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中くらいの青春〜帰り道日記〜  作者: 明石 裕司
一章 六人の帰り道
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12話 パーカッションの解決策

しばらくぶりの投稿です。今回は少し短めです。

「鈴音」


 鈴音がパート練習の準備をしていると、後ろから声がかかる。

 振り返ると、そこに立っていたのは岬だった。


「どうしたの?」


「いや、ちょっと心配になって……でもその様子なら大丈夫そうだね」


 鈴音は苦笑いをする岬に、いつものような満面の笑顔で応える。


「もちろん、もう大丈夫!」


 もう苦しさや悲しさがなくなったと言えば嘘になるが、今は本当にわずかしかなかった。


「さ、岬も早く蒼のところ行ってきなよ!」


 岬と蒼は同じユーフォニアムパートだ。

 ツッコミを期待しながら、からかうような言葉で元気さをアピールしようとした。


「う、うん……」


 だが、その反応は予想と違うものだった。

 なぜか一歩引いている感じだ。


「え、ユーフォパートで何かあった?」


「い、いや、何でもないから! じゃあうち、行ってくる」


 岬は足早に立ち去っていった。

 鈴音は首をかしげる。


「……何かあったみたいだけど、聞くべきじゃないかな」


 まずは、自分の問題を解決しなければいけない。

 鈴音は準備を整えて、先輩たちのほうへ向かった。


「先輩、あとでちょっと話があるんですけど、いいですか?」


 先輩は一瞬だけ訝しむような視線を鈴音に向けてきたが、すぐに了承してくれた。


 一年生との練習が終わり、三人は向こうの教室に荷物ごと移動した。


 そして、完全にいなくなったところで、先輩がこちらを見てきた。


「で、話の内容ってのは、あの子たちのこと、だよね?」


「はい。だから、みんなにも聞いてほしいです」


 その言葉で、練習を始めようとしていた2,3年生全員がこちらを向いた。

 鈴音は何度か深呼吸をすると、最初に話を持ち掛けたパートリーダーに向き直る。


「一度、一年生の子たちに何も教えないようにしたいんです」


 まっすぐ目を見て、鈴音は言った。


「……なるほどね。じゃあなぜそうするかはあなたから説明して?」


 先輩は恐らく分かっている。だが、それをあえて鈴音に言わせるということは、鈴音の意思を試しているのだろう。

 鈴音は先輩から目を離し、振り返って全員の顔が見えるようにした。


「絶対、今みんな私たちのことなめてますよ。きっと『先輩はちゃんと面倒見てくれる』とか思ってるんです。だから、一回そうして先輩の仕事を放棄したら、あの子たちも自分たちのしたことの意味が分かって、焦りだすと思うんです。さすがに完全無視はひどいんで、多少の会話はしますけど」


 全員、鈴音の顔をまじまじと見つめていた。


「鈴音、あんた何かあった?」


「鈴音って普段そういうこと言わないよね」


 それは自分でもわかっている。

 これは友達から得たアイデアなのだから。


「先輩、どうですか?」


 鈴音はもう一度、先輩の目をじっと見た。


「……分かった、そういうことならやってみよう」


「そうですよね……って、え?」


 鈴音のお願いは、先輩としてはおかしいもので、認めてもらえるとは正直思っていなかった。

 だから、先輩があっさり了承してくれたことを、一瞬聞き逃してしまっていた。


「いいんですか?」


 すると、先輩は表情をわずかに緩めた。


「だって、これは鈴音が自分でやろうとして、誰かと考えたものでしょ? それを頭から否定するようなことはしないよ。それに、理由もちゃんとしてたしね」


 やはり、自分以外のアイデアだとバレていたようだ。


「ま、そういうことだから。みんな、あの子たちが反省してちゃんと練習する気が生まれるまで、何も教えず、あんまり話さないこと。いい?」


「「「はい」」」


 その場にいた全員が、隣の教室に聞こえないくらいの声で返事をした。

鈴音編はもう少しで終わります。

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