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第22話 リビングアーマー

評価ありがとうございます!

 ――視覚。


 違う。

 いくつかの部屋を超えたがそこに見えるものはない。

 何よりあからさまな扉に隔たれた部屋の向こう側は見通せないから意味がない。


 ――聴覚。


 違う。

 聴覚でとらえる情報は、大音量の静寂と俺とリリアの息遣いのみ。


 ――触覚。


 風の感覚はない。停滞した空気にはひりつくような緊張感があるが、それは自分たちで発したもの。


 ――嗅覚。


 古代の匂いは感じるが、それ以外にはない。少し気を入れればリリアの花のような芳香を感じるがそれは無視していい。

 無視しなければならない。


 ――直感。


 これだ。

 感じたのはこれ。どうしようもなくあの扉から嫌な予感がする。

 しかし、その先へ船長の娘の痕跡が続いているのだから行かない選択肢はない。船長の娘がこの先にいる何かにやられていないことを祈りながら戦闘態勢を取る。


 言葉にはしないが、リリアは既に動けるように戦闘態勢。彼女もまた歴戦であることに違いはない。

 勝っての違う場所であれど戦いに対する心構えはとっくの昔に出来上がっている。


 無言のまま俺が先頭になり後ろにリリアが続く。

 扉に罠の類がないことは確認した。本職ではないが、罠解除のコツは掴んでいる。くまなく見れば罠がないことがわかる。


 これが盗賊の才気持ちなどであれば一撫で一見すれば十分というのだから、才気の差は大きい。

 おっと、嘆いている暇ではない。


 施錠はされていない。


「行くぞ」


 努めて小声でリリアに指示を出す。

 扉を押せば軋むことなく開く。


 一歩、足を踏み入れる。

 リリアはまだ部屋の外。退路の確保。何かあった時の備え。


「――」


 部屋の中は暗い。

 しかし、ほのかに灯りがある。

 それはこの部屋の主そのものが放つ光である。


 朽ちた鎧が座り込んでいる。ところどころへこんだ痕跡や傷がついた鎧だ。

 ただの鎧ではないその頭部には兜はなく、代わりに青白く光る炎がランタンとして乗っかっている。

 その手には身の丈はある大剣を握りしめており、こちらは鎧とは違って手入れがされているらしく朽ちてはいない。


 リビングアーマー。

 そう呼ばれる魔物だ。戦場における兵士の怨念が舞い戻って闘争を求めているだの、魔王が死んだ人間を有効活用するために死体を糧に作り出したのだとその起源については諸説言われているが、真偽は不明だ。

 なによりこいつはダンジョンで生まれた魔物。外にいる魔物を模したダンジョンが魔石を核に魔力で編み上げたものである。


 だが、その基本性能は変わらない。

 炎で人を寄せ付け、大剣にて狩る人殺しの騎士。判明している被害だけでもフル装備の探砂師6名パーティーがこいつ1体に全滅の憂き目にあったなどというものまである。


 ミノスと比べて難敵かと問われれば、別種の意味で難敵だ。

 なにせ――。


『GUGGGGGG――』


 金属の擦れる音が咆哮のように部屋に満ちる。

 それを聞いた瞬間、俺は己の失敗を悟った。


「呪文詠唱――!」


 リビングアーマーというものは魔法を使う。

 この金属音そのものが魔法を使うための詠唱だ。

 ミノスが強大な力でのみ相手を殴殺するのであれば、こちらはあらゆるものを利用してくる。

 魔法、己の炎、剣士としての技量。


 だが、一つ朗報といえば良いのか。

 リビングアーマーが立ち上がってくれたおかげで、次の扉が見えた。ついでに船長の娘の痕跡がその向こうに続いていることもわかった。

 このリビングアーマーに殺されていないということだ。まだ希望はある。


 ――まあ、現在進行形で俺の希望は失われつつあるわけだが。


 なにせ、こいつらが使う魔法というのが――


「ツカサ様!」


 ――双方の合意を確認。

 ――契約の順守を開始。


 神の声(システムボイス)が響けば、炎が入り口をふさぐ。

 その炎の色は白。

 白とは神の色であれば、これはまぎれもない神の炎。神の炎は昔俺も使っていたもので、一抹のなつかしさがあるが、そうも言っていられない。

 おかげで、誰一人としてこの部屋に入ることも出ることも出来なくなってしまった。


 決闘結界だ。

 騎士故に厳格に、決闘というものを大事にするらしいこのリビングアーマーは魔法を使って1対1を作り出す。

 パーティー単位で強い探砂師も、個人になると弱いことも多い。俺がその典型であれば、まさしく天敵だ。


 魔法ならば解除、あるいは力づくということも出来ただろうが厄介なことにこれは契約魔法なのだ。

 部屋に踏み込むということを条件にしたのだろう。それにより合意と見なし、結界は完成した。

 契約を破るのは非常に困難だ。


 なにせ、神の声――正確には神様本人のものではないらしいが――公正なる天秤神が繰り出した契約によってこの契約魔法は例え、魔であろうが人であろうが、順守される。

 あの神は、ただ一人誰に対しても厳格で公正だった。だからこそ、魔物であろうとも契約魔法を行使することが出来る。


「――最悪だ」


 よって神に愛されているがゆえに、神に対して一切逆らうことが出来ないらしいリリアはことさら手が出せないのである。

 つまり俺が戦って勝たなければならない。


 リビングアーマーが構えを取る。

 大剣を担ぐように立つ。


「はあ――」


 息を吐き、調息。乱れた心拍を正常へ。


「リリアそこで見てろ――良い機会だから、俺の力を見せてやるよ」


 まあ、見せられるだけの手札なんてそうあるわけではないが――。


 リリアに頼り切りではないというところを見せなければ男としてのプライドが許さない。何よりここで頑張るとリリアに褒めてもらえるだろう。

 こう俺がこうなってる元凶である点を鑑みると複雑であるが、嫌いな相手からであろうとも称賛は称賛で嬉しいものだ。


「行くぞ――」


 リビングアーマーとの戦いが始まった――

さあ、次回、ツカサの実力が!

基本的に私の主人公は、チートパワーで戦うよりも持っている手札で戦う系。

なので圧倒的な勝利なんて望むべくもなく。


ただし、相性ゲーなので、相性が良ければ勝てます。


まあ、それはさておき評価、感想、レビューください。

よろしくおねがいしまーす!

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