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第17話 ステラの怒り

「あら、随分と遅い御帰りで」

「げ……」


 家の前に(ステラ)がいた。

 俺の脳裏をかつての強敵たちが走馬灯のように駆け抜けていった。

 一番の強敵は母親だったな。何かにしても朝起こそうと……いや、そっちの強敵じゃない。異世界の方の強敵だ。


 四天王。八大地獄。十天衆、十二星座……。どいつもこいつも強かった。

 だが、俺のチート能力の前には無意味だった。

 正直、あの頃は、強敵で死ぬとは思っていなかった。

 チートで無双、本当に楽しかった。出来れば今も無双したかったと本当に思うほどだ。失って初めてわかるチートのすばらしさ。


 攻撃はほぼ同格の相手からしか効かないし、傷を受けてもすぐに回復する。

 何より白い炎がとてもかっこよかった。あれを纏ったり、剣にしたりして戦う俺はきっとかっこよかったはずだ、たぶん。


 チートに頼るな自分の力でやれというやつらは考えてもみろよ、無双ゲー好きだろ? あれで一般兵士並みの力しかなかったら楽しいか? いいや楽しくないだろう。

 それと同じだ。いや、異世界で戦いを楽しいと言っちゃダメだろとかいう反論はなしだ。どこでだって人間楽しければ何とかなるものだから。


 いや、そんなことを考えている場合じゃない。

 まずはこの状況を、ラスボスの相手をしなければ……!


「ええと、今、帰った」

「ええ、おかえり」


 そっけない一言で表情も普段通りのはずなのに、一向に体に感じる重圧が消えてくれない。

 ヤバイ、滅茶苦茶、怒っていらっしゃる。


「ええと、怒ってる?」

「怒っているわ、当然よね」

「でも、ちゃんと帰ったし……」

「ちゃんと帰ったわね。そこは褒めてあげます。よろしい、キスでもしてあげましょうか? でもね、パーティークビになってたんだって?」


 そっちかああああああ!


「クビになったのにどうして家に帰って相談もせず、一人で危ない砂漠に出ているのかしら。それに新人を助けるために1人でミノスの相手をしたって?」


 ヤバイ、何も言えない。

 これに関しては、借金があるから……なんて言った日には、さらに怒髪天になるのは明白だ。

 ステラへの借金があるからという言い訳はつまり、ステラのせいで一人で危ない橋を渡りました、ということになるからだ。

 そんな責任を押し付けてみろ、ヤバイ、今の怒り何て比じゃないだろう。


 そう、確かに帰ればよかったのだ。

 クビになって冷静じゃなかったと今更自覚する。いくら借金があるからと言ってステラに何の相談もなくひとりで砂漠に出ることなんてなかったのだ。


 さらに悪いことにミノスのことまで知られている。カノンさんめ、あの2人からギルドへ報告した内容から察してステラに伝えたのか。

 だから、こんなになっていると。だが、全て自業自得のおかげでなにも言えない。


「私は言いました。何かあったら相談してくださいと」

「はい……」


 ヤバイ、ステラが敬語になる時は途轍もなくイラだっていたり、怒っていたりする時だ。しかも非常に聞き取りにくい宮廷言葉の発音になっている。

 チートがある時ならいざしらず今は、翻訳してくれる便利な力は失われている。おかげでこの国の言葉を1から覚える羽目になった。

 ステラが根気強く教えてくれなかったら本当に野垂れ死んでいた。


 日常会話などは問題なくなっているが、宮廷言葉は無理だ。

 あれは胡乱な言い回しが多すぎる。直接的な表現を憎んでいるとでも言わんばかりの表現しか使わないのだ。


 貴族の雅で優雅な言葉というやつだ。

 これも覚えさせられたが、全然普段使いしないから全神経を集中させないと聞き取り損ねる。

 昔の言葉遣いが出てくるのなら、かなりのお怒り具合だ。


 社交界でこの状態のステラを何度か見たことがある。

 社交界でチャラい貴族次男がステラにちょっかいをかけてきたことがあってその後、その男は噴水に浮かんでいた。

 誰がやったのか不明の犯行だし、目覚めたチャラ男はすっかりと真人間になっていて誰もが首をかしげていた。


 だが、俺は知っている。というか、俺がその片棒を担がされたからわかる。

 ステラは怒ると苛烈だ。普段はクールで冷静だが、本当に怒らせたら駄目な奴なんだ。


「あなたも約束しました。隠し事はしない、嘘は言わない、何かあったら必ず相談する。それは初めて会った時にあなたから言ったことですね?」

「はい……おっしゃる通りです」


 自然と俺は彼女の前で正座していた。


「では、あなたは何をしましたか?」

「……何も言わずに、相談もせず、1人で決めて、砂漠に行きました、さらにミノスを一人で相手しようとしました」

「はい。よく言えました。自覚はあるようで何よりです。なら言うことは?」

「……すみませんでした……」

「……はぁ」


 深いステラの息が何よりも突き刺さる。


「良い? 死んだら終わりなの。もう昔みたいにはできない。それはわかっているわよね」


 それは何よりも優しい声色だった。先ほどまでの無味無感のものではない。こちらへのいたわりが何よりも強い声色だった。

 何度も何度も聞いた、彼女に心配をかけたらそのあとは何度も何度もそういわれ続けている。


「ああ、わかってる……」


 正直、怒られるよりこっちの方が効く。


「なら自分が何をしたのかわかるわよね?」

「……」


 俺は頷く。

 自分がどんなことをしたのかも、ステラがどんな思いでいるのかもわかっているつもりだ。

 ステラは本当に俺のことを心配してくれている。


「それでも……俺は誰かを助けたかったんだ……」

「わかっているわ」


 世界を救うはずで、誰かを助けるはずで。

 それが出来なかった。


「あんたが抱えてるものも、その悔しさも知ってる。だけど、死んだら終わりなの。それでは誰も助けられないわ。ただ1度助けられて、褒められたら満足? 違うでしょ、あなたがしたいことは、もっとたくさんの人に褒められて求められて、ちやほやされることでしょ」

「…………」


 改めて言われると滅茶苦茶恥ずかしい夢だ。

 それをステラの口から聞くというのも、リリアに聞かれているというのも恥ずかしさが極まる。

 リリアは空気を読んでいるのか何も言わないが。


「????」


 ――あ、いや、これわかってないだけだわ。


「まあ、あんたの性格は熟知しているから考えるより前に動いちゃうんでしょうけど。私に罪悪感を感じることも負い目を感じる必要もないわ。反省しているようだし、お説教はここまでにしてあげる」

「はい。本当にすまん……」

「良いわ。あなたに苦労させられることは苦じゃないもの。それで、今度(・・)はちゃんと助けられたの?」

「ああ」

「そう、今度はちゃんと助けられたのね。良かったわ、本当に。ならたくさん褒めてあげる。いい子いい子」


 まるで小さな子供みたいに頭を撫でてくる。

 恥ずかしいが妙に嬉しさがこみあげてくるのだから、何とも言えない。


「馬鹿にしてないか……」


 かろうじていえたのがこんな一言で情けない。


「してないわよ。褒めてるの。さて、それじゃあ次よ。その子はいったい誰なのかしら」


 ステラの視線はリリアへと向いた。

 さて、なんと説明したものか――。

ステラさんお怒り。

会話は普通ですが、実際は宮廷言葉で胡乱で遠回しな会話していたという脳内補正をお願いします。

彼女とツカサ君は色々ありました。

いずれそれも語る日が来るでしょう。


今は、とりあえず感想、レビュー、評価が欲しいのでよろしくお願いします!

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