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【75】BLITZKRIEGⅠ -Aブロック準決勝-

 ロイヤル・バトル最終予選3日目――。

準決勝へ臨むため僕とキヨマサがアンフィテアトルムに到着すると、選手用出入口の前で大勢の人々の出待ちに遭遇する。

セコンド役のマーセディズは少し時間をずらして会場入りする予定だ。

「ジェレミー選手、今日の意気込みについて一言お願いします!」

「キヨマサ選手! サインください!」

「おにいちゃんたちがんばれー!」

いい歳をした大人から小さな子どもまで、様々な人々が僕たちのことを応援してくれている。

彼女らの寄せる期待が少なからずプレッシャーになるのは事実だが、ヒール扱いされて険悪な雰囲気になるよりは遥かにマシだろう。

「皆さん! 下がってください! 選手たちの通り道を塞がないで!」

「円滑な大会運営にご協力をお願いします!」

アンフィテアトルムのスタッフに先導されつつ、僕とキヨマサは選手用出入口から控室へと向かうのだった。


「そういやジェレミー、昨日は骨を痛めたとか言っていたがもう大丈夫なのか?」

「うん、ルシールさんの治療のおかげで試合はできそうだよ」

「そうか……いや、俺はどうもあの人が苦手でな。悪人じゃないしむしろ良い人だと思うんだが」

武具一式を身に付けながらキヨマサと他愛の無い会話を交わしていると、選手控室に遅れて会場入りしたマーセディズがやって来る。

彼女が会場入りのタイミングをずらした理由は聞かされていないが、少し浮かない表情から僕たちは察することができた。

「……シャルルさん、やっぱり来なかったんですね」

僕が単刀直入にそう尋ねると、マーセディズは首を横に振りながら(うつむ)く。

「説得はしたんだが……彼女自身にその気が無い以上、無理強いするべきではないと判断した」

「気にしないで、マーセディズさん。元はと言えば僕の行動が原因だから……」

シャーロットがセコンド役を放棄した理由に心当たりがあり落ち込んでいる姿を見かねたのか、僕の両肩に手を置きながらマーセディズは懸命に励ましてくれる。

「お前は良い奴だな……でも、自己批判的過ぎるのも考え物だぞ。全部が全部お前のせいだとは誰も思ってないのだから、そこまで気に病むなよ。今は試合に勝って決勝戦まで進むことに集中しろ……いいな?」

僕が静かに頷いたのを確認し、背中を叩いてフィールドへ向かうよう促すマーセディズ。

「気持ちは分かるが……試合中に余計なことを考えてたら負けちまうぜ? 俺は決勝でお前と戦いたいんだから、絶対に止まるんじゃねえぞ」

キヨマサにも激励を受け、僕は一抹の不安を残しながら準決勝に赴くのであった。


 Aブロック準決勝で僕と戦うのは、初戦の第2試合で勝利を収めた義賊(ジェントルシーフ)のエリノーラだ。

彼女の試合は僕も観戦していたが、東洋の国で使用されている「ニンジュツ」を織り交ぜた独自の戦闘スタイルには相応の苦戦を強いられることになるだろう。

「ねえ……君って僕よりも年下だよね? どうしてロイヤル・バトルに出場しているんだい?」

真っ黒なクロークを身に纏い、フードで顔を覆い隠しているダガー使いの少女にダメもとで質問してみる。

返答には期待していなかったが、意外にも彼女はあっさりと答えてくれた。

「……あなたには関係無い。理由がどうであれ、私は決勝大会まで進まないといけない。ここで止まるわけにはいかないの……!」

戦う理由について語り終えると、エリノーラは両手にダガーを構えて戦闘態勢に入る。

「くッ、随分と気が早い()だな……!」

反射的に僕も名弓「シルバーアロー」へ矢をセットし、試合特有の緊張感に包まれるアンフィテアトルム。

「それでは、Aブロック準決勝を開始します。10、9、8、7、6、5――」

相手は高速戦闘に長けるスピード型――。

試合が長引くと速さで翻弄される可能性があるため、早期決着を狙うべきだろう。

「――4、3、2、1……ファイトッ!」

審判の右手が振り下ろされ、ついに準決勝の戦いが幕を開ける。

試合開始直後、先に動いたのは……。


「ああっと! エリノーラ選手、これは速い! 速すぎるッ!」

「短期決戦を狙っているのか!」

実況解説者とジュリエットが驚くほどの反射速度でスタートダッシュを決め、あっという間に僕との間合いを詰めてくるエリノーラ。

「ッ!」

「遅い!」

彼女は僕が矢を射るよりも先にサマーソルトキックを繰り出し、物理的に「シルバーアロー」を弾き飛ばすことで僕の攻撃手段を奪ったのだ。

「ああ、ジェレミー選手の武器が弾き飛ばされました! まだ試合開始から30秒も経っていません!」

「これは厳しい展開だね……さて、彼はここからどう巻き返すかな?」

エリノーラが再攻撃へ移る前に僕は咄嗟に接近戦用のダガーを構え、彼女の斬撃を辛うじて受け止める。

しかし、ダガーの扱いではエリノーラのほうが一枚上手であり、(つば)迫り合いにおいて押されているのは明らかに僕であった。


 幾度にも亘る斬り合いの末、護身用程度の耐久性しか持ち合わせていない僕のダガーが刃こぼれを起こし、挙句の果てに根元から刀身が折れてしまう。

離れたところに落ちている「シルバーアロー」を回収する余裕は無いため、今の僕は丸腰とあまり変わらなかった。

「これで終わりね……!」

それを察知したエリノーラは猛然と地面を蹴って走り出し、姿勢を低めながらの足払いで僕を強引に転倒させる。

「子どもだからってナメるから……こうなるのよ!」

次の瞬間、彼女はうつ伏せに倒れている僕の上にしゃがみ込み、複雑な関節技で右腕と首を締め上げ始めた。

「いたたたたッ……!」

「早く降参して。さもないと……」

意地でも白旗を上げない僕を見かねたのか、更に締め上げを強めていくエリノーラ。

その気になればここから絞め殺すこともできるのだろう。

それをしないのは単に「対戦相手を死なせたら失格になるから」に他ならない。

「……本気で殺すわよ」

エリノーラが低い声で呟いた直後、「パキパキパキ」という嫌な音が僕の右腕から聞こえ始める。

痛みを堪えながらセコンドエリアへ視線を移すと、両手を×の字にして首を横に振るマーセディズの姿が見えていた。


 マーセディズによる合図に加えて、「このままでは関節が壊れる」と本能的に感じた僕は左手を上げることで「降参」の意志を示す。

それを見た審判はすぐに試合へ割って入り、ラウンド取得の証としてエリノーラの左腕を掴んで掲げる。

「決まったーッ! 第1ラウンドを先取したのは、速攻で勝負に出たエリノーラ選手です!」

「相手がペースを掴む前に勝負を決める――小柄な彼女とは相性が良い勝ち筋だね」

彼女が勝てたのは「速攻を仕掛けたおかげ」だと口を揃える実況解説陣。

関節技から解放された僕は今更ながら「シルバーアロー」を回収し、対策を練るべくすぐに選手控室へと戻るのだった。

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