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第18話 説教

本日二回目の更新です!

「ええとだな、ステラ、彼女は――」


 ステラにリリアのことをどう説明したものかと悩んでいる間に、リリアの方が動いていた。


「リリアです! よろしくお願いします!」

「リリア……それが本名?」

「はい!」

「……そう」


 雰囲気が明確に変わった。

 つい先ほど和らいだものが、再び絶対零度まで落ち込むことになる。


 ――いや待て、なんだ。

 ――どうして、リリアの名前を聞いた途端、不機嫌になる。


 珍しくステラの眼には敵意が浮かんでいる。


「そう、リリア。リリアなのね。王都のリリアで良いのかしら」

「はい!」


 なんでリリアが王都出身だって知っているんだ。

 まさか、リリアについてステラは俺も知らないことを知っているのか。


「ねえ、ツカサ」

「あ、ああ、なんだ?」


 こっちに来るとは思わなくて、少し反応が遅れた。

 なんだ、ステラは何を知っているんだ。


「この子のこと、どれくらい知っているの?」

「どれくらいって、昨日あったばかりで殆ど知らない」

「でも、ギルドに登録したってことはあなたが手引きしたのよね」

「あ、ああ」

「じゃあ、この子の才気についても知ってるわね?」

「…………」

「沈黙は肯定よ。都合が悪くなったら黙る癖は直した方が良いって社交界に出るときに言わなかったかしら」


 言われた。

 いや、いまはそうではなく。


「何が言いたいんだ? はっきり言ってくれ、宮廷の作法は俺には合わないの知ってるだろ」

「……そうね。言うわ。この子、魔王を殺した張本人よ」


 なんだ、そんなことか。それは既に知っている。

 もっと重大な秘密か何かが出てくると思っていたから拍子抜けしてしまった。


「なに、その顔」

「知ってるよ」

「……知っている?」


 今日は珍しいことが多い。

 いつもクールで表情の変化がそんなにないステラがあきれたような驚いたような表情に変わっている。

 すぐにそれは元に戻る。


「――なら、なんで。なんで一緒にいるの」

「いたらダメなのか?」

「……こいつはあんたがこうなる元凶でしょう」


 ステラが何を気にしているのかわかった。


「ああ、そうだな」

「そうだなって、他人事みたいに」

「それはわかってる。わかった上で連れてきた。ほっとけなかったんだ」

「…………」


 ステラが盛大に溜息をつく。

 完全にあきれたようだ。


「わかった。あなたが納得しているなら良い――リリアだっけ」

「はい!」

「あなたはツカサを裏切らない?」

「はい! 永遠より長く、永劫より深く、那由他の果てまで、わたしはツカサ様と共に在ります」

「それ結婚の宣誓よね………………良いわ。入って」

「ありがとうございます!」


 何とか事なきを得たようで良かった。

 ここでもめられたら俺はステラの味方をしなくちゃならない。ここでリリアを放り捨てるという選択肢はなかったから助かった。


 リリアがまず中に通されていったので頃合いだと思い、懐からネックレスを取り出す。


「その色々心配かけたからこれ」

「……物で機嫌を取ろうなんてあさましいわね」

「……」


 ――そら見ろアクセサリー屋の親父、ステラはこんな反応だぞ。


「でも、ありがとう。つけてくれるのでしょう?」

「……おう」


 どぎまぎしながらもその首にネックレスをつけてやる。その際、何やら滅茶苦茶いい匂いがしたのは必死に記憶にとどめる。

 反応しないようにするのが大変だった。


「似合う?」

「似合う似合う」

「嘘っぽいわね」

「なんでも似合うって思ってるよ」

「まあ、良いわ。あなたからの贈り物だもの。大切にさせてもらうわ」


 ともかく、機嫌が直ってくれたようでほっとする。


「ああ、そうだ忘れてた――おかえりなさい」

「――――ただいま」


