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中くらいの青春〜帰り道日記〜  作者: 明石 裕司
一章 六人の帰り道
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13話 いつも通りに

 裕司たちで考えた作戦は、効果抜群だった。

 あれから一週間ほどは態度を変えなかった後輩たちも、さすがにまずいと感じたのか、少しづつ自主的に練習するようになった。

 そしてついに、昨日謝りに来た。


「先輩方、今まで本当にすみませんでした!」


 そう深く頭を下げられれば、許さないわけにもいかないだろう。

 それに今、ほかの二人より一歩前に出ている彼女は、鈴音とドアのところで鉢合わせた子だ。

 あれ以来一番反省したのはこの子だったようで、準備室の前を通りかかったときに、残りの二人に「練習ちゃんとしようよ」と呼びかけていた。


「じゃあ、これからはその調子でがんばりなよ」


「「「はい!」」」


 返事も、以前とは比べ物にならないほど、はっきりした声になっていた。



「それで、今日練習してたんだけど、やっぱりみんな生き生きしてて。やってよかったな、って思った」


 鈴音は、左に座る5人の顔をもう一度見る。


「ほんと、みんなありがとね!」


 そして、自分の心からの感謝を込めて、思いっきり笑った。




 裕司は鈴音の笑った顔を見ていた。

 その表情はやはり前までとは明らかに違うもので、作っている印象は一切なく、ただ素直な気持ちを表しただけの、まっすぐな笑顔に見えた。


「いや、うちらはほとんど何もしてないって」


「みんなの考えがあったからだって」


 首を振ったのは奈菜だ。


「やるって決めたのは鈴音ちゃんなんだから、鈴音ちゃんがすごいの!」


「そ、そうかな……」


 見ると、頬がわずかに赤くなっている。


「それにさ、まず俺たちに話した時点で、相当だろ。辛い悩みを吐き出すのって、嫌な時あるしさ」


 蒼もつぶやく。その声はどこかリアリティがあった。


「そうそう、だから気にしなくていいって、そんなの面倒じゃん?」


 彰の言葉はきっと本心だろうが、優しさが垣間見える気がする。


「ま、まあそういうことにしとくよ」


 今度は照れたような顔をしていた。

 鈴音の顔を見ていると、笑顔にもいろいろあるのだと思わされる。


「じゃ、じゃあ、今日は部活、どんなことあったの?」


 気を取り直したといわんばかりに鈴音が強引に話題の修正にとりかかった。


 裕司は楽しそうに話す5人を見ながら、ひとり呟いた。


「……なんか俺だけ取り残されてるな」


 みんなまるで裕司がいないかのように振る舞っている。

 存在感が薄いうえ、今日は一言も話さなかったことが影響しているのかも知れない。


 裕司は小さく肩を落とした。


 自分で言うのは恥ずかしいが、正直鈴音の悩みに関しては、貢献したほうだと思う。

 この解決策も、悩みのヒントも考えていた。


 それなのに、裕司はいつものように隅で静かにしていなくてはならない。

 さきほども、座っている位置が右端と左端だから仕方ないのかもしれないが、一瞬しか目が合わなかった。


(なんで俺だけこうなるのかな……)


 胸の内に濁った感情が沸々と湧き上がってくる。

 が、すぐに押しとどめる。


 すると今度は、唐突な不安に襲われる。


(やっぱり、俺って嫌われてるのか?)


 そのとき、裕司の頭に、()()()()の声が響く。



『もう会いたくないと言っているので、かけてこないでもらえますか?』



「――っ」


 やはり、まだ胸を鷲掴みにされたような痛みが走る。

 

「明石、どうしたの? そんな離れて」


「かまってほしいアピール?」


 突然声をかけられ顔を上げると、奈菜と蒼が呆れたような顔でこちらを見ている。


 それだけで、不安な気持ちが少しだけ和らいだ。

 誰かに話しかけてもらえるだけでこの様だ。とことん自分は単純なのだと思わされる。


「べ、別に何でもない。ただ、みんな仲良さそうだなぁ、って思っただけ」


「ほらやっぱり構ってほしいんじゃん」


 裕司は構ってちゃん気質がある。それは一応自覚していた。


「そんなとこにいないでさ。みんなで話そうよ」


 鈴音もすっかり調子が戻ったらしく、声はどこか明るい。


「でも、なんとなく入りづらくて」


 だが今は、正直入る気になれなかった。

 昔からあまり人と話すのは得意ではなかったが、今では正直苦手だ。

 いつも嫌われているのでは、と怯えている。

 それに、人の言葉を信じることすらできなくなっていた。


 それなのに裕司は、人を嫌いになれない。むしろ、人と話すことや誰かといることは、好きだった。

 このメンバーで帰ることも、幸せに感じていた。


 だが、不安というのは一つでも抱いてしまうと他のことにまで広がっていくものだ。

 今は「きっと5人の方が楽しいだろう」という考えが、頭から離れなかった。


「ごめん、今日は帰るわ」


「え、もう?」


「ちょっと今日親が早めに帰ってきてるから、怒られるかも」


「それなら仕方ないか」


 裕司は苦笑いを浮かべる。


「また明日」


「うん」


「じゃーな」


 裕司はいつも通り、元来た道へ引き返す。


 見上げると、西の空に大きな雲が見えた。

これでとりあえず鈴音の話は終了しました。

いかがでしたか?

もし「おもしろい!」「こんなことあった!」と思っていただけたのなら、高評価&ブックマークお願いします。感想も待ってます。


ここまでで、一緒に帰るようになって、まだ一カ月しか経っていません。

これからもまだまだ続きますので、よろしくお願いします。


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