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第19話 葬列の雷雲 掴んでいたのは……

度忘れしていたので割り込みしました。

「くそがあああああああ!!!」


 怒声が酒場に響き渡る。一瞬、静まり返り酒場の従業員や宴会をしている探砂師たちが怒声がした方を見る。

 そこにいたのはライたちのパーティー『葬列の雷雲』の面々だ。

 注目は一瞬だけ、すぐに視線は霧散し、再び楽し気な雰囲気へと酒場の中は戻る。


「くそ、くそ、くそ」


 それでもライの荒れ模様は変わらない。まさにパーティー名らしい荒れ模様だ。

 ルーはあまり関わりたくないというか、予想通りだからといって別に気にしないほどルーは人間が出来ているわけではないのだ。

 けれど、リネアとレスト、ロウは違うよう。深く落ち込んでいるし、ライと同じく訳が分からないという顔。


 ルーたちは探索に失敗した。

 いや、失敗には入らないのかもしれないけれど、失敗したとライは思っている。

 確かに中域は探索できた。この調子なら目標の深域にも行ける。攻撃に使える人が増えたおかげで魔物も倒しやすい。


 けれど、思ったようにはいかなかった点も多いということでライが荒れている。

 普段以上に襲われる。斥候が気にしているのに、不意を打たれる不運(・・)が多かった、

 さらに稼ぎも少ない。


 いつもなら依頼達成報酬に加えて、たくさんのお宝を見つけていた。それが今日はゼロ。おかげで十分の一まで稼ぎが少なくなっている。

 だから、ライは大いに荒れていた。


「おい、盗賊王なんだろ! なんで全然お宝を見つけられないんだ!」

「え、ええ……ぼ、ボクの仕事は斥候で、そんなほいほいと宝を見つけるなんてできませんよぉ」


 当然だ。

 盗賊王の才気は基本的に気配遮断による盗みとか、偵察という方面に向いている。攻撃性能も奇襲状態なら非常に高い。罠解除など迷宮探索で重宝される。


 ライの言う宝さがしはどちらかというとトレジャーハンターの才気。あるいは探すの才気持ちが有効。

 探索というのが一番いい。動作級の中でも持っていれば役立つ才気で、探索における一通りをこなせる応用力がある。


 ライは馬鹿なので知らないようだけど、ルーたちの持っているような王級、伝説級の才気は遊びがない。

 上のランクに行くほど強力になるが、それはすなわち特化しているということ。


 特に王級の盗賊王や魔導王になるとそれ以外のことが出来なくなる。

 ルーであれば才気を使ってできるのは多種多様な魔法を打つことだけ。それだけに限れば汎用性はある。

 ただし、そこを超えて汎用性を発揮できない


 例えばツカサの掴むなんて結構でたらめなことをやっている。

 ライはあれを物理的なもの遠くに在るものを掴むだけに思っていたが、実は他にも使い道があるのだ。ルーだけがそれを知っている。


 幸運を掴む。

 胃袋を掴む。

 人の心を掴む。

 コツを掴む。


 物理的、精神的を問わず、掴もうと思えば掴める。

 確かに『掴む』しかできないが、その応用力は計り知れない。

 砂山で遭難した時にツカサに聞いたから間違いない。


 だから、王級といってもすべてにおいて万能で強く、役立つというわけではない。

 剣王は確かに剣術において他の追随を赦さないかもしれない。

 だけど、その才気を使って、縁を切るや仕切ると言った応用という行為ができない。切るという才気ならできるらしいとツカサは言っていた。


 あとは、ツカサが変なことを言っていたけれどルーは覚えている。

 この動作級や王級などのランク分けは、いわゆるれありてぃ?というものらしい。

 動作級は星3、伝説級は星4、王級は星5、神話級は星6。

 確かに星3は弱いけれど、その分汎用性などで上のれありてぃに負けない強みを出せるとかなんとか。


 何を言っているのだろうとルーは思ったけれど、盗賊王を見て理解した。

 つまり高いランクの才気ほど、特化し応用性あるいは汎用性が消え失せるということ。

 盗賊王は、気配を消す、罠を解除する、潜伏するなどと言った方向に特化しているということらしい。


 だから、宝を見つけるということが出来ない。

 その点ツカサは、幸運を掴むことで宝をホイホイと見つけていた。


「…………」

「うぅ……どうしようねえ、ルーちゃん」

「…………知らない」

「どうして今日は駄目だったんだろう……」


 リネアがわからないと涙目になっている。

 ふふん……それはツカサがいないから、といえばツカサの評価が上がるかもしれないけど、ルーは言わない。

 ツカサの価値はルーだけが知っていればいいから。


「……さあ」

「なにこういう日もございます。今までが幸運だったのでしょうや。それに探索自体は成功しているのです。問題ではないでしょう」

「問題だっての! テメェは良いよな! 敵と戦えればそれでいいってんだから」

「然り。さりとて先立つものが要らぬとは言っていませぬぞ。ただそういう日もあるだけと心得ているだけですよ」

「ケ! ロウ、明日はちゃんと宝を探してくるんだぞ」

「は、はぃ……」


 パーティー内の不和で酒がおいしい。

 おっと、ルーはそんなに性悪ではないのでした。


 でも、ライが騒いでいるのを見るのはいい気分。ツカサを追放した溜飲が下がるというもの。

 ツカサの価値はルーだけが知っていたらいいから教えてやらないけど。


「……ライ、わかってますね」

「く、わかってるよ!」


 稼げなくなればルーはパーティーを抜ける。

 それがルーがパーティーに加入する条件。少なくとも今の稼ぎでは足りない。

 今までの分が減っただけだけれど、今までのあるからルーは足りないと言える。


 悔しそうな顔のライを見ると本当に良い気分。


「……ちょ、ルーちゃん! ライくんも、明日頑張ればいいからね!」

「チッ、そうだな。明日だ。依頼はこなしてるんだ。あとはこいつが宝を見つければいいだけだからな」


 別に宝を探すことがルーたちの目的ではないけれど、宝を探し出せれば儲けが違うのはわかる。

 1度味をしめたらもう知らない頃には戻せない。


「…………」


 でもきちんと仕事をしているのに叱責されたロウは、不満を溜めているのがわかる。


 このパーティーの末路が見え始めて来て思わずルーはほくそ笑む。

 ツカサの価値はルーだけが知っていればいい。

 だけど、ツカサを追放したこのパーティーを赦すはずもないから、ルーは止めない。

 末路が楽しみ。



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