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第52話 砂鯨狩猟

「ひゅー、流石」


 突き刺さった矢は硬い外皮を貫いているのがわかる。

 白い巨体に流れる赤い血潮がその証だ。


「もっとだよ! まだまだ奴は元気だ! 逃がすんじゃないよ、うまい肉が食いたいならね!」


 メルビレイの肉は、格別だ。

 硬い外皮の下には柔らかな肉が詰まっていて、高級霜降り和牛など目じゃないほどの美味。

 いや、俺霜降り和牛なんて食べたことないんだが、気分的にはそんな感じなのだ。

 それもこれだけ巨大ともなれば、年齢を重ねて熟成されているに違いなく。そのうまさはいかほどだろうか。

 メルビレイ自体が数がそれほど多いわけではないため非常に希少で市場にもほとんど出回らない。


「そいつを喰いたきゃ気合いを入れな野郎ども!」


 野郎は俺とハオしかいないが。


「はい!」


 ハオの快音は連続する。

 放たれる銛矢は、確実にメルビレイの体力を削っていく。

 しかし、砂鯨漁はこいつだけ狙っていいというものでもない。


「来るぞー!」


 メルビレイが流した血に反応して他の魔物まで出てくる。

 その血は多分に魔力を含んでいるし、メルビレイの肉は他の魔物にとっても極上だ。


 コンドルのような巨大な怪鳥が集まってきた。


「バーヴィルに横取りされるんじゃないよ!」

「リリア!」

「はい!」


 そういう奴らの迎撃はリリアに任せる。

 黄雷を身に纏い、リリアは跳ぶ。

 そのまま巨大な鳥の魔物であるバーヴィルへと飛び移った。

 飛び移られたバーヴィルが即座に振り落とそうとするが、しっかりとつかんだリリアは落とせない。


「ここから遠距離攻撃すればいいだけなんだが……まあ、良いか」

「やあ!」


 そのまま首をへし折られ墜落。

 リリアはまた別のバーヴィルへと飛び移る


 俺は堕ちてくるバーヴィルを掴んで船室へ運ぶ。

 これらもおいしく調理できる。

 魔物は無駄な部位がない。長い戦争の中で魔物を利用する術が生まれた。今ではすっかりと魔物を利用することが当然になっている。

 魔王が滅び魔物もいなくなるかと心配されたが、砂漠のおかげで困ることはなかった。


「えい!」


 放たれる雷弾がバーヴィルの数を減らしつつ、空中をリリアが駆け抜けていく。

 相変わらずの力。

 まったく羨ましい限りだ。俺もあんな圧倒的な力を取り戻したい。


 俺が取り戻せたのは格上にしか使えない回数制限付きの炎だけ。

 嵌れば強いが、嵌らなければ使えないものだけ。

 泣きたくなるね。


 ただそれでもやるしかないんだ。


「まだまだ来るよォ!」


 地上を疾走する魔物の群れが来る。

 サンドワームからサンドラット、グロルハウトなどなd。


「さて、そっちは、あてらが対処しますよぅ」


 船尾から砂漠へと飛び降りる。


「おいおい――」


 疾走する群れへとギョクさんが飛び込んでいく。


 空中でとった構えは拝礼拳。

 左手略式合掌。

 右手拳打の構えが引きしぼられる。


 発勁――すさまじいまでの内力から放たれた拳が地を穿つ。


 轟音とともに砂塵が舞い上がり、砂漠に大穴を開ける。

 突っ込んでくる大半の魔物が大穴へと落ちていく。


 だが、それを超えてくる魔物もいる。


「はいはいっと!」


 それらを左手合掌が防ぎ、拳が四肢をへし折る。


「さて、あてらに追いつけます?」


 ギョクさんが疾走を開始する。

 両の足を速く動かす必要はない。タイミング良く自らの身体を前に押し出す為に一瞬だけ地面を蹴っている。

 たったそれだけでギョクさんの身体は疾走する。


 鈴下駄の音が連続して鳴り響く。

 鳴れば鳴るだけギョクさんの疾走は百を超えて加速していく。最高速度の更新を果たし続ける。

 疾走は止まらない。真っ直ぐに敵へと向かっていく。

 走る獣と同じく、いや、それ以上の速度でこちらを追いつつ、並走した魔物どもを屠っていく。


 その技量は見事と言わざるを得ない。一瞬、コンマ数秒の邂逅で寸分たがわず手刀が翻り綺麗に首だけを切断してみせているのだ。

 しかもくっつければ今にも元通りにくっつくのではないかと思えるほどに綺麗な切断面である。まさしくそれは絶技。


「内功の使い手は怖いってのは聞いてたけど、これほどか」


 俺は榛帝国でその手の連中とは会わなかったから、今初めて見たがヤバすぎだろ。


「っと、死体回収っと。俺、やってること地味だよな……」

「適材適所ですよぅ」

「うわ、もう戻ってきたのか」


 いつの間に戻ってきたのか、ギョクさんが隣にいた。


「すごいな」

「うふふ。これでも獣人。拝礼拳打の一門ですよぅ」

「俺にも教えてもらっていいか?」

「いいですよぅ。これが終わったら、手取り足取り、じっくり、教えてあげますよぅて」

「さて、あっちは――」


 メルビレイの方もだいぶ弱っているようだ。


「ただいま戻りました!」


 リリアの方も船に戻ってきた。

 空の魔物はほとんど倒したようである。


「お疲れ」

「はい!」

「――これで、最後!」


 ハオが最後の矢を放つ。

 メルビレイが断末魔の叫びをあげて動かなくなった。


「ふぅ、すごい相手でした……」

「でも、これで終わりですよぅ」

「ええ良い経験になりました。こんなに弓をたくさんうったのは初めてですよ」

「まだだ――!!」


 メルビレイの狩猟は此処からだ。まだ終わっていない。

 一つだけ残っているものがある。


「そうだ。こっからだよ!」


 ――轟音とともに、メルビレイの腹が裂かれた。


 実はメルビレイという奴は厄介な性質を持っている。それは、自分の胃袋の中に生物を囲うという性質だ。

 どうしてそんなことをするのか、砂漠生物学者の間でも物議をかもしており、一説によれば、体内浄化の為だとか、単純に保存食として足りない栄養にするためだとか、もしもの時に守ってもらうためだとか。

 そんな風に言われているのである。


 居住生物という区分も存在しており、体内に生活環境を整えることのできる迷宮生物も数多く存在している。

 メルビレイもそんな奴の一体であり――。


「んぁー? なんだ、よーくねた」


 だが、そこから出てきたのは――。


「人……?」


 人間だった。


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