第48話 護衛依頼
「では、依頼がしたい。探砂師殿、わたしを守ってはくださらぬか。わたしはハオ・シン。榛帝国の皇子だ」
なんか前にも似たようなことあったなー、この展開。
そう、やりましょうとすごいやる気になっているリリアも似たようなことを言ってきた。
探砂師はそういう風な認識なのはわかるが、もっとこう……なんで俺のところに来るのだろう。
こういう依頼はライとかもっと上のやつらの方が良いと思うのだが。
あいつ行動はどうあれ、アレで実力はかなりのものなのだ。きっとハオ様の依頼だって、二つ返事するに違いない。
俺はあいつのように二つ返事なんて出来そうにない。
まず俺に出来るのか考えてしまう。
「あー、こほん……。依頼は良いのですが。誰から護ればいいのでしょう。さきほどのような盗賊でしょうか? そもそも何故、榛帝国の皇子様が王国に?」
ただ不敬罪で殺されないように言葉遣いを宮廷言葉に変えておく。
これ慣れないんだよなぁ。
慣れてないからってサボると途端に殺されるから貴族社会とか上流階級社会と平民の差がでかいことが良くわかる。
それで俺が殺されても文句の一つも言えない。
まあ、ここは近域とは言え砂漠、俺がここで目の前の皇子様を殺したとしても誰も何も言わないだろう。
此処はそういう場所だ。
それでも予防は必要だし、とりあえず事情の把握、まずそこからだ。
――榛帝国。
俺もチートを持って魔王軍と戦っていた頃に1度だけ行ったことがある。
大陸東部領域の覇者とも呼ばれている大国だ。
簡単に言えば中華風のケモミミ帝国。中華風の文化を形成していて、獣人たちが大多数の国である。
もふい国だった……。
あまり滞在できなかったが、とにかくもふい国だった……。
「ツカサ様……?」
ついつい思い出のもふに浸っていたおかげで、ちょっと思考停止していたようだ。
そういえば榛帝国で一緒に冒険した彼女は灰狼族の子だったな。
あの子は今、どうしているだろうか。
「あの、ツカサ様?」
「は!? いや、ちょっと思い出をもふっていただけだ」
「もふ??」
「こほん……とにかく、そこから話していただけますか? それとも話しにくいことでしょうか?」
今のあの国の情勢は知らないが、あの国は皇帝が力で作り上げた国だ。
その皇帝も高齢で誰もかれもが次の皇帝を狙って権力闘争していたほどだ。まあ、当時の俺はそんなことはまったくわからなくて、皇帝との謁見が終わったあとのステラの解説で知ったわけだが。
さらにステラがいなかったら俺はあの国で権力闘争の道具にされていたらしい。
食事の全てに麻痺毒や睡眠毒が盛られていたとか。
チートはそれすらも防いだからな、チート様様だ。今の俺はそんなこと出来ないので気を付けなければならない。
「いや、話そう。母上も信頼が大事と言っていた。ああ、その前にギョク殿を紹介しよう」
「レン・ギョク。縁あってハオ様の護衛まがいのことをしている旅旅籠の女将ですよぅ」
「なに? そなた女将だったのか……? どこぞの武人だとばかり……」
「にゃーにゃー。まあ、いってませんものね、うふふ。いう理由もなし。しかして――」
ギョクさんがなにやら視線を向けてくる。
うむ? なんだろう。
「名前をお聞かせ願いたく思いますよぅ」
「ああ、まだ名乗っていませんでした。私は、ツカサと申します」
「ツカサ、良き名をお持ちのご様子。どうです、今夜、一献」
「ちょっと待ってください、なんでそんな話に?」
「ふふ、あてらちょっとツカサさんのことが気に入ってしまったようですよぅ。まあ、今は、こっちのお話。すくなくとも、ハオ様を途中で放り出すことはいたしませんよぅ」
「そ、そうか。なにやらわからぬが、そなたにはそなたの理由があるのだろう。それでわたしの事情であったな」
ハオ様が語った事情は、なんとも想像通りというものだった。
このハオ様はどうやら榛帝国で重要な品を受け継いだらしい。
問題は、彼の母がさほど地位の高くない女であったこと。
後宮にあっても若輩。されど皇帝の寵愛を受けて子まで授かってしまった。
そもそも火種があったところに、さらに油がブチまかれ爆発したということらしい。
現在、榛帝国は大いに荒れまくって内戦中とのことだ。
そして、ハオ様は榛帝国の様々な勢力から狙われている、次期皇帝を手に入れたものが榛帝国を支配するという、簡単な理由で。
「母は継承の儀まで逃げろと言った。だから、国を出たのだ」
ハオ様は、見たところ6歳くらい。
若いが、教育が良いのかしっかりしている。泣き出したいだろうに自分のおかれた状況というものを必死にのみこもうとしているようだ。
「継承の儀とは、いつのことでしょう」
「来年だ」
つまり1年、逃げなければならないということか。
確かに、それなら他国に出た方が良いだろう。榛帝国内だと落ち着ける場もない。
「なるほど……」
「そういえばお母君のお名前は聞いていなかったですよぅ」
「む、そうだな。クァ・シンだ」
「な――」
「む、探砂師殿、知っているのか?」
何と答えよう。
何を隠そう、その昔、俺が榛帝国にいた時、一緒に冒険したのがそのクァなのだ。




