第13話 帰り道
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ともあれミノスを倒したあとどうなったのかはわかった。これからラーシャナに帰るとなったが、もちろんリリアは俺についてくるという。
契約し、主になったのだからどこまでもついてくという。
――ピ〇ミンかよ。
と思ったのは内緒だが、まあついてくる分には良いだろう。
これからも砂漠にいくのならだれかと組むことは必要だ。それが裏切らない相手であればなおよい。
だまして悪いが、なんてのは探砂師たちの間では常識だ。背中を預けた相手に背中を刺されるということはままある。
中堅以上からはそんなことも少なくなるがランクの低い探砂師を専門に狙う詐欺狙いの探砂師だっていないわけではないのだ。
信用できる相手がいない場合奴隷を買うことが定番だ。探砂師ひとりでもそれなりに力と才能があれば、奴隷を買うくらいのことはできる。
奴隷は首輪にかけられた術式により主の命令には逆らえないし、主に武器を向けることも出来ない。
だから安心安全のパーティーメンバーになれる。
誰も信用できないなら頑張って金を貯めて奴隷を買う。
そうすれば2人になって一人ではできないことが出来るようになる。金も貯めやすくなり、良い武具や道具を買いそろえ、再び奴隷を買って人数を増やす。
そうやって成り上がった探砂師を俺は知っている。
奴隷ではないが、契約のおかげか俺に忠実に従ってくれるらしいリリアはうってつけだろう。
まあ、彼女が裏切らないとは限らないが、ニコニコと疑うことを知らないでこちらを見てくる様は犬そのものなので大丈夫な気がしている。
そもそも神を世界に対する契約なので、主以外からはこの契約をなかったことにはできない。
だから裏切られる心配はない。
心配はないがつい考えてしまうのは俺が臆病だからか慎重だからか。
「そうなるとお前の家とかいるよな。ギルドにも登録しないといけないし」
「わたしやり方わかりませんし、家もありません!」
「はい、良く言えました。まあ、カノンさんに頼めばそこらへんは何とかしてくれるだろうし、家は……ステラに相談するか」
ラーシャナの街のどこに不動産屋があるかわからないし、その手の手続きが面倒すぎて全部ステラに任せていた。
一応、弁明しておくがあの当時は俺が最もふさぎ込んでいた時期だから出来なくて仕方ない。そう仕方なかったんだ。
とりあえず、ラーシャナに戻ったら連絡できずに1日も家をあけてしまったので、ステラにお詫びの品を買って土下座だな。
心の中で予定を立てつつ、装備の確認をする。
ぼろぼろだが、まだまだ使えるし、砂丘に置いた荷物もリリアがもってきてくれていたのですぐに出発できる。
「良し、行くか」
「はい!」
色々あったが戦利品はある。
想定していたよりもはるかに良い探索結果だ。
「さて、どうやってこのミノスを持って帰るかだな」
本来なら中域で出る魔物だ。
こいつを持ち帰るには砂上船が必要だ。なにせ巨大な人型の牛である。これを人の手で持ち帰るには解体する必要があるが、ここで解体はしたくない。
「うまい具合に焼けてるからこのまま持ち帰りたいんだよなぁ」
ミノスの素材のほとんどは肉である。そうミノスは食材である。豊富な魔力を含んだ肉を持ったミノスの筋肉も身も脳みそもすべてが絶品に化ける。
黒焦げも覚悟していたがどうやらうまい具合に手加減とやらをしたのか、良い感じの焼け具合なのである。
切り分ければその場で食えてしまうだろう。それに魔物の肉はかなり持つし、焼けたあとも日持ちする。
むしろ調理要らずだと重宝される。ミノスはでかいからな。ミノスを最もおいしく食べられるのが丸焼きなのだ。
そんな窯や焼く施設はない。本来なら討伐したらそのまま持ち帰り、砂漠の太陽で焼くのだ。
水を利用したレンズを使ってうまく集光して焼く。じっくりと焼いていくのだが、その際に周りに溢れる匂いがまた格別で、よだれが止まらなくなるほどだ。
その手間のおかげでミノスの丸焼きはかなりの高級料理なのである。
だが、素材を売るとなれば素材分しかない。焼く手間とコストをこっちでやったのだから、その分だけ売値を釣り上げても文句は言われまい。
「ツカサ様が悪い顔してます」
「ああ、ミノスは金になるからな。しかし、どうやって運ぶか」
「運びましょうか?」
「運べるのか?」
「ツカサ様が運んでほしいと言ってくだされば」
「じゃあ、運んでくれ」
「はい! ――よっと」
リリアに頼むと軽くミノスを持ち上げる。
俺よりも小さな少女が巨大なミノスを持ち上げている光景は、あまりにも非現実的過ぎて笑えるほどだ。
これが神に愛されているのだからこれくらいはできて当然。チートがある頃は俺だってこれくらいできた。
竜だろうがなんだろうが、持ち上げることが出来た。今は、近域の魔物すら持ち上げるのに苦労する始末だ。
まったく神様ってやつは平等じゃない。
まあ、そりゃ俺みたいな男よりもリリアみたいな可愛い娘の方を応援したい気持ちはわかる。
それにしたって、チートを剥奪して家に帰さないってのはないだろ。
「……」
駄目だ。
あの雷を見てから昔の考えが出てきて仕方がない。
どうして俺が、どうして俺じゃないんだ、なんで俺が、なんで俺じゃないんだ。
そんな魔王を倒されたことに対する許せない気持ち。
俺が倒すはずだった。なんで、それまで待ってくれなかったんだ、なんてこの世界の人間に言えるはずがない。
何年も数十年も魔王と戦い続けて、たくさん死んだ。
そんな彼らを責めることはできない。
ましてや、誰かの為に戦ったリリアを、10歳で魔王と戦った彼女をどうして責められよう。
――ああ、責められるはずがない。
だけど、それでも堆積していく感情がないわけじゃない。
それに蓋をするように頭を振って――。
「帰るか」
「はい!」
ラーシャナの街に向けて俺たちは歩を進めた――。
複雑な気持ちを抱えつつ、それはそれとしてミノスは売りつつ帰路へ着いた月冴君であった。
それはさておき、乾燥ください、レビューください、評価ください!
欲しいものは欲しいと叫ぶのだ!
しかしコロナヤバいですね、どうなることやら……