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【94】BREACH OF FAITH -裏切り者は身近にいた-

「振り切ってやる! もっと飛ばすぞ、ディーノ!」

「ヒヒーンッ!」

ノエルが檄を飛ばすと同時に純白のユニコーン――ディーノは大きな声で(いなな)き、ただでさえ速かったのに更なる加速で追っ手を突き放す。

「ジル、もっと速く走って。追いつかずにプレッシャーを与え続けるのよ」

「ヒヒン!」

しかし、追っ手のユニコーンもそれに呼応するかのようにペースを速め、こちらとの間合いを一定に保ってくる。

攻撃マギアの最低射程がこれぐらいだからだと思われるが、冷静に間合いをコントロールしているところが逆に恐ろしい。

もしかしたら、僕たちは罠に嵌められてしまったのかもしれない……。


「むっ……何だあれは! 待ち伏せか!?」

その時、後方から飛んで来る攻撃マギアを巧みな乗馬技術でかわしていたノエルは進行方向が封鎖されていることに気付き、咄嗟(とっさ)の判断で街道を外れて大草原へと逃げ込む。

彼女は背の高い草が生えているルートをあえて選択し、しつこい追っ手が諦めてくれることに期待する。

「あの雑木林に突っ込むぞ! あそこで後ろのヤツを撒いてから改めてアーカディアに向かおう!」

「あれですか?」

「ああ、面積は狭いが中は鬱蒼(うっそう)としているはずだ。あそこで見失ったら当分は見つけきれないだろうな」

そう言いながらノエルが指し示しているのは、広大な大草原の中にポツンと孤立している雑木林。

どこからどう見ても明らかに不自然だが、これは元々あった森を切り拓く際に「木を利用する生き物のために残しておこう」という理由で伐採を免れたものだ。

人間がこの地を開拓する前は地平線まで森林が広がっていたらしい。

確かに、これだけ暗い森であれば逃げる側のほうが有利になるだろう。

「さあ、行くぞ! 木の枝に服が引っ掛からないよう押さえておけ!」

「は、はい!」

僕が服の端をズボンの内側に押し込んだのを確認すると、ノエルは手綱を引きながら愛馬ディーノを雑木林へ突っ込ませるのだった。


 雑木林の中はまだ昼間だというのに薄暗い。

足元に注意しながら純白のユニコーンは森を駆け抜ける。

ただ、足場が良くないためか先ほどまでの快足を発揮することはできないらしい。

追っ手の姿が見えなくなったのは不幸中の幸いだが……。

「ジェレミー、一つ尋ねたいことがある」

「な、何ですか……?」

「さっきからしつこく食らいついてくる追っ手――お前はアイツから何か感じないか?」

「……」

ノエルのこの質問の意図が理解できず、僕は沈黙で答えるしかない。

「何も感じなかったか……いや、気にするな。こちらの話だ」

おかしなはぐらかし方だ……。

そう言われると逆に気になってしまう。

「……あの追っ手のこと、もしかして知っているんですか?」

僕が思い切って尋ね返してみると、図星だったのかノエルはバツの悪そうな表情を浮かべる。

「ああ、そうだ――!?」

だが、彼女が僕の質問に答えてくれることは無かった。

なぜなら、口を開こうとした瞬間突然真っ白な閃光に包まれ、僕たちは一時的に視界を奪われてしまったからだ。


「ヒ、ヒヒーンッ!?」

「落ち着けディーノ! どうどう!」

初めは何が起こったのか分からなかった。

「(尻が痛い……ディーノから振り落とされたのか?)」

ただ、怯えたようなディーノの鳴き声とそれを制止しようとするノエルの声が聞こえてきたことで、僕は土臭い地面に尻餅をついたと判断した。

おそらく、真っ白な閃光を浴びたことでディーノが突然暴れ出し、そのせいで振り落とされてしまったのだろう。

落ち着きを取り戻したところでゆっくりと目を開けると、そこには衝撃的な光景が広がっていた。

