18話 男子の現状
最近課題に追われていて、書く時間が全くありませんでした。
「は? 今日帰るのか?」
部活に行こうとしたら、蒼に呼ばれて「今日部活休む」と言われた。
「すまん。今日用事があって。じゃあ、先輩に伝えといてくれ」
「わ、分かった」
裕司の返事を聞くと、蒼はそのまま歩いて行った。
「砂川さんに伝えたほうが早いだろ……」
同じクラスなら岬に言えば済む話なのに、なぜか裕司に言ってくる。
その理由はよくわからないが、とりあえず部活に向かう。
廊下を歩いていると、前を歩く奈菜と岬を見つけた。
都合がいいので近づいていく。
「ねぇ、砂川さん」
「「うわっ!」」
二人の肩が同時に跳ねた。
「そ、そんなに驚かなくてもいいじゃん……」
「いやだって普通に気付かなかったんだもん」
「お前影薄いんだよ」
それに関しては自覚があった。後ろから話しかけると、たいてい驚かれるのだ。それに、「あ、明石のこと忘れてた」はよくある。
別に傷つくことは無い。むしろ、ひとりで本が読めるので、それはそれで都合がいい。
誰からも話しかけられないのは寂しいのだが。
「で、何? うちに用事があるんでしょ?」
「あ、うん……」
やはり、目を見て話すのは緊張してしまう。
「生田が今日、部活休むってさ。先輩に伝えといて」
「は? なんで?」
「家の用事があるんだと」
「それ、うち知らないんだけど……」
岬はイライラ半分、驚き半分みたいな顔をしていた。
「……なんでパートの人に伝えてないんだよ、あいつ」
裕司はぼそりと呟く。
「それじゃあ、要件はそれだけだから」
そして、足早に二人の傍を離れた。
一応早めに行って、部長には伝えようと考えたのだ。
せめて、蒼から言われたことは、果たすつもりだった。
一方そのころ。
「……蒼、帰っちゃったんだ」
「岬ちゃん、寂しそうだね」
「そ、そりゃ、パートで2年独りだし……」
奈菜はニヤニヤと笑っている。
そんな会話が繰り広げられていることなど、裕司は知る由もない。
「ゆうちゃん、ここ、ずれてるよ」
「すみません……」
今は点呼も終わり、パート練に移っている。
「ここみんなできてるよ?」
「は、はい……」
先ほどから、マーチの裏メロで、どうしても間違えてしまう。
いつもは明るいだけの先輩も、今日は怖く見える。
やはりコンクールにかける思いは相当なものなのだろう。
なんせ、最後のコンクールなのだから。
「ちょ、ちょっと一人で練習してきます」
裕司は俯いたまま、立ち上がる。そして、そこから逃げるように教室を出た。
廊下にあった机にホルンを置くと、その場にしゃがみこんだ。
「はぁぁ」
深いため息が漏れる。
「なんでできないかなぁ」
理由は分かっているのだが、どうしても文句は出てしまう。
練習をあまりしていなかったことは、裕司自身が一番理解していた。
自分なりにはしていたつもりだったが、やはり裏打ちをメインで練習しすぎたようで、こちらはおろそかになっていた。
「まあ、練習するしかないか」
いつまでもこうしていたら、それこそ本当に練習ができなくなってしまう。
裕司はよろよろと立ち上がり、楽器を手に取る。
それから、少し遅いテンポで、指を動かし始めた。
「なんか男子がいないの久しぶりだね!」
「今日は蒼がいなくて彰も帰っちゃったしねぇ」
「……俺いるんだけど」
今日の帰り道は、裕司以外男子が帰ってしまい、男女比1対3である。
ふと奈菜が後ろを振り返ってきた。
「明石、今日大丈夫だった?」
「え? あぁ、一応独りで練習したから、ちょっと進んだよ」
「そう? ならいいんだけど。でも、練習ちゃんとしてね」
「分かったよ……」
こうして言われると案外ダメージを受ける。
奈菜と三浦は毎日しっかり練習していたので、今日も問題なくできていた。
「え、なんかあったの?」
「今日明石がね――」
三人の会話を聞きながら、裕司は男子二人に心の中で応援要請を出す。
が、当然届くはずもなく、裕司の気まずさを晴らしてくれる人は現れない。
そこで裕司は、ひとりで帰ることにした。
だがここで「俺帰るわ」と言ってもつまらないので、そっとその場を離れる。
そして、曲がり角を曲がり、全速力で走りだした。
「あれ、明石?」
そんな声が聞こえてくるが、無視だ。
「あ、いた!」
奈菜の高い声が耳をついた。
思わず足が止まる。いや、わざと止めた。
「……なんだよ?」
「勝手に帰らないでよ!」
奈菜はちょっと呆れている感じだ。
また構ってほしいアピールだと思われているようだ。
「ごめんごめん。分かったよ」
そう言って近づいていく。
結局、男子が一人のまま帰ることになってしまったようだ。
本当は、誰かに声をかけてもらえることを求めていたのだが、この際これは秘密だ。
「それにしても、なんで木下は来なかったんだよ」
「彰はいっつも蒼について行ってる感じだから仕方ないよ」
「まあ、それもそうか」
今は3人と1人ではなく、ちゃんと4人で帰っている。
本当は今すぐにでも逃げ出したいくらい恥ずかしいが、耐えるしかないだろう。
由美のことがあってから、女子に対して苦手意識を抱くようになってしまったのだ。
「蒼って、今日なんで帰ったのかな?」
「あいつは用事って言ってたぞ」
奈菜は首を傾げた。
「何なのかは言ってないよねぇ」
「確かに、言われてみれば……」
蒼は「用事がある」としか言っていなかった。
だから、嘘の可能性は十分にあった。
「ま、明日になったら来るだろ」
「そうだね」
明日聞こう、と考え、蒼のことを考えるのは一旦やめた。
だが次の日も、蒼は部活を休んだのだった。
ここからまた数日、投稿できない日が続くかもしれません。
ですが終わったら、できるだけ早く投稿します。
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