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3話 前とは違う帰り道

 外から聞こえてくる放送が、帰る時間だと伝えている。

 

 今日も、特に何も起こらず、部活が終わった。


 ミーティングの後、部員はガヤガヤと話しながら、音楽室を出て行く。

 裕司もその波に乗って教室から出た。


 外に置いていた自分の鞄を手に取り、そこに楽譜や水筒を押し込む。

 そのまま、少し重くなった鞄を背負い、まだ騒がしいフロアを出ようとした。


 しかし、誰かに鞄を掴まれ、裕司の動きは止められた。


「おっと」


 思わず後ろに倒れそうになったが、なんとかふんばる。


「おい待て明石」


 振り向くと、蒼と目が合った。


「ん? どうした?」


 とりあえず、すっとぼけてみる。


「土曜日、一緒に帰るって言ったよな」


「あぁ……そうだったっけ?」


「お前ほんとは覚えてるだろ」


 もちろん、覚えている。誰かと帰るなんて久々で、嬉しかったから。


 だが、どうしても()()()()が頭をよぎった。


「ごめん、ちょっとした冗談だよ」


 蒼は、小さくため息をついた。


「やっばりな。じゃあ、みんなで帰ろうぜ」


「お、おう」


 一緒に帰りたい、と思っていることは事実なので、残りの四人が準備できるまで待つことにした。



 今、六人は二つに分かれていた。もちろん、男女だ。

 前に女子六人、後ろに男子三人がいるような形になって、歩いている。


 当然、今日も蒼と彰は自分の通学路と違う方向に来た。

 だが、裕司は帰るつもりでいた。


「ごめん、今日急ぎの用があるんだ」とでも言って、普段通っている道の一つ手前で曲がる作戦だ。


 工事はまだ終わっていないので、別ルートから帰るしかない。


「明石、どうかした?」


 岬が振り返ってくる。


 思わず目を逸らしてしまう。


「ただ考えごとしてただけ」


「そっか。ならいいんだけど」


 岬はそれだけ確認すると、また前を向いて鈴音と話し始めた。


 裕司は軽く息を吐く。


「……突然はやめてくれよ」


 誰にも聞こえないくらいの声で文句も言った。


「どうした?」


「いや、なんでもない」


 蒼に気づかれそうになったが、適当にぼかしておく。


 すると今度は、奈菜が勢いよく振り返ってきた。


「みんな、テストどうだった?」


「思い出させるなよ!」


 蒼は迷惑にならないくらいの声で叫んだ。


 今日は2年生になって最初のテストが返却される日だった。

 どうやら蒼はあまりよくなかったらしい。


「木下のクラスは何が返ってきたんだ?」


 彰とはクラスが違うので聞いてみる。


「国語、数学、理科」


「英語はまだか」


「じゃあ明石のクラスは?」


「数学、理科、英語」


「確か、国語は明日だっけ?」


 奈菜が聞いてくる。


「そのはずだよ」


 裕司と奈菜、蒼、岬は二年二組で、同じクラスだ。

 彰は五組、鈴音は三組だったはずだ。


「社会は返ってくるの明後日かな」


「火曜日は社会ないから、そうなるな」


 そんな話をしていると、横断歩道に差し掛かる。

 ここを渡った先にある交差点から帰るつもりなので、そろそろ言い訳をしておくべきだろう。


「あのさ」


「ん?」


「何?」


 蒼と奈菜が首を傾げる。


「……やっぱ、なんでもない」


「なら何も言わないでよ!」


「ごめんごめん」


 裕司は言おうとした言葉を飲み込んだ。


 楽しそうに話す蒼達を見ていると、わざわざ抜ける必要なんてないんじゃないか、と思えてきた。


 裕司は別に彼等と一緒に帰りたくないわけではない。むしろ、仲良く話しながら帰りたかった。

 だが、仲良く一緒に帰ることで、思い出したくないことを思い出してしまうかも知れない。


 それでも裕司は彼等と一緒に帰ることにした。


 彼等とのこうした時間を、裕司は少しだけ、楽しんでいたからだ。

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