 俺はようやく家に帰ってきたのだと実感した。

 そんなに離れていないというのに死にかけたからか、ずいぶんと長いこと離れていたようにも感じるほどだ。


「それで、ここに連れてきたということは」

「リリアに部屋をかしてやってくれないか?」

「どこまでもお人好しね。良いわ。ただし家賃は支払ってもらう」

「そこは、探砂師としての稼ぎで支払わせるさ」

「確かにそれが一番ね。案外、あなたの借金もすぐ返し終わるんじゃないかしら、彼女と一緒なら。それならすぐにこんなところ出ていけるわね」

「なんだ、出ていきたいのか?」

「あなたが出ていきたいのならね」

「なら当分は出ていく気はない」


 まだ帰る手段を見つけていない。

 借金を返してもそれが見つかるまではここで生きていく。

 もし見つからなかったら、どうするかはその時考えるか。


「……」


 そんなことを考えたおかげでステラのつぶやきの言葉が思い出される。


 ――結婚か。


 アクセサリー屋の親父のおかげで、結婚指輪とか妙に意識してしまう。

 もしこの世界から帰ることが出来なかったら、俺は誰かと結婚することがあるのだろうか。


「…………」


 ずっとここで生きていく、か。

 戦う以外に何が出来るだろうか。俺はいったい何になれるというのだろうか。


 考えたところで何一つ実感がわかない。


「その時に考えるか」


 結局、保留し、この日はリリアの日用品などを買いにいったり装備をそろえたりで終わった。


 ●


 ツカサが家に女の子を連れてきた。

 リリアと名乗った少女を(ステラ)は知っている。

 彼女こそ王国が作り上げた兵器だ。神に愛された女の子。貴族連中が血眼になって戦争を終わらせるために用意したもの。


 結果から言えば戦争は終わった、彼女のおかげで。

 そうツカサじゃない。ある日、神々の信託でやってきて、世界を救うために1年も大変な旅をした。

 私はそれをずっと見ていた。


「…………」


 その苦労をリリアが台無しにした。

 これは身勝手な恨みなのかもしれないけれど、言わずはいられなかった。

 それを知って連れてきたツカサにも腹が立った。ツカサは本当にお人好しが過ぎる。聖人君子じゃない分まだいいけれど、性質の悪さは変わらない。


「あの? わたし、なにか悪いことをした、でしょうか……確かにたくさんしてきましたけれど……」


 夜、部屋の用意が出来るまで私の部屋で眠ることになっているリリアが話しかけてきた。

 大きめのベッドでしか私は眠れないから一緒のベッドでも余裕がある。

 だから、一緒に寝ているわけだけれど。


 失敗した。

 彼女は存外鋭い。子供のように無邪気だけれど、人の心がわからないわけじゃない。


「……いいえ、なにも。あなたは私になにもしていないわ。これは私が身勝手なだけ」

「わたし、此処にいない方が良いですか……?」

「…………」


 思わず、そうよ、と答えそうになった。

 でもそれはできない。

 私は最大限、ツカサを尊重する。ツカサが連れてきたのならそれが全て。世話を見ろというのなら見る。


「いいえ。あなたはここにいて良いわ。ツカサが連れてきたのだから」

「……ありがとうございます。あなたは良い人ですね」


 いいえ。私は良い人なんかじゃないわ。

 ただ、『渡した』だけなのよ。


「良いから寝なさい。明日からツカサと砂漠にいくのでしょう。足を引っ張ったらお説教だからね」

「はい! それで……その……」

「なに?」

「これからも一緒に寝て、いいですか? 1人は寂しくて眠れないので……」

「……良いわ。好きにしなさい。ツカサのところに行かれても迷惑だから」

「ありがとうございます!」


 それからすぐリリアの寝息が聞こえ始めた。

 どうにも私は、今日は寝付けそうにない。


「本当に良かったの? ツカサ……」


 私のつぶやきに答えはなかった――。

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