1話 発見
4月20日。
今日も部活が終わり、荷物をまとめた生徒から、友達と音楽室を出て行く。
あちらこちらで「さよなら!」という声が聞こえてくる。
だか、楽器の片付けが遅れていた明石 裕司は、音楽準備室でホルンをケースにしまっていた。
そのため、準備室を出ると、鍵を閉めるために残っていた部長とその友達、先生しかいなかった。
裕司が準備室を出ると、部長はすぐに扉を閉めた。
「さよなら」
「さようなら」
こちらが挨拶を返すと、部長たちは廊下を歩いて行った。
「それじゃあ、さよなら」
先生にも一言挨拶をしてから、裕司は音楽室のあるフロアから出た。
校門を抜けてしばらく歩くと、前方を歩く集団が見えてきた。
先ほど教室を出た部長たちかと思ったが、そうではないらしい。
彼女たちは、吹奏楽部二年生の「高村 奈菜」「砂川 岬」「神田 鈴音」だ。
3人は小学校からの付き合いらしく、帰り道でよく騒いでいるのを見かける。
「神田さん、笑い声でかいな……」
今日も、少しうるさいくらいの笑い声が聞こえていた。
しかし、気になるのは別のことだ。
そこに、普段はいない別の人間がいるのだ。しかし彼等もまた、裕司のよく知る人物だった。
そう「彼等」だ。
つまり、裕司と同じ、数少ない吹奏楽部男子部員だ。
名前は「生田 蒼」「木下 彰」である。
この二人は十年来の友人らしく、部活でもよく一緒にいる印象があった。
この五人が部活中よく話しているのは見ているが、一緒に帰っているところは見たことがなかった。
珍しい光景だったので、ついそちらに意識を向けてしまう。
少し距離があり、会話の内容までは聞き取れなかったが、楽しそうなことは伝わってきた。
別に、羨ましいから見ているわけではない。
ただの興味本位である。
そのまま歩いて行くと、T字路にさしかかった。こちらから見ると、Tを右に90度回転させた形だ。
そして、ここで蒼たちは真っ直ぐ、奈菜たちは左に曲がるため、楽しい会話の時間はここで終了となる。
もちろん、今まで一緒に帰っていなかったのも、ここですぐに別れてしまうからだ。
(ちょっとくらい会話に入ってもよかったかな)
そんな後悔が頭をよぎったが、もう遅い。
ということはなかった。
蒼と彰が考える素振りも見せず左へ曲がったのだ。
予想と違う行動にわずかに驚く。
「あいつらの通学路って、あっちじゃないよな?」
もちろん、その問いに答えてくれる人はいない。
だがそんなことは関係ない。裕司は彼等の後を追うように、左へ進んだ。
なぜかって? もちろん、裕司の帰り道も、そちらだからである。
初日はあと1話で終わります。