼は彰の性格を知っているから、呆れたような表情になっていた。
まあ、こういうときは裕司の出番だ。
論理的に考えることは、裕司の得意分野だ。
「今日こうして話し合ったから、一つの可能性が見つかった。一つでもわかってれば、そこから関連で何か聞けるかもしれないだろ」
もし、後輩のことだとしたら「部活のことで何か悩んでるの?」や「後輩とうまくいってないの?」という聞き方をすれば、話してくれるだろう。
そして、一つを言ったことで、残りのことも吐き出したくなってくれれば、それがいい。
意味はこれだけではないが、それ以上は言うのをやめた。
「早く帰れればいいし、それなら別にいいか」
彰はあくびを噛み殺しながら答えた。
「そろそろいい時間だし、俺は帰るよ」
「そうだな」
恐らく、六時半は過ぎているだろう。
「それじゃあ、バイバイ」
「それじゃあね」
裕司はそれだけ言ってその場を後にしようとした。
「あ、うちも帰る」
後ろから聞こえた声に思わず振り返る。
「じゃあね、岬ちゃん」
「うん、また明日」
帰りだしたのは岬だ。
実は岬の家は、奈菜の家へ行く途中にあった曲がり角で右に曲がった先にある。
当然、裕司ももと来た道を行くため、少しも間だけ二人きりだ。
まあせいぜい数十秒だが。
岬が小走りで裕司の横まで来た。
「結局、鈴音があんなことなったのって、なんでなんだろう?」
「さ、さぁ、それは本人じゃなきゃ分からないでしょ」
「そうだよね」
「まあ、明日、ちゃんと神田さんから話を聞こう」
「考えたってわかんないものはしょうがないよね」
やはり、岬とは長い時間目を合わせられない。
どうしてもすぐに目を逸らしてしまう。
「それじゃあ、うちこっちだから」
「う、うん、じゃあね」
「うん」
岬は向こうへと走っていった。
ちょっとした幸せは、すぐに終わりを告げた。
物足りない気もしたが、それでも十分ドキドキしていた。
「さて、結局なんなんだろうな、落ち込んでる理由」
それは、裕司がいくら考えても、分からなかった。
すみません! 今回かなり長くなってしまいました。
文章を削ることができませんでした。
作文を書く時とは感覚が大きく違い、文を削ろうとしてもできません。
これからちょっと長めの回が増えていくかもしれません……。
ちなみに次回は少し短めの予定です。