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中くらいの青春〜帰り道日記〜  作者: 明石 裕司
一章 六人の帰り道
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11話 共有した問題

最近ちょっとプライベートの方でいろいろと立て込んでいて、投稿が遅れてしまいました。

そのせいではないですが、今回は長めです。(最近長いのが多い気がする……)

 鈴音はその話を、少し明るい口調で話した。

 だがところどころ声は震えていた。言葉に詰まることもあった。

 裕司たちは、それを黙って聞くことしかできなかった。


 話し終えると、鈴音はふぅ、と軽く息を吐いた。

 そして、周りにいた三人に苦笑いを向ける。


「みんな、ありがとうね」


 きっとみんなを心配させたくなくて、あんな口調で話したのだろう。

 だが今回、それは逆効果だった。


「鈴音ちゃんっ!」


 奈菜が鈴音にギュッと抱き着いた。


「え、ちょっと、奈菜ちゃん?」


 鈴音が戸惑っていても、奈菜はお構いなしだ。


「気づいてあげられなくてごめんね。ヒッグ、鈴音ちゃん、そんなに一人で抱え込んで……。ほんどに、グスッ、ごめんねぇ」


 奈菜は先ほどの鈴音と同じくらい涙をこぼしていた。


「もう……泣かないでよぉ」


 鈴音もまた、泣き出してしまう。


 ここまで涙もろい鈴音は、正直信じられなかった。

 だが、それだけ心が不安定になるまで抱え込ませてしまったことに、裕司も少なからず罪悪感を覚えた。


 すると、今度は岬も鈴音を抱きしめる。


「なんで、そんなに抱え込んじゃったの? うちらにならいつでも話してよかったのに」


 泣いていないようだが、やはり心を痛めているようで、その表情は悲しそうだ。


「これは……ヒッグ、自分で、解決しないとっ、いけないと思ったっ、から……」


 鈴音は泣きながらでも一応答えた。

 その答えは間違っていると思うが。


「そんなことないぞ」


 蒼は表情を変えないまま、鈴音に言う。


「いつでも頼ってくれよ、友達なんだしさ」


 そして、ちょっとだけ笑って見せた。


「……うん」


 鈴音は涙を手で拭いながらうなずいた。


 これが何かの物語なら、恋が始まりそうなシーンだった。


「……なんか俺らだけ取り残されてるよね?」


「たしかにそうだな」


 少し遠くでその四人を見守っていた二人は、ぼそっと呟いた。




 泣き止んだ時、鈴音はいくらかすっきりとした様子だった。

 誰かに話したことで、心への負荷が減ったのだろう。

 それだけでも、今日話を聞いた甲斐があった。


「もうほんとに大丈夫だから」


 鈴音は今までのような元気な笑顔になった。

 それは、ここ最近全く見ていなかった表情だ。


(笑顔にもいろいろあるんだな)


