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【83】FIXED GAME -仕組まれた敗北-

 色々とゴタゴタがあった翌日、とりあえず僕たちは「普通に」馬車でアンフィテアトルムへ向かうことにした。

昨晩に比べたら小康状態になっているとはいえ、それでも雨具が必要なほどの雨が降りしきっていた。

「キヨマサ……今朝話した指示、必ず守れよ」

「ええ、分かっています」

今日は「準決勝ぐらいは現地観戦したい」と言い出したノエルが珍しく同行しているが、彼女は先ほどからキヨマサとひそひそ話を続けている。

準決勝に関するアドバイスだろうか?

「二人とも、何の話をしているの?」

どうしても気になった僕がそう尋ねると、キヨマサは素っ気無い表情をしながら次のように答えるのだった。

「ん? ああ、準決勝のアドバイスだ」

この時の僕は全く気付いていなかった。

まさか、僕が知らないところであそこまで話が進んでいたとは……。


「観客席の皆さん、こんにちは! 本日は昨日の午後に行われる予定だったBブロック準決勝の模様をお送りします。解説者として引き続きジュリエット選手に来てもらっております」

「どうも……」

「さて、ジュリエット選手。今日のリリーフィールドはあいにくの雨模様ですが、この天候は試合にどう影響するのでしょうか?」

「そうだね……まず、今日みたいに冷たい雨は身体が冷えるから体力を消耗しやすい。そして、マギアというモノは天候に左右されることがある。雨中では炎属性マギアはどうしても威力が落ちてしまうし、氷属性マギアも影響を少なからず受ける。水属性マギアの使い手が有利に戦えるだろうね」

「丁寧な解説ありがとうございました。さあ、まもなく決勝進出を懸けて戦う選手たちの入場です!」

実況解説者とジュリエットによる長話が終わり、準決勝を戦うキヨマサとカガがそれぞれフィールドへと入場する。

天候が天候なので観客の数は多くないが、裏を返せば外野の影響を受けづらいとも言える。

「今日は絶好の試合日和(しあいびより)――とは言い難いな、少年」

「ああ、さっさとアンタを倒して一風呂浴びたいところだ」

スポーツマンシップの一環として握手を求めるカガに対し、いつも通りの態度でそれに応えるキヨマサ。

彼の様子は……少しおかしい気もするが、まあ大丈夫だろう。

僕は雨がギリギリ降り込まない選手用出入口の角に座り込み、決勝戦に向けた情報収集も兼ねて試合を観戦することにした。


「それでは、ロイヤル・バトル最終予選Bブロック準決勝――キヨマサ選手VSカガ選手の試合を始めます。10、9、8、7、6――」

審判員のリタによるカウントダウンが始まると同時にファイティングポーズを取り、構えているカタナに全神経を集中させるキヨマサとカガ。

……周囲はそう見ていたが、この時キヨマサは既に試合終了後の「計画」について考えていた。

「(露骨に手を抜くと八百長(やおちょう)を疑われちまうからな……チクショウ、自然に負けるのがこんなに難しいなんてよ)」

ノエルの意向に従い、シュタージという懸念事項がありながらもアンフィテアトルムへ赴いたジェレミーとキヨマサ。

しかし、ノエルはもはや「ロイヤル・バトル最終予選で優勝しない限り、娘たちを『空の柱』への旅路には同行させない」という約束など気にしておらず、今の彼女は「二人の少年の安全確保」を最優先事項としていた。

ノエルが立案した作戦――それは「準決勝でわざと敗退し、手続きが終わり次第スラム街の『裏口』から町を出る」という内容であり、実行へ移すにはキヨマサの八百長が必要だったのだ。


「――5、4、3、2、1……ファイトッ!」

試合開始直後から本気でカタナを振りかざすカガに対し、「負ける戦い」をしなければならないキヨマサは適度に手抜きしながら斬撃を受け流す。

まともに斬られたらさすがに大怪我を負ってしまうため、こればかりは仕方ない。

カキンカキンというカタナのぶつかり合う金属音がフィールドに響き渡る。

「(この少年……奇妙だな。初戦で拳闘士(ボクサー)をコテンパンにした時の勢いが全く無いじゃないか)」

初戦のストレート勝ちを見ていたカガは黒髪の少年との戦いを楽しみにしていたが、彼の冴えない剣筋に少し拍子抜けしてしまう。

だが、それと同時に彼女は「何かしらの事情で本気を出せないのでは?」と薄々勘付き始めていた。

「(八百長試合を行うよう脅されているのだとしたら、何とかして助けてやりたいが……しかし、表情を見る限り圧力を掛けられているわけではなさそうだ)」

結局、疑問を払拭(ふっしょく)できないままカガはキヨマサの烈火刀「ヨリヒメ」を弾き飛ばし、第1ラウンドを先取してしまうのだった。


 一方、今日のキヨマサの戦い方に違和感を抱いているのはカガだけではなかった。

「(今日のキヨマサ君は明らかに手を抜いている……ノエル師匠が言っていた『逃避行』と何か関係があるのか?)」

解説席から試合を見守っているジュリエットもまた、キヨマサの奇妙な動きを見抜いていたのだ。

彼女はノエルから「少年たちがシュタージに目を付けられた」という話は聞いていたが、それより先の予定については何も知らされていない。

ただ、一つだけ言えることは……キヨマサやジェレミーは早急にリリーフィールドを離れるべきだということだろう。

リリーフィールドにいる限り、土地勘に優れるシュタージから逃れられる術は無いのだから……。

「(シュタージ……いや、スターシア王家の差し金か? あいつら、なぜジェレミーたちに拘っているんだ?)」


 結局、第2ラウンドでも冴えない戦いに終始したキヨマサはあっさりとダウンを奪われ、準決勝敗退という結果に終わった。

「試合終了! これで明日の決勝戦の組み合わせが決定しました! ジュリエット選手、今回の試合は何と言うか……盛り上がりに欠ける感じでしたね?」

「うん、準決勝というプレッシャーや天候が彼のパフォーマンスに悪影響を及ぼしたかもしれない。だが……」

「? どうかしましたか?」

「……いや、何でもない。とにかく、決勝進出を勝ち取ったカガ選手はおめでとう。明日のジェレミー選手との戦いにも期待したい」

実況解説者もジュリエットも腑に落ちない状況の中、今日のプログラムは全て終了。

数少ない観客たちは試合内容のつまらなさを愚痴りながら退場していく。

「(やはり、キヨマサ君は明らかに手を抜いていたな。ふむ……)」

キヨマサの奇妙な様子――そして何よりも、ノエルと偶然再会した時に彼女が発した「逃避行」という言葉がどうしても頭から離れず、すぐに手荷物を纏めて解説席から立ち上がるジュリエット。

「ジュリエットさん! この後打ち合わせが……!」

「それまでには戻る!」

困惑する実況解説者に別れを告げ、ジュリエットは1階の選手控室へと急いで向かうのだった。

弟子に八百長を指示した、かつての師匠の真意を知るために……!

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