第7話 神の愛、少女の事情
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「……わかるのですか……?」
「ああ」
俺にはわかる、この名前もわからない女が神様ってやつらに愛されているということが。
なぜなら俺は神様にチート能力をもらってこの異世界にやってきた。
そのおかげで神の気配というものに敏感になっているのだ。
自分が使っていた力の感覚。それと同じものをこの女からも感じる。
ただ俺のものと違い、彼女が本来持っている純正のものだ。後付けではなく先天的に神からの祝福を得たものだろう。
おそらく才気となって彼女の力となっているだろう。
だが、効果は変わらない。
神の力は超常そのもの。この世界の理を超えた、理そのものの力だ。
まさしくこの世界におけるチートというわけだ。
ともあれ、そんな力を持っているのなら、何を望まれてきたのか想像に難くない。
魔王を倒して以降、人の世は戦乱の世だ。
戦争に次ぐ戦争を国境付近では繰り広げているらしい。
そこで兵器として使われていたのかもしれない。
――まあ、だから何だという話なのだが。
――俺には関係ないし、関わりたくもない。
――もうあんな思いはしたくないんだ。
期待が裏返り、賞賛が罵倒に変わるなんて経験もうしたくない。
「……それでも殺してはくれないんですね…………」
わかるからと言って、想像できるからと言って、それが苦しいし辛そうだから楽にしてやろうなんて俺にはできない。
「ああ」
「……それじゃあ、わたしは……」
「また砂漠に戻るとかいうなら行かせねえよ。砂漠を彷徨ったところでどうにかなるとは思えない」
「……だったら、どうしろっていうんですか……」
「さあな」
「……酷い、人ですね……」
「まだマシな方だよ」
これでライなんぞに見つかってみろ、絶対ロクなことにはならない。
いや、ライを貶めるわけではないのだが、あの男は女関係になると途端にダメになる。
女となれば見境なしだ。
身体を報酬として殺してくれなんて言ったら喜んで身体をむさぼるだけ貪って殺すだろう。
他の探砂師も同じだ。いや、ある意味、そっちの方が彼女にとっては良いのかもしれないが。
「とりあえず、明日になったら街に行く。おまえをどうするかはその時に考えるから、今日のところは寝ろ」
「…………はい……」
「ああ、そうだ。服はどうした」
「彷徨っているうちにたぶん魔物とかに破かれたんじゃないですか……」
「なら、とりあえずこれでも着てろ」
「…………ありがとう、ございます……」
色々と目に毒だ。
外套の端からちらちら生肌が見えているから、俺ので悪いが替えの服を渡す。
女は、存外素直に服を着てくれたので一安心だ。
「何か食べるか?」
「……要りません……」
「そうかい。それじゃあ、もう寝ろ」
「…………」
俺は野営地の出口付近の壁に背を預けて目を閉じる。
女は端の方で膝を抱えたまま目を閉じていた。
夜の砂漠は冷える。
外套に身を包み、焚火の爆ぜる音を聞く。
耳に心地よく流れるそれは睡眠導入にはもってこいだ。
外の方から何かが動く気配はない。
しばらくして火も消えた頃、不意に女が立ち上がる気配がした。
「――どこに行く」
「……まだ起きていたんですね」
「怪物を警戒する必要があるからな」
それと、女がどこかに行くのではないかと思ったから警戒して浅く眠るようにしていた。
別に彼女は死なないだろうし、どこへ行ったとしても問題は起きないだろう。
せいぜい俺の今日の収集品がなくなるくらいだ。
「寝てろ」
「…………」
本気になれば彼女はここから出ていくことも出来るだろう。
けれど、彼女はそれをしなかった。
諦めたように隅で膝を抱えて今度こそ眠ったようだ。
「……さて、どうするかね……」
関わる必要はない。
見目は良いからさっさと売ってしまう方が得かもしれないが、話をして事情を知ってしまった以上売るのは心が痛む。
「我ながら甘いけど、あの目に、あの物言い。あの時の俺なんだよなぁ」
6年前の俺だ。
ステラ曰く、すべてに絶望して不幸ですを体現しているような姿がダブってしかたない。
「それに、ああいう子を見ると幸せにしてやりたくなるんだよ、昔から」
ああいう子ほど慕ってくれると一途で健気なことが多い。
男としてはああいう子に慕ってもらえるというのは冥利に尽きるというものだろう。
「まあ、考えたところで良い考えが浮かぶわけもなし。どうやったら立ち直ってくれるとかもわからない」
あとはもう明日の自分に任せるとして、今は少しでも休むことにする。
6年前の夢を見た時は、大抵悪いことが起る。
それは追放だけじゃないと俺の直感が告げている。
――そして、翌朝。
「さて行くぞ」
「…………」
晴れ晴れとした空とは打って変わり、嫌な予感がふつふつと俺の中に湧き上がっていた。
だが、ここで動かないわけにもいかない。数日分の食糧はあるが、いつまでも帰らないとステラに何を言われるかわかったものではないし、何よりベッドで眠りたい。
やはり家が一番だ。野宿は余裕のある時だけで良い。
乾燥した風が吹き受け、青々とした空がどこまでも高い。
女の気分とは180度真逆なのが、うつむきがちにとぼとぼと歩く姿でわかる。
もちろん俺との間に会話なんてあるはずもない。
何か話した方が良いのか、何を話せばいいのかと俺の頭の中はぐるぐるしているが、こんな女と何を話せというのだろう。
かみさまの話か?
いや、俺、あの神様とか嫌いだから無理だわ。
などとぐるぐると回る思考をよそに警戒だけはしっかりしていた。
だから、俺はその声を聞き逃さなかった。
「だれか、助けて――」
悲鳴とともに砂漠に響いた誰かの助けを求める声。
「――ッ!」
俺の身体は咄嗟に駆けだしていた――。
少女の事情と神に愛されているということのお話。
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