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【93】SAINT SWORDSMAN -聖剣士ノエル-

「これ以上の無礼はやめいッ!」

王都防衛隊の剣士たちが僕に向かって殺到しようとしたその時、大きな黒い影がそれを阻むように立ちはだかり、力強い声でシュタージの傀儡(かいらい)と化した王都防衛隊を一喝する。

僕はこの声の主を知っている!

「ノエルさん!」

「ジェレミー、無事か!? まさか、ここまで騒ぎが大きくなるとはな……」

大きな黒い影の正体――。

それは純白のユニコーンに(またが)り、神剣「フェニックス」を携える聖剣士ノエルの勇ましい姿であった。


 リリーフィールドの有力者であるノエルへ問答無用に斬りかかるわけにはいかず、王都防衛隊の隊長はすぐに攻撃中止を命ずる。

「の、ノエル様……」

「フンッ、王都防衛隊も地に落ちたものだな! 大人数で子どもを追いかけ回すとは……剣士として恥ずかしくないのか!?」

王都防衛隊の一人一人に剣先を向けながら説教を始めるノエル。

ほとんどの隊員が強烈なプレッシャーにより身動きできない中、隊長だけは何とかして自分たちの行動の正当性を主張しようとする。

「しかし……その少年は宮廷の預言者たち曰く『災厄をもたらす異界人』とのことで、しかも先ほどはスターシア国王を侮辱するような発言を――」

「この阿呆がッ! 聞いていれば責任逃ればかり……貴様ら、もう少しは自分の頭で物事を考えたらどうだ!?」

「ひぇッ……!」

プレッシャーに圧し負けてしまった王都防衛隊のことは放っておき、僕の右腕を軽々と掴み上げ自らの後ろに座らせるノエル。

「行くぞジェレミー、もう逃がし屋には頼れん! ここから先は私自身の手で何とかする!」

「でも……」

「二度も同じ過ちを犯したくないのさ……でなければ、死んだジェンソンに顔向けできんのだ」

彼女の表情はこれまで見てきた中で最も険しく――そして、強い決意に満たされていた。


 僕とノエルを乗せた純白のユニコーンは力強い走りで封鎖を次々と突破し、気が付くと市内北部のチェックポイントまで近付きつつあった。

だが、そのチェックポイントの手前には多数の衛兵が配置されており、虫一匹通さないほどの厳戒態勢を敷いている。

このまま突っ込んでも袋叩きに遭うだけだろう。

ここを突破するには何か一工夫が必要かもしれない。

「ジェレミー、私の背中にしっかり掴まってろ! あのチェックポイントを強行突破するぞ!」

「え!?」

「案ずるな、私にいい考えがある」

どうやら、ノエルはあれだけの大人数を力技で押し切るつもりらしい。

僕は「いくらなんでも無謀すぎる」と反論したかったが、ノエルの自信に満ち溢れた表情を見ると何も言い返せなかった。


「こ、このまま突っ込んでくるつもりなのか!?」

「怯むな! マギアで迎撃しろ!」

ノエルのパワープレイに困惑しつつも迎撃態勢を整え、攻撃マギアを放ってくるチェックポイントの衛兵たち。

色とりどりの属性豊かな遠距離マギアが弾幕を張ってくるが、銀色の聖剣士は強固な魔力障壁を展開することでそれらを全て受け流す。

彼女の魔力障壁は僕とユニコーンも守っているため、安心してノエルの背中に掴まっておくことができる。

「見栄えは良いが……この程度の威力で私の魔力障壁を破ることはできんよ!」

チェックポイントが近付くにつれて衛兵たちの攻撃は激化するものの、ノエルの魔力障壁を破ることはついに叶わなかった。

「た、退避ーッ! ()き殺されたくなければ横に避けろ!」

「体を張ってでも止めんか! この腰抜けどもが!」

「じゃあアンタがやりなよ! アタシたちはまだ死にたくないからさ!」

統率の取れていない衛兵たちが怖気付いて後ずさりするのを尻目に、僕とノエルを乗せた純白のユニコーンは軽々とバリケードを飛び越えていくのであった。


 市内北部のチェックポイントを抜けた先に広がっているのはキングフィッシャー平野。

スターシア王国北部の大半を占める、国内最大級の面積を誇る平地だ。

遮蔽(しゃへい)物が無く見通しの良い場所ということは、当然ながら逃げる側にとっては少々不利なロケーションであると言える。

だが、追っ手を撒くことを期待して脇道に逸れている余裕など無い。

今の僕たちにできるのは、とにかく速く走ってなるべく早くアーカディア――キヨマサたちとの合流地点へ辿り着くことだけだ。

「ジェレミー、追っ手の姿は確認できるか?」

ノエルにそう尋ねられた僕は恐る恐る後ろを振り返るが、それらしき人影は特に見当たらなかった。

「ここから見る限りではいないみたいです」

「もう一度確認してみろ。やけに刺々(とげとげ)しい、敵意に満ちた魔力を感じているんだが……もしかしたら私の勘違いかもしれないからな」

一方、「目に見えない敵意を感じる」と言って警戒心を解かないノエル。

「(何なんだこの魔力は……私はこいつの正体を知っているはずのなのに、ここまで敵意に溢れているのは見たことが無い……!)」

彼女は薄々勘付いていた。

自分たちに必死に食らいついてくる、敵意に満たされた魔力の正体を……。


 一抹の不安を抱きながらも進行方向へ視線を戻した直後、すぐ右側を雷属性マギアが(ほとばし)ったこと僕は再び後ろを振り返る。

「ッ! 敵だ!」

そこにはつい先ほどまではいなかった追っ手がおり、マギアロッドを右手で構えながらもう片方の手でしっかりと手綱を握っていた。

マギア使いとしては妙にアクティブなのが気になるものの、裏を返せばユニコーンに騎乗しながらマギアを詠唱できる技術力があるということだ。

「クソッ、しっかり掴まってろ! 奴を振り切らなければ命は無いと思え!」

あのノエルに苦虫を嚙み潰したような顔をさせる相手――。

彼女はその正体を知っているようだが、奴は一体何者なんだろうか?

【聖剣士】

剣士の中でも最高位に位置付けられているジョブ。

剣術を専門としている騎士に対し、聖剣士は同等以上の剣術スキルとマギア使い並みの魔力が要求されるオールラウンダーなジョブであり、スターシア王国にはノエルを含めて6名しかいないとされている。

なお、騎士にも「聖騎士」と呼ばれる両刀型の上級ジョブがあるが、こちらとは求められる装備が異なっている。


【宮廷の預言者】

スターシア王家の統治をオカルト的な側面から支える従者たちのこと。

業務内容などはトップシークレットとされており、その不明瞭さから預言者に不信感を抱く者も決して少なくない。

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