2話 遭遇
ただ帰っているだけなのに、なんだか悪いことをしている気分になってくる。
そのせいで、会話を聞くために遠くからこっそり耳をすませたり、5人が信号で止まっているときは歩く速度を落としたりしていた。
「もうこれ完全にストーカーだぞ」
そんな言葉が自分の口からこぼれるほど、裕司の今の行動は怪しかった。
周りに人がいなかったことが唯一の救いである。
しかしそんな行為もここで終わり。裕司は目の前の交差点で左に曲がる。
彼女たちは普段から真っ直ぐ進んでいる。今日は彼らと共にそちらへ行くのだろう。
もう少し彼らを見ていたい気持ちを抑え、裕司は左を向いた。
しかしそこには「工事中」の看板が立ってていた。
「あれ、いつの間に……」
「ごめんね、ここ今朝から工事してるんだよ。悪いけど、ひとつ向こうの道から行ってくれないか?」
朝は違う道から来たせいで気がつかなかった。
裕司はしぶしぶ頷く。
「わかりました」
もう一度右を向き歩き出す。
しかしそのとき、裕司は完全に警戒を怠ってしまった。
「あ、明石じゃん」
(しまった!)
「……よう。珍しいな、こっちで会うなんて」
彼らの中の一人、蒼に気付かれてしまった。
仕方なく、彼らに近づいていく。
「明石って、普段こっちだったっけ?」
奈菜が首をかしげる。
「あっちが工事中で通れなかったんだよ」
「あ、工事してたね」
それ以上は何も言ってこず、五人は歩き出す。
裕司はその三歩ほど後ろを歩く。
するとすぐ、全員こちらを振り返った。
「え、ちょっと何してんの?」
「いや、ただ歩いてるだけだけど」
五人は「こいつ何言ってんだ」みたいな顔をしている。
「そうじゃなくて、なんでそんな後ろ歩いてんの?」
どうやら、楽しい雰囲気を邪魔しないようにした裕司の気遣いは、気付いてもらえなかったようだ。
「いや、楽しそうだったし邪魔しちゃ悪いかなって」
伝わらないなら言うまでだ。
「なんで? 一緒に帰ろうよ」
「……は?」
当たり前のように言われ、間抜けな声が出てしまう。
裕司はここ数ヶ月、誰かと下校を共にしていなかった。
前はいたのだ、毎日一緒に帰っていた人が。
だがその人は今いなかった。
「ほら、行こうよ」
だから、そう笑いかけてくれることに、裕司は少しだけ嬉しくなった。
「わかった」
裕司は表情を隠しながら、彼らに二歩ほど近づいた。
三十分後。
裕司たちは今、鈴音の家の前に座っている。
裕司と会った場所から100mほど歩いたところに鈴音の家があった。
家の前に少しだけスペースがあり、中学生六人が座るには丁度いい場所だった。
そして、そこに座って話していたら、あっという間に時間は過ぎていった。
学校を出たのが一時前だったはずなのに、もう一時半を過ぎていた。
「みんな、一時半過ぎてるよ!」
家に入って時刻を確かめた鈴音が、家の扉から顔を覗かせた。
「もうそんな経ってたのか」
裕司がポツリと呟く。
「じゃあそろそろ帰ろっか」
鈴音が呼びかけると、全員が降ろしていたリュックを背負った。
「いやー、今日楽しかったね」
真っ先に立ち上がった岬がそんなことを言う。
「うんうん、楽しかった!」
「ほんと、意外とね」
「まあ、確かにな」
それぞれが頷く。
「じゃあさ、これからもみんなで帰ろうよ!」
鈴音が目をキラキラさせながら提案してくる。
「お、いいね」
「そうしよう!」
「いいんじゃないか」
「別にいいよ」
「みんなが言うなら」
きっと鈴音が提案しなくても、誰かが言っていた。
もしかしたら、誰も言わなくても明日からも一緒に帰っていたかもしれない。
「オッケー! それじゃあ、また月曜日ね!」
鈴音はそのまま、扉を閉めた。
「そんじゃ、俺らも帰るか」
裕司以外の4人は同じ方向に歩いていく。
彼らに背を向け、裕司も歩き出す。
「じゃあな、明石」
「おう」
4人に軽く手を振っておく。
そして、現在に至る。
裕司の胸の中は、喜びで包まれていた。
独りで歩くことには慣れていたが、こうして誰かと帰る楽しさを、改めて感じることができた。
「それに……」
裕司は頭の中に浮かんだ想いを、そっと胸にしまう。
「明日から楽しみだな」
少しだけ強い風が、裕司の頬をなでた。
改めてはじめまして!
ここまで読んでくれてありがとうございます。
初めての投稿で、拙い文章になっていることは、許してください。
この作品の中の私も、今の私自身も成長していく予定です。
これから、よろしくお願いします!