第64話 砂上船街襲撃・3
「ルー、攻撃は任せるぞ!」
「……ん」
サンドドラゴンワーム。まさかこんなところに出現するなどとは俺も予定外だ。
だが、やるべきことは決まっている。
都合六匹。状況を掴めば、各所で俺の仲間やライたち探砂師が戦っている。
「リリアの援護も、ハオを助けるにもまずはこいつらを何とかしねえと」
まるでリリアやハオたちから俺たちを遠ざけるように展開するサンドドラゴンワームは、確実に何者かに操られている。
これが簒奪者の仕業なのかはわからないが、俺は俺のやるべきこと、出来ることをするだけだ。
といっても俺に出来ることはこの大物相手には少ない。
ゆえに俺がやるべきことは相手の注意をルーからそらすことだ。彼女の持つ大魔法をいかに当てるか、邪魔されないようにするかだ。
あるいは――
「使うか――」
相手は格上、条件はそろっている。
格上殺しの白炎を使うことは可能だ。だが、数十秒で六匹をまとめて倒すには一か所に集める必要がある。
各所にはなれている段階、それも周り人がいる状況で薙ぎ払うように使ってしまえば、どれだけの人間を巻き込むことになるかわかったもんじゃない。
「とにかく誘導してみるか――」
サンドドラゴンワームを掴む。
「ぐ――」
引っ張ることはやはり出来ない。引っ張るには俺の膂力が足りていなさすぎる。
それでもこちらに注意を向けるくらいはできた。
『GRAAAAAAA――』
振るわれる尾の一撃をかつての建物の残骸を掴んで蜘蛛男のようにスイングする。
逃げる砂上船に手を伸ばし、勢いをつけてサンドドラゴンワームに飛び乗り、浅く切りつける。あまりにも浅すぎて痛痒にすらなっていないが、注意は俺の方に向いてくれる。
その間に、詠唱は終了する――。
「――焼き尽くせ:裂火炎槍」
咒名とともに放たれる魔法。
炎の槍がサンドドラゴンワームへと突き刺さる。魔法防御は高いが、ルーの魔法はそれ以上に強い。これでも王級の才気持ちだ。
貫き、焼き尽くす炎の一撃は、さらに連続する。
「詠唱接続:我らは悲しき慈炎の雨を知る――【フレイムレイン】」
打ち上げた炎が火炎の雲を呼び、降り注ぐ焔の雨。
日が落ちた砂漠を明るく照らす。
「どうだ」
「……ん、流石、竜種」
『GRAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
「まだ生きてるか」
それでもダメージは入っている。このまま削り切れれば勝てるだろうが、それで消耗しきってはたまらない。
「……ん、なにか手段」
「あるにはある」
「……どうやる」
「あいつらを一か所、なるべく近くに集めたい」
「一か所……」
「なら、それアタシがやってやるよ」
その時、どこからともなく声が響く。
赤だ。どこからともなく現れた女は、赤い鋼を身に纏っていた。
「おまえ、は――」
「よう、久しぶりだな、ラッキーボーイ。このアタシ様に触れやがった婚約者殿」
「……婚約者」
「まて、それの話はあとでするが、待て、マジで待て、どこから這い出してきやがった」
爆弾発言をした女は、大剣を背負った赤い鋼の女だ。
燃えるような焔の髪に蒼の瞳が煌々と輝いている。俺はこの女を知っている。脈絡もなく唐突に登場したこの女を俺は知っている。
探砂師ギルド最高位の色を頂く女だ。
身に纏う鎧は砂漠鋼に紅竜の鱗を使った最高の品。砂漠であろうとも、その鋼は気温が高ければ高いほど強大になる。
日中の砂漠であれば、何者であろうとも砕くことの出来ない最強の硬度を誇る。そんな鋼を微塵も隙なく着込み、大剣を背負った女の名は――アルカ。
赤金の名を欲しいがままにする剣士だ。
「なんで、こんなところにいるんだよ!? ここは中域だぞ、おまえらの生息地は深域だろうが」
「はは。風の噂でおまえがパーティークビになったって聞いてな、確保しに行こうって思ったんだよ。まあ、いいじゃねえか。それよりもだ、あいつらを一か所に集めりゃいいんだろう。そうすりゃ婚約者殿がなんとかしてくれるんだろう――」
「それは間違いじゃないが、おまえが倒した方が早くないか」
「はっはっは。いやだ。アタシ様は婚約者殿のかっこいいところが見たい」
だから、倒すのは手伝わない。誰が死のうがいいと彼女は言い放つ。
相変わらずこの領域の強さに至った奴らは意味がわからないし、人の道から外れてやがる。
「さあ、というわけだ――アタシ様が集めてやるから、婚約者殿は準備してな――」
一足。
彼女はまずひとつそれだけで目の前のサンドドラゴンワームを空中へとぶん投げた。
「次――」
一足。
それだけで俺たちの目の前から消え失せて、彼女は葬送の雷雲のパーティーの前に現れた。
「な、オマエは!?」
「ほうほう、これは――」
「うそ……色金……赤のアルカ……?」
「そうだ、アタシ様だよ。どいてろ、アタシ様の婚約者殿のかっこいいところを見せてやる」
だいぶ弱ったサンドドラゴンワームを一足でけり上げる。
どれほど高く蹴り上げているのか、まったくもって届かない高みで激突しさらにサンドドラゴンワームは跳んでいく。
さらに一足で、今度はギョクのところへ。
「アン?」
「そら、邪魔だ、獣。アタシ様の婚約者の獲物さ」
それもまた一足で蹴り上げる。
都合、六足六蹴。
ただそれだけで全てのサンドドラゴンワームが空中へと集められた。
「そら、婚約者殿。これで良いだろう」
「あ、ああ……」
相変わらずの無茶苦茶、チート具合。
これで神話級才気持ちでもすらないただの肉体性能でやっているという点が本当にチートすぎる。
鍛えたらこうなったとか、言っていたが、どう鍛えたらこうなるのやらだ。
「今は、考えている暇じゃないな」
俺は神の炎へ手を伸ばす。
燃え上がる俺の右腕。激痛が全身を支配するが、歯を食いしばり、剣を燃やす。
格上の相手ということで炎は燃え上がり。
「――――!!」
振るうと同時に空へと駆けのぼる。
白と黒がまじりあった簒奪の炎は格上たるサンドドラゴンワーム六匹を焼き切り消えない炎で灰燼と化す。
すぐ様解除。
それでも剣は燃え尽き、俺の手は焼け焦げている。
「ぐ――」
当然のように俺の意識は消え失せる。