 裕司はそんなありきたりなことを改めて知った。


「で、結局どうするつもりなんだ?」


 切り出したのは蒼だ。

 いくらこうして精神への負荷が軽くなっても、原因がそのままならば意味がない。

 解決するしかないのだ。


「……ピアノは、自分で頑張ってみる。テンポ遅くしてやれば多分できるから」


 その言い方から察するに、そういった練習をしていなかったのだろう。

 基礎中の基礎のことを忘れてしまうほど、心が荒れていたのだろうか。

 それは本人にしか分からないのだが。


「でも……」


「後輩の方は、難しいか」


 鈴音はこくりとうなずく。


 やはり大きな問題はこちらだ。鈴音が自信をなくすきっかけになった一番大きな出来事。

 だがこちらに関しては、ほかの人の意識を変えなければいけない。それも、今は完全にさぼっている人たちの意識を、だ。

 きっと、そう簡単にはいかないだろう。


「今、一年生はどんな感じなの?」


 泣き止んだ奈菜が質問を投げかける。


「ほんとにやる気ないよ。練習中もずっと三人で話してるし」


 奈菜がこちらを見てきた。

 さすがの裕司でも、この意図くらいは分かる。


「本当だよ。あと、一年生だけの練習の時は、練習をほとんどせずに駄弁ってる。それも、悪口なんかもあって、聞いてて気持ちいい会話じゃなかったな」


 自分でもデリカシーのない発言だと思ったが、一応伝えておくべきだろうと判断した。


 裕司の話を聞いて驚いていたのは、意外にも鈴音と岬だった。

 鈴音は事情を知っていると思っていたし、岬に関してはまったく理由が分からない。


「明石、なんで知ってんの……」


「え、何ストーカー?」


 二人からの言葉と嫌悪感をはらんだ目で、裕司はやっと意味を理解する。

 裕司が細かく知っていたことに驚いていたらしい。


「……ただ水筒取りに行ったとき聞こえただけ。ストーカーとかじゃないよ」


 裕司には一カ月前、みんなを後ろからこっそり追いかけていたという前科があるので、強くは否定できなかった。


「ま、まあそれなら分からなくもない、かな」


 警戒は解かれていないが、一応疑いは晴れたようだ。


「で、明石は、どうすれば解決できると思う?」


「あれは……ちょっと難しいかな。部活をなめてる感じだった。そういうもんじゃないって気づかせる方法があればいいんだけど……」


 やはりそういう人たちには実際に分からせなければ意味がない。


「じゃあ、一回無視し続けてみたら?」


 意見を出したのは岬だった。


「え、それはちょっとひどくない……?」


 その提案に鈴音は乗り気ではない。


「でも、鈴音とかが甘やかしてる間は、きっと言うこと聞かないよ」


「……別に甘やかしてるわけじゃないんだけどな」


 確かに、いつもより声を荒げて怒ったりしていたので、それは事実だ。

 だが、そういう気持ちではいけない。

 怒られると、人は反発したくなる。本人たちが「自覚」するには、岬の方法は妥当と言えた。


「俺も賛成だな。でも、そこまでひどくしなくても、練習方法を教えないとか、基礎すら自分たちでやらせたりするとか、多少突き放すくらいでいいよ」


「そう……なのかな」


 まだ不安そうだ。

 裕司たちは先輩になってまだ日が浅い。この方法が合っているかは分からないが、何もしないよりはましだろう。


「まあ、明日先輩に聞いてみろ。で、この作戦についても話しといたら?」


 蒼はまるで会議の進行役のように、これからの方針を確認していた。

 実際蒼はクラスでも委員長をしているので、リーダーに向いているのだろう。


「そうしてみるよ」


 鈴音はまだ迷っている様子だったが、一応うなずいてくれた。


「じゃあ、今日はそろそろ帰るか」


「そうするか」


 いつも真っ先に立ち上がるのは彰だ。

 それに続いて、奈菜、裕司、鈴音、岬、蒼の順で立ち上がった。

 蒼と岬は足腰が弱いらしい。


「みんな、今日はありがとね」


 鈴音はまだ泣いた跡の残る顔で、笑顔になって見せる。


「おう、いつでも相談には乗るからな」


 弱ってるときに言われたら惚れてしまいそうなかっこいいことを言う蒼。


「ほんと、次はここまで抱え込む前に言いなさいよ」


 お母さん、というよりおばあちゃんみたいな岬。


「鈴音ちゃん、ファイトファイト!」


 子どもっぽい言い回しをする奈菜。


「……まあ、頑張れよ」


 どこかめんどくさそうな彰。


 人のかける言葉と言い方によって、ここまで一人ひとり差が出るものなのだと、裕司は少々驚いていた。


「じゃあ、また明日」


 裕司が何を言っても意味がないような気がして、一番気軽な言葉を選んだ。


「うん、みんな、また明日ね」


 この笑顔ができれば、きっと彼女はもう大丈夫だろう。

 そんな確信とともに、裕司はひとり来た道へと歩いて行った。

 鈴音の話は、もう少し続きます。


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