第2話 追放
「何でだ……」
パーティーを抜けろと言ってきたライに俺はそう返す。
いや、本当はわかっている。俺がライの立場でもそういうことはわかっている。
髪を逆立てた如何にもチンピラじみた人相のライも、わかってんだろと言いたげにあきれた視線を返してくる。
それでも聞かないわけにはいかなかった。そうしなければ俺は納得できない。
「おまえが弱いからだ。オレたちはもっと上に行きたいんだよ。オレたち『葬列の雷雲』はまだまだ上に行ける。砂漠の深部にはもっと大量の宝がある。金があれば、女もなんでも思い通りだ。ちやほやされたいんだよ。けど、そこに行くにはおまえが邪魔なんだよ」
それは予想通りの返しだった。
「『掴む』才気しか持ってねえ。オレらはみんな2つ以上持ってるんだよ。それも動作級じゃねえ、上から2つ目の王級の才気とか3つ目の伝説級の才気だ。この意味がわかるか? これだけでもテメェが要らねぇってのが良くわかるだろ」
才気。
それはこの世界の誰もが持っている力のことだ。大抵、1つ。才能あるものなら2以上持っている。
さらに才気にもいくつかのランクがあり、高い順に、神話級、王級、伝説級、動作級の4つ。
ライが言っている通り、俺の『掴む』才気は、動作級と呼ばれる最下級の才気だ。
対してライが持っている才気は『剣王』と『勇者』。上位の才気と呼ばれる王級と伝説級の才気だ。
他の4人も同じだ。
リネアは『聖女』だし、ルーは『魔導王』、レストは『賢者』。
こいつらは誰もかれもがラシャーナ探砂師ギルドの中では若手の中でも最強と称されていた。
動作級なんて才気を持っている者はいない。
探砂師は才能がなければすぐに死ぬ職業だからだ。
動作級の才気を持っていた同期は既に死んでいるか、諦めて別の職に就くかしている。
ただ1人、動作級にて最高ランクの探砂師になったやつもいるがあれは完璧な例外だろう。
そんなわけで例外を除いて、無様にしがみついているのは俺だけ。パーティーのおかげでここまで残れていたというのも正しいだろう。
良いパーティーだった。当時、一人きりだった俺に声をかけてくれて、一緒に砂漠を探索してくれたのだ。
いつかこんな日が来るとは思っていた。それでも俺は出来るだけ俺にやれることは何でもやってきたつもりだ。
「いきなりすぎるだろ」
「それについては悪ぃって思ってるが、こいつ――ロウが見つかったのが昨日の夜だったんだよ」
ライは自らの後ろで縮こまっている少女――ロウに視線を落とす。
視線を受けたのが恥ずかしいのか、さらに縮こまるロウの姿は小動物じみていて本当に盗賊王という才気を持っているのかわからない。
「盗賊王って才気持ち。斥候としちゃあこれ以上のはねえと思わねえか? なあ、レスト?」
ライは、そう筋骨隆々の男に同意を求めた。
筋骨隆々巨漢のレストは、少し考え込むように目を閉じて――。
「――然り。王級の才気持ちであるならば、深部までも到達できましょうや」
「だろ。リネアとルーはどうだ?」
「えっと……」
リネアは、十字架をあしらった聖杖を手に視線を左右に彷徨わせて、申し訳なさそうにうなずいた。
「…………」
ルーは興味なさげに魔導書を読んでいるばかりで答えない。
「ほら、2人もそう言ってる」
ライは沈黙を肯定ととったようだ。
「だからって……それに本当に盗賊王なのか?」
「ああ、そこ疑うわけね。んじゃあ、ちょうどいいロウ。見せてやれよ。盗賊王の力をさ。それで納得できりゃ、おまえは辞める。それで良いな?」
「ああ」
「それじゃあ、開始だ。見逃すんじゃねえぞ」
ライが開始の合図をする。
俺は絶対にロウの姿を見失わないように注視する。
盗賊王。
つまり盗賊の才気の上位。どういう力を持っているかは調べたから知っている。力のない俺がこの世界で生きていくには知識と対策が必要だった。
だから、ありとあらゆることを嫌でも調べた。
盗賊王の力は、基本的には潜伏、窃盗、気配遮断、罠解除、気配察知など。
戦闘になれば相手に気がつかれずに奇襲し、一撃必殺という戦闘スタイルになることが多い。
だから、絶対に見失わないようにしていれば問題ない。
「――あの、死にますよ?」
「え……?」
少女の声が耳にささやかれた。消え入りそうな声はしかし、はっきりと聞こえて。
そこで俺はようやく気が付いた。
俺の隣には、いつの間にかロウがいて、俺の首にナイフが突きつけられていた。少しでも彼女が手を動かせばそれで俺の人生は終了するだろう。
いつの間に接近された?
俺は、瞬きをせずにロウの姿を注視していた。一切視線は外していない。それなのに、いつの間にナイフを突きつけられた。
「それが盗賊王の力なんだよ。目の前にいるのに目の前にいない。隣にいないのに隣にいる。どこにでも入り込める。それが盗賊王って才気らしい。どうだ? 力の差は理解できたか? それともまだ挑戦するか?」
「…………いや……」
俺が認めればロウは刃を引いて、霞のように消え失せていつの間にかライの背にたたずんでいる。
「だよな、そういうわけだ。それじゃあな」
そう言ってライはさっさとギルドの出口の方へと歩いていく。
「その……元気出してください。きっと新しい出会いがありますから……えっと、その、ごめんなさい……」
「謝らなくていいよリネア。俺が弱いのが悪いんだ」
「でも……たくさん、助けられたのに」
「それはこっちも同じ。いや、俺の方が助けられ過ぎたんだよ。それじゃあ釣り合わないんだから、仕方ないさ。ほら、さっさと行けよライが怒るぞ」
「…………」
リネアはこちらに何度も頭を下げながらライを追いかけていく。
「気を落とさないように、と言っても無駄でしょうが、いつかは来ると覚悟していたはずです。仕方ありません。これが才能の差というものです。では、また。ああ、もう辞めて別の働き口を探すのもよろしいでしょう。命を粗末にすることはありませんよ」
ぽんとレストの大きな手が肩を叩く。優し気で、俺を気遣っているのがわかる。口調はあれだが、レストは根はやさしいのだ。
ぽんぽんと何度か肩を叩かれて、レストもライを追っていった。
「…………」
「うわっ」
そして、目の前にルーが立っていた。
「な、なんだよ」
「…………辞める?」
珍しくルーが俺に言葉をかけた。
こいつが喋るなんて、明日は雪でも降るんじゃないか……?
「パーティーはな。でも探砂師はやめないよ」
「……そ」
まるでそれならいいとばかりにルーはさっさと行ってしまった。
「なんなのやら……さて、どうするか……」
俺は1人になった――。
流行りの追放物ですね?
ただし私なので、絶対に流行りのものと同じにはならない。
ツカサ君にはとことん苦労してもらおうと思います。
まあ、そんなことより気に入ったのなら感想やら評価やらをお願いしまーす!
と常に叫んでいく所存。
これから毎日1話は更新していくのでよろしくネ(T〇ick風)