第10話 白雷
異世界に行ったら、別の誰かに世界を救われてしまったので今は砂悪を掘り起こす仕事をいしてます
略して、異世砂漠
伊勢の鯖みたいな語感が良いと思います(自画自賛)
「――わたしと契約してください」
逃げずに俺を見ていた彼女がそう言ってきた。
絶望一色だった雰囲気に光がさしている。
この短い間に何があったのだろうか。
「は……?」
そもそも契約とか意味が分からない。こんな時に何を言っている。
わたしと契約してくださいって、某魔法少女のマスコットか。
契約することで俺に力でもくれるのか? いいや、そんなはずないだろう。そんなことが出来るのは神だけだ。
ならば彼女のいう契約とはなんだ。
まるきりわからない。情報が足りない。こんな契約詐欺と同じだろう。あとでどんな対価を請求されるのかわかったものではない。
何を得られるのかもわからない。
だが、ミノスはこちらに向かってきている。
地鳴りの如き足音は明確に、こちらに殺意を向けてきている。
下卑た笑みは、獲物を追い詰めた強者の舌なめずり。獲物を前に舌なめずりは三流のやることと誰かが言っていたが、違う。
舌なめずりをしてなお、必ず仕留められると言っているのだ。
正直なところ問答をしている暇などない。
こちとらまともにな一撃を喰らってすらいないのにもうボロボロなのだ。
意識がもうろうとしていて深く考えることが出来ない。
だから、聞くべきことはひとつだ。
「それで、どうにか、なるのか……」
この契約が本当にしていいものなのかとか、そういうことではなく――この状況を打開できるのかどうかを問う。
この状況を打開できなければ死は避けられず、護りたいと思ったものは守れない。
誰かに横からかっさらわれるなら良い。
だがそれすらなく、目の前で誰かの悲劇が訪れるというのなら、契約をしないわけにはいかない。
「あなたが、そう望むのなら」
彼女はそう言った。
名前も知らない。素性も知らない。何もかも知らない。どれだけ彼女が強いのかも、彼女がどんなものなのかも。
俺は一切知らない。
俺が知っていることは彼女が何かに絶望して暗い顔をしていたことだけ。
「あなたが望むならわたしはわたしの持てる力のすべてを使うことが出来るようになります」
「俺が強くなるとか、そういうのじゃないのか……」
「はい、それは神様の特権ですから。でも、わたしは神様に愛されています。だから、必ず救って見せます。もう一度、わたしは誰かを救ってみようと思います」
その彼女が、強く明確に――笑みを以て、しっかりと俺に言葉を返した。
ならば信じよう、契約をしてこの状況を覆せると言った彼女を。
自分に力がないことが血反吐を吐くように悔しいさ。自分でどうにもできないのが悲しいさ。
だけど、見誤ってはいけない状況がある。
今が、その時だ。
俺のプライドでミノスがたおせるなら良い。でも倒せないんだ。
「……なら、契約する……頼む……」
後は野となれ山となれ。
「はい。ありがとうございます。お名前を」
「ツカサ……柚木月冴……こちらだと、ツカサ・ユヅキ、になる……」
「では、ツカサ様……あとは血を――」
女が俺の手を取り、そこに流れる俺の血を舐めとる。
なまめかしい仕草に少しだけ頭がくらりと来た。
それは決して血を流し過ぎたからではないだろう。
「ん――」
こくりと小さな喉で俺の血を飲み込む。
「ツカサ様。わたしはリリア。ただのリリアです。名と血を交わし、わたしは新たに誓いましょう」
それは祈るように朗々と紡がれる、世界へと謳う宣誓歌。
「宣誓:創世より終末へ――我が命は主の為に」
――永遠より長く
――永劫より深く
――那由他の果てまで
「わたしは、わたしに与えられた役割を全うします」
それは世界への宣誓だった。
朗々と紡がれていくは、神と世界への宣誓。
交わした制約に書き加える血の誓い。
「わたしは世界に愛され、わたしは神に愛された。
だからこそ、わたしは全てを救います」
神と世界が与えた全てを彼女は救うことに使うとした。
それこそが己のやるべきことだとまだ幼かったリリアは神と世界に誓ったのだ。
そして、その力の大きさも知っている。
「どうか新たな担い手よ、わたしを正しく使ってください」
だからこそ、己という存在を使ってくれるものを必要とした。
契約とはそういうこと。
俺は目の前で起こる荘厳なる宣誓を前に、その事象の情報を掴み取っていた。
リリアが俺に理解してほしいからか、あるいは世界そのものが教えてくれているのか。
俺は目の前で起こる全てを掴み取っていた。
――神の力が吹き荒れる。
『GRAAA――』
ミノスも異変に気が付く。
だが、もう遅い。
「わたしはこれよりツカサ様の剣となります――どうか、承認を」
「――承認する」
「ありがとうございます」
宣誓はなされ、あらゆる総ては彼方へと置き去りとなった。
もはや那由他を超えられぬ者に彼女は止められない。
その瞬間、あらゆるものが変わった。
彼女――リリアの雰囲気も、この場の雰囲気も。
天気すらも。
雲一つない青空が曇天に覆われ、雷が爆ぜている。
灼熱の砂漠の気温が下がっている。
「どうか見ていてください。わたしが間違えないように。わたしのことを想ってただいたあなたのためなら、わたしはきっと何でもできます」
「何でもはさせねえよ。やりたいことだけやってろ」
「……はい!」
リリアはミノスを見据えた。
「天上神の雷霆――』
リリアの身に雷が落ちる。
だが彼女が感電することはない。
焼け焦げることもなく、白雷は彼女を護るように衣服か如く身に滞留する。
「あれが、神話級の才気」
白とは神の色。
白の雷はまさしく神鳴りだ。
「――――」
一足。
踏み出した瞬間、砂丘が爆ぜる。
閃光となったリリアはまっすぐにミノスへと突撃する。
まさしく雷速となったリリアの突撃を阻めるものなどありはしない。
一閃を引きながら、霹靂が如く白雷が天へと立ち昇り、沸き上がった曇天を切り裂いた。
降り注ぐ光の中に立っているのは、リリアただひとり――。
俺はその光景に目を奪われた。
天へと昇った雷そのものに目を奪われた。
なぜならば、俺は知っている。
俺はそれを見たことがある。
あの時、6年前。
俺が力を失う一瞬前、魔王を倒したとされる一撃。
魔王の城より立ち昇った白き雷とまったくの同一だ。
「ああ……おまえ、だったのか――」
「やりました!」
暗さや絶望などどこかへ失せ、太陽のように輝くリリアの笑顔を俺は見ることが出来なかった――。
これが我らがヒロインリリアちゃんの実力だァ!
というわけで、ヒロインリリアちゃんが真の力を出します。
鬱状態を脱して、本来の性格も出てくるので、結構可愛くなると思います。
なお彼女はかなり強いですが、それ相応の制限もたくさーんかかっているので、ツカサ君が戦わなければならない事態とかもいっぱい出てきます。
まあ、それはさておき、面白ければ感想、評価、レビューをよろしくお願いします!
常にほしいと言っていくスタイル。