【77】BLITZKRIEGⅡ -一転攻勢-
「でぇりゃぁぁぁッ!」
僕の雄叫びへ呼応するように烈火刀「ヨリヒメ」の刀身が銀色に光り輝き、ダガーを構えているエリノーラに襲い掛かる。
「くッ……その程度の斬撃なら!」
最初の一撃こそ受け流す際にふらついたエリノーラだったが、その時点でまだ僕が「ヨリヒメ」を使いこなせていないことを見抜き、次の攻撃からはバランスを崩すこと無く受け止めてみせた。
「体重が乗っていないのよ! 付け焼き刃的な攻撃じゃ私は倒せない!」
「それは僕が一番分かっている! でも、それはどうかな!?」
利き手ではない左腕でカタナを振るっても威力には期待できない。
もちろん、そのことは僕自身が一番よく分かっているつもりだ。
「烈火刀『ヨリヒメ』! 僕の魔力に……いや、僕の『決意』に応えろッ!」
左手に持つカタナへ魔力を込めた次の瞬間、「ヨリヒメ」の輝きがより一層増すと同時にエリノーラが握っていた2本のダガーを弾き飛ばすのだった。
「(あの人が気合を込めた瞬間、武器がそれに応えた……? どうやら、ただのカタナじゃなさそうか!)」
得物を弾き飛ばされたエリノーラは無理に回収しようとせず、すぐに僕との距離を取って状況を仕切り直そうとする。
あの年齢でここまで冷静さを維持しているのは流石と言うべきだろう。
「近距離戦闘で力負けするのなら……! 行けッ、ファンネルエッジ!」
腰ベルトに付けていたナイフを宙へ投げ、魔力による遠隔操作で僕に向けて飛ばすエリノーラ。
当然、僕はナイフの軌道に対して真横へ全力疾走することで回避を試みるが、僕の脚力では追い付かれないようにするのが精一杯だ。
「こうなったら……行け、『ヨリヒメ』! 投げナイフを叩き落とせッ!」
このままでは逃げ切れずに切り裂かれると判断し、僕は「ヨリヒメ」をブーメランのように投擲することで直接迎撃するという賭けに出る。
魔力を通す金属で作られている刀剣類は遠隔操作ができるため、投げナイフへ直接ぶつけるぐらいなら僕の実力でもいけるかもしれない。
「とぉぉおう!」
僕の左手から離れた「ヨリヒメ」は横回転しながら宙を舞い……そして、飛んで来る投げナイフを「カキン!」という爽快な音と共に叩き落とすのであった。
「ジェレミー選手、かなりテクニカルな戦法でエリノーラ選手の必殺技を叩き落としたーッ! まるで第1ラウンドとは別人のような動きです!」
「彼は戦いの中で進化しているようだね。それもまた強者の証だよ。現状維持は後退と変わらない――常に強くなり続ける者だけがロイヤル・バトルで勝ち残れるんだ」
実況解説陣と観客たちが大いに盛り上がる中、僕は投げナイフを迎撃している間に弓矢を構えて攻撃態勢を整える。
このレベルの戦いになると闇雲に矢を射っても当たらないため、命中率を上げるには何かしらの工夫が必要であった。
「当たれ! 当たれ! 当たれッ!」
そこで僕が考え付いたのが「矢を連射する作戦」だ。
基本的に弓矢は一発を正確に放つことを重視した武器であり、既製品で馬鹿みたいに連続使用すると寿命が大きく縮む可能性が高い。
連射速度に関しては射手を複数人用意することで補うのが一般的とされている。
しかし、僕が愛用する名弓「シルバーアロー」のような高級品は頑丈にできているため、普通なら弦が切れてしまうような3連射にも十分堪えられるのだ。
「その程度の矢、当たってあげるわけにはいかない!」
持ち前の動体視力と反射神経で連射された矢をかわしていくエリノーラ。
もっとも、僕はこの攻撃が当たることには初めから期待していなかった。
なぜなら、本命はこの一撃にあらず――だからだ。
サイドステップを駆使しなければ回避できない攻撃で着実に体力を減らし、相手が疲れの色を見せ始めたところで本命を叩き込む。
動くと攻撃を当てられないのならば、動きが鈍る状態まで追い込んでから仕掛ければいい。
観客からすればつまらない戦い方かもしれないが、このラウンドを落としたら後が無い僕に博打を打つ余裕など無かった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
長時間回避を強いられ続けていたエリノーラは苦しそうに肩で息をしている。
チャンスだ……この機を逃すわけにはいかない!
「敵を切り裂け、『ヨリヒメ』!」
すぐ近くの地面に突き刺していた「ヨリヒメ」へ魔力を送り込み、先ほどと同じように遠隔操作で相手に向かわせる。
そして、その間に僕は本命である「コンコルドアロー」を放つ準備を始めるのだった。
「くッ……かわしてやる!」
僕の遠隔操作で飛んで来た「ヨリヒメ」を少し疲れ気味のサイドステップで回避するエリノーラ。
彼女の視線はカタナの方に向けられており、こちらは完全にノーマークとなっていた。
よし、やるなら今しかない!
「目の良さが命取りだ! 射抜け、コンコルドアロー!」
エリノーラがよそ見をしている間に僕は弦を引き、白いオーラを纏った矢を放つ。
また、確実に攻撃を当てるため遠隔操作中の「ヨリヒメ」をこちらへ呼び戻す。
この波状攻撃をかわすにはかなり大きく動く必要があるが、今のエリノーラにそこまでの体力は残っていないはずだ。
そして……次の瞬間、彼女の左肩をコンコルドアローが容赦無く貫いた。
「ッ……!」
ダラダラと血が流れ出てくる傷口を押さえ、その場に片膝を付くエリノーラ。
これ以上の戦闘続行が不可能なことは誰の目に見ても明らかであった。
「決まったーッ! 第2ラウンドはテクニカルな戦い方で相手を翻弄したジェレミー選手が文字通り一矢報いました! 決着は次の最終ラウンドへ持ち越されます!」
「うん、最後の波状攻撃は見事だった。あれは私のような現役選手でもなかなかできる技じゃない。あと、カタナの斬撃ではなく矢を受けることを選んだエリノーラ選手も賢い判断だったと思うよ。あの歳で手足を失うのは良いこととは言えないからね」
最低限の希望は何とか繋ぎ止めた。
次の最終ラウンドを取ればいよいよ決勝進出だ。
「(この試合……できればシャルルさんにも見てほしかったな……)」
今にも雨が降り出しそうな曇り空を見上げつつ、僕は選手控室へと戻るのだった。