「へっへっへ、残念だが逃げられないぜノエルさんよぉ……?」

「盗賊団か……悪いが貴様らの好きな金目の物は持っていないぞ。私の気が変わらんうちに退()いてもらおうか」

先ほどまでは影も形も無かった集団が現れ、僕たちの行く手に立ち塞がっていたのである。


 盗賊団――。

街道から少し逸れた脇道や夜の町外れなど人通りが少ない場所・時間帯を狙って現れ、金目の物を奪ったり人さらいを行う集団。

噂だけはかなり前から聞いていたが、実際に本物を見るのは今回が初めてだった。

……よりにもよって最悪のタイミングで。

「フンッ、今日の獲物はアンタじゃなくてあっちのガキのほうさ!」

そう叫んだ次の瞬間、盗賊団のリーダーらしき人物は素早く取り出したロープを僕に向かって放り投げる。

「な……しまった!?」

それに気付いたノエルは魔力を纏わせた手刀で切り落とそうとするが、拳半分ほど距離が届かなかった。

飛んできたロープは僕の身体に巻き付き、魔力による遠隔操作できつく縛り上げてくる。

「うッ……!」

内臓まで圧迫されるかのような痛みに思わず呻き声を上げていると、盗賊団のリーダーは身動きが取れない僕を手繰り寄せるべく、ロープを力一杯引っ張るのだった。


「は、放せ!」

「誰が放せと言われて手放すかよ。運が悪かったな少年」

今、ロープで縛られている僕は盗賊団のリーダーに担がれている。

足は動かせるが手は全く動かせないため、足をバタバタする以外にできることは無い。

「野郎ども、目的は果たした! さっさとこの場からおさらばするぞ!」

「「おぅッ!」」

ノエルの相手をするつもりは無いのか、すぐに子分たちへ撤退を指示する盗賊団のリーダー。

「その少年を解放しろ! さもなければ……本気で殺す!」

「おっと! オレ様を殺してから回収するつもりらしいが、そうは問屋が(おろ)さないぜ……?」

聖剣士が最後通告と同時に剣を抜いたその時、盗賊団のリーダーは鼻で笑いながら僕の首にロープを緩く巻きつける。

この行動が何を意味しているのかはすぐに分かった。


「このロープには魔力で命令を埋め込んでいる。オレ様が死ぬかあるいは自ら実行許可を出した瞬間、ロープが自動的に絞まってこのガキは窒息死するのさ」

おそらく、盗賊団のリーダーは僕が何者であるかを知っている。

だから、僕の命を盾にすることでノエルを引き下がらせようとしているのだ。

「クソッ……盗賊らしい姑息なマネをしてくれる」

「よーしよし、聞き分けのいいおばさんは嫌いじゃないぜ」

結局、盗賊団のリーダーが「最悪の決断」を取る可能性を恐れたノエルは剣を収め、一旦仕切り直すことを決める。

駆け引きを制した盗賊団のリーダーは上機嫌な笑みを浮かべている。

「そうだ、せめてもの情けとして一つ教えてやる。オレたち『スカヴェンジャー』はあくまでも下請けにすぎない。詳しい話はオレたちの雇い主に尋ねることだな」

「雇い主だと……!?」

ノエルが思わずそう聞き返した時、僕を捕えた盗賊団「スカヴェンジャー」は既にその場から消え去っていた。


「(情けない! 盗賊団の小娘如きにジェレミーを連れ去られるなんて……!)」

「ヒヒーン……」

ようやく落ち着きを取り戻したディーノの頬を撫でつつ、心の中では自らの不甲斐なさに怒りを隠せないノエル。

そして、彼女の怒りを更に増長させるような出来事が起こってしまう。

「……さすがの父上でもあの状況では退かざるを得なかったようですね」

「これはどういうことだ、シャーロット!?」

ノエルが振り向いた先にはディーノと同系統のユニコーンに(またが)るマギア使い――シャーロットの姿があった。

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