17話 吹奏楽部の一大イベント
ついに吹奏楽部に欠かせない「アレ」の時期が始まります。
「ついに発表されたな、アレの日」
「やっと、ってかんじがするね」
「みんなは、今のところ自信ある?」
「……ちょっと心配かも」
今日の帰り道は、どこか暗い空気が漂っていた。
帰り道も、全員が不安げな顔をしている。
理由は今日、先生から伝えられたアレのことだろう。
「一カ月後か、コンクールのオーディション!」
そう、コンクールの出場者を決める、オーディションだ。
「全国吹奏楽コンクール 中学校の部」は、出場できる人数が最大で50人なのだ。それに対して、この吹奏楽部の2,3年は合計で53人いる。原因は2年生が32人もいることだが。
だからオーディションを行って、人数を削らなければいけないのだ。
「落ちる気しかしないよぉ」
奈菜が弱気な声を出す。
「うちだって、まずいかもしれないよ……」
岬も不安なようだ。
「一応言っとくけど、この中で一番下手なの俺だからね!」
周りの浮かない顔を見ていると、ついそんな言葉が口をついて出ていた。
努力してこなかったことが悪いが、裕司はこの中で一番下手だ。それは自信を持って言える。
その言葉に対しては、全員が苦笑いを浮かべていた。
その反応が一番傷つくのだが、全員分かっていそうな気がしたので、その言葉は飲み込んだ。
「でもさ、やっぱり一番は緊張せずにできるか、ってことじゃないか?」
蒼がぼそりと呟く。
「あ……そうだね……」
先ほどよりも全員の顔が暗くなる。比較的ましだった鈴音の顔も、落ち込んでいるように見える。
「あそこ入るの、緊張するんだよね」
「わかるわかる。先生の目、怖いもんね!」
「何よりもあれのせいで失敗しそう」
オーディションは基本、先生3人と自分の3対1で行う。
そこには普段温厚な先生もいるのだが、そのときだけ目つきが変わるのだ。
その顔だけで足がすくむことは、去年経験済みだった。
「あれは、先生の顔見ないほうがいいぞ」
「もともとそのつもりでいた」
蒼が食い気味に肯定してきた。彼はあの先生の目が苦手なのかもしれない。
「でも、外に同じパートの子とか先輩とかがいるのは心強いよねぇ」
奈菜はこの空気を払いのけるような声で話し始めた。
あえてこんな声を出しているのか、ただ単にバカなのかは知らない。
「ま、まあな……」
「……」
しかしなぜか、その空気が変わることは無かった。
本当は、残り全員が「空気が重くなった……」と感じたのだが、裕司は全く気付かなかった。
「じゃ、じゃあみんな、これからコンクール練習がんばろ! みんなコンクール出よ!」
半ば強引に奈菜が話題を変える、というか終わらせにかかってきた。
「そうだね、考えてても意味ないし、家で楽譜とか読も!」
「まあ、頑張ろっか。ほら、お前らも!」
岬が軽く二人を睨みつける。
「……お、おう」
「……あぁ、分かったよ」
男子陣二人は少し歯切れが悪いながらも返事をした。
「あー、俺そろそろ帰るわ。また明日な」
こういうとき、こうして抜ければ「じゃあ私たちも」となり、重たい空気がまだましになるはず、と考えての行動だ。
「分かったよ。じゃあな」
蒼は少しだけ口角を上げて、軽く手を振った。
彰に関しては、今日しゃべったところをほとんど見た記憶がなかった。
蒼の笑い方も、彰のことも、少しだけ疑問に思った。
が、そのこともあまり気にせず、裕司は曲り角を左に曲がった。
今回は、コンクール編のプロローグ、みたいなイメージで書きました。
今度は誰の話になるか、予想はついたでしょうか。
文章が少し粗いと感じてしまった方、すみません。
いかんせん時間がないもので……。