第5話 絶望した女 ※挿絵あり
たくさんの感想、評価、レビューありがとうございます!
めちゃくちゃ励みになります!
追記
七井のがれ@edksnm様よりリリアちゃんのファンアートをいただきました!
挿絵に追加しております!
ありがたやありがたや!
周囲に魔物の影がないことを再確認してから俺は街に戻るためのルートを辿る。
いくつかあるルートの中でも特に人通りがないところを用心して選んだ。こんな逸品を抱えているところを誰かに見られたら奪い合いになる。
砂漠は治外法権みたいなものでここなら人殺しをしても見つからない限りは不問にされる。
だから、こんな見目麗しい女を抱えているなどとバレてしまえば、モテない探砂師たちに何をされるかわかったものではない。
上位の探砂師などはかなり金も持っているからモテたりするのだが、多くの探砂師がそうであるとは限らない。
それにそもそもの問題として砂漠は危険なのだ。
砂漠に出来上がった谷間を進む。日陰になっていて過ごしやすい。
「――ッ!」
俺は谷間を抜ける直前に、魔物の気配を感じて物陰に隠れる。
砂の色と同じ外套を女と自分自身にかぶせ身を潜める。
ほとんど同時に感じる巨大な足音と地震と見まがうような地鳴り。谷の出口から巨大な怪物が姿を現した。
それは巨大な蟲だ。見た目は、巨大なカブトムシ。カブトムシと言えば見栄えはかっこいいのかもしれないが、相対してなおそう言えるのであれば目の病院を紹介したい。
なにせ、巨大だ。足一本が樹齢数百年の木ほどもある。なによりもただのカブトムシとは思えない凶悪な面をしている。
見ているだけで恐怖を感じるデスカブトムシだ。正式名称は、ヘルズビート。
獲物をその角で突き殺して放置するという悪辣極まる魔物である。
あいつらは食事を必要としない。世界に存在する魔力でその肉体を強化し、維持している。
生物とはまた違う系統の存在らしい。
魔王が作り上げ、今もなおこの砂漠という存在から生まれている魔物はただ人間を殺すための兵器だ。
幾人もの人間が殺されたのだろう。ヘルズビートの角にはおびただしい数の死体が吊られている。
さながらそれは戦利品だ。つられたまま乾燥されミイラと化している。
しかも、動いている。そのままアンデッド化したのだろう。
魔物は巨大な魔力を持っているという。その近くに長年放置されればアンデッドにもなろうというものだ。
もちろんこんなものと戦うなど論外だ。俺の武器はいくつかの道具と古びた剣が数本。
こんな装備であんなデカブツを倒せるはずもない。ただ掴むだけの才気で一体何を掴むというのだ。
勝利を掴む、という使い方もあるにはある。
だが、あまりにも勝ち目がないときは掴むまでの距離が遠すぎて掴めない場合が多い。
今回はそれだ。俺とヘルズビートでは、純粋に強さの桁が違い過ぎる。
「…………」
「ん……」
その時、腕の中で女が身じろぎする。
俺の体温でも感じて目を覚ましたのか。あるいはヘルズビートの魔力やらなんやらに当てられたか。
どちらにせよ騒がれるとまずい。
「ん、んん……?」
咄嗟にその口を塞ぎ――。
「静かにしてろ」
耳元で囁く。
女はびくりと驚いた様子であるが、聞き分けが良いのか、それとも今の状況を理解できているのか。
ちいさく頷いて押し黙る。
「…………」
「………………」
そのままヘルズビートが完全にいなくなるまでじっとしていた。
ヘルズビートが俺たちの目の前で立ち止まった時など、すりあわされる甲殻の怪音が精神の内壁をがりがりと削り、生きた心地がしなかった。
「ぷはぁ」
「来い、急げ」
立ち去ったあとは何も言わずに即座にその場を逃げ出す。
魔物が1匹、いたということは、別の魔物もいる。あいつらはGみたいなものだ。
1匹みたら100匹はいると思った方がいい。
ヘルズビートが放つ魔力をおこぼれとしていただこうとするような魔物や、ついていって一緒に人間を襲ったりするような厄介な奴もいる。
だから、即座にその場を離脱する。魔物の生息域とされている場所を避けるように大回りしながら慎重に逃げる。
「ここなら、大丈夫だろう」
かつての遺構を利用した簡易の野営地まで逃げてきたが、俺たち以外の人はいなかった。
慎重に慎重を喫して大回りしたおかげで辺りはすっかりと暗くなっている。
今日は、砂漠で一晩を明かすしかない。
ここは下層の中間あたりでここまで来たらもう街に帰る方が早いから誰もいないのだ。
それでもここに来たのは、このまま街に帰るには暗くなり過ぎたから。
夜は魔物どもの時間だ。月明かりがやつらを活性化すると王都の学者から聞いたことある。そんな危険地帯を女を抱えて逃げるなんて俺にはできない。
女を放り出していけばどうとでもなるが、それをやってしまうと今日の成果がなくなってしまう。
ある程度依頼の品は採集したものの、それで割に合うかといえば割に合わない。
是が非でも持ち帰る。もちろんこの女のためとかではない。
「今日はここで野宿だ」
「…………」
目を覚ました女は、黙っている。黙ったままじっとどこかを見ている。綺麗な蒼い瞳は吸い込まれそうなほど深い。
まるで奈落だ。俺はその眼を知っている。
「まあ、楽で良いか」
特に何もする気がないのなら構うことはない。さっさと火を熾して、食事の準備をする。
といっても今回はなにも食材がないから携帯食料になる。
魔物の肉などがあればそれを調理するが、今回は何も倒していないのだからない。
魔物の肉は栄養価が高く、何より高純度の魔力を帯びている。それを肉体に取り込めば、身体能力を上昇させることが出来る。
もちろん無限に上昇するわけではなく、上限がある。そしてそれは個々人の資質次第だ。
俺の資質はこんなところでくすぶっているくらいには低い。
一般的にランクの高い才気を持っているほど成長上限が高いと言われている。
最下級の動作級の才気しか持たない俺の成長限界が高くないことは明白だろう。
ともあれ水と携帯食料を腹に入れれば落ち着く。
「おまえも食え」
「…………」
女はぼうっとしたまま食事を受け取ろうともしない。
「水だけでも飲んだらどうだ」
砂漠を走り回ったのだ。暑さと運動で上昇した体温で汗をかいている。水分を取らなければ脱水症状で死んでしまう。
せっかくここまで連れてきたのだ。こんなところで死なれては困る。
「…………」
しかし、その水も受け取ってはくれない。
「おい、少しは取らないと死ぬぞ」
「……んで……」
「ん?」
「……なんで……あのまま死なせてくれなかったんですか――」
さあ、ヒロインが出てきました。
なんか滅茶苦茶絶望して鬱っている感じですが、何があったんでしょうね(すっとぼけ)。
ダーウィンズゲーム見てたらこんな時間になってしまった。
いやぁ、面白かったですね。
まあ、それはさておき、面白ければ評価、感想、レビューなどよろしくお願いします!と常々言っていくスタイル。




