【74】SEMIFINALIST -準決勝に臨む者たち-
「へ、へへ……あたしもヤキが回っちまったか……!」
渾身の一撃が外れたことを悟った直後、自らの敗北を認めるかのようにその場へ倒れ込むヴェガ。
この瞬間、キヨマサの勝利――それも宣言通りのストレート勝ちが確定した。
「試合終了! 第3試合はキヨマサ選手の勝利だーッ! なんということでしょう、これまでに確定している準決勝進出者は全てロイヤル・バトル初参加者となっています!」
「言ったろ? この試合はキヨマサ選手のモノだって。どうやら……ロイヤル・バトル界隈にも世代交代が迫りつつあるようだね」
実況解説者とジュリエットが試合の総括をしている中、アンフィテアトルムはキヨマサの勝利を祝う大歓声に包まれていた。
「キヨマサ! 何と言えばいいか……よくやった!」
「へッ、ここで負けるようじゃお話にならないからな。このカタナがある限り、俺は負けないさ」
セコンドエリアで戦いを見守っていたマーセディズと力強い握手を交わし、勝因の一翼を担った烈火刀「ヨリヒメ」を天に向かって掲げるキヨマサ。
「(勿体無いな、ジェレミー。一足先に帰りやがってよ……まあいいさ、俺は決勝戦でお前と戦いたくてウズウズしてるんだ)」
……まさか、その「ヨリヒメ」を間も無く失うことになるとは、この時のキヨマサは思ってもいなかった。
2日目の最後を飾る第4試合の時間帯になると、観客たちも疲れが出てきているのかアンフィテアトルムには空席が目立ち始めていた。
この試合――「高機動戦士のカガVS槍騎兵のヴィルジニア」という対戦カード自体は普通なら面白い展開となっているのだが、第3試合までに比べると盛り上がりに欠けるのは否定できない。
「もう私も叫び過ぎで喉がガラガラなんですが……ジュリエット選手、ここまで試合をご覧になられてどう思われます?」
「そうだね……互いに堅実に試合を組み立てて、相手が隙を晒すのを待ち構えている状態が長く続いているね。だけれど、もうそろそろ決着が付くんじゃないかな」
一見するとカガとヴィルジニアは激しい接近戦を繰り広げているが、同じ戦士であるジュリエットはそれが互いの出方を窺っているだけだと見抜いていた。
槍騎兵――。
スターシア王国ではあまり見かけないジョブだが、オリエント超大陸西部においては精鋭騎士の一種として知られている。
大振りなランスと大型シールドを装備し、先鋒として戦場を駆け抜ける姿は人々――特に騎兵発祥の地であるリシュリュー王国やミナルディ共和国では憧れの的とされる。
その一方で槍騎兵には高い戦闘技術と屈強な肉体が求められることから、多くの若者が過酷な養成課程で挫折し「普通の騎士」に進路を変えざるを得ないという。
ヴィルジニアはミナルディ共和国の名家出身の若き槍騎兵であり、平和な世の中で実戦経験を積むためにロイヤル・バトルへと参戦していた。
「(この女、予想以上に強いな……だが、余は先ほどの拳闘士のような負け方はせん。倒れる時は必ず一矢報いてやるぞ)」
元々育ちが良いのか単にマイペースだからなのか、1ラウンドを先取された状況下でもヴィルジニアはさほど焦っていなかった。
彼女は騎士学校仕込みの高い戦闘技術を誇っていたが、一方で「どんな手を使ってでも勝つ」という執念が足りないのが弱点であった。
「(重装備だから動きは鈍いけど、単純なパワー勝負ではこちらが不利か。ならば……!)」
真っ向勝負では体力を消耗するだけで押し切れないと判断し、カガは大技で一気に畳み掛けることを決める。
ヴィルジニアの重い刺突を受け流したところで彼女は愛用のカタナ「ズイカク」を壁に向かって投擲し、その方向へと一目散に駆け出す。
「逃がすものか! ステラ・アッサルト!」
当然ながらヴィルジニアは必殺技で追撃を仕掛けるが、微妙に間合いが足りずカガには届かなかった。
「えっと……これはカガ選手は何をするつもりなんですかね?」
「あれも『ニンジュツ』やらの一つかもしれない。私はよく分からんけど……」
「ええ!? ジュリエット選手も分からないんですか!?」
アキナ人の戦い方をよく知らない実況解説陣が騒いでいる中、カガは壁に刺さったままの「ズイカク」を踏み台にすることで宙を舞う。
アクロバティックな動きにざわつく観客席。
「う、上からだと!?」
それを見たヴィルジニアが啞然とした次の瞬間、彼女は強烈な膝蹴りを食らってしまうのだった。
よろめきながらも何とか持ちこたえた槍騎兵にトドメを刺すべく、「ズイカク」を魔力で手繰り寄せながら再攻撃を仕掛けるカガ。
「メン! メン! メェェェェンッ!」
彼女は素早い剣術でヴィルジニアを翻弄し、着実に壁の方へと追い詰めていく。
「なッ……しまった!?」
「やるなら今しかない!」
ヴィルジニアが後方確認のために一瞬振り返った隙を突き、カガはすぐに相手の首根っこへと飛びかかる。
レッグ・シザーズのように両脚でヴィルジニアの首を挟み込み、そこから強引に力を加えて無理矢理押し倒す。
これはアキナの忍者が暗殺で使用する技であるが、カガの場合は小改良を施したうえで殺傷能力の低い「対人用決め技」として用いていた。
「ああっとッ! カガ選手のテクニカルな足技が決まったぁぁぁ!」
「これはヴィルジニア選手にとっては大きなダメージだね。首を絞められながら地面に叩き付けられたら、どんな大女でもその場にうずくまると思うよ」
実際に同じような技を食らったことがあるジュリエットの指摘通り、首にダメージを受けたヴィルジニアはもう立ち上がれなかった。
痛む首を押さえながら右手を上げ、降参の意思表示を行うヴィルジニア。
「試合終了! 第4試合の勝者はカガ選手です! さあ、これで明日の準決勝進出者が全て確定しました!」
「最初から最後までカガ選手のテクニックが光る一戦だったね。ヴィルジニア選手は磨けば強さを引き出せるはずだから、来年こそリベンジを果たしてほしい。明日は同じカタナ使いのキヨマサ選手とぶつかるから、そこでどういった差が出るか楽しみだ」
「ジュリエット選手、本日はどうもありがとうございました。明日以降もよろしくお願いします」
実況解説陣の総括を聞き終えた観客たちが帰り始める中、カガは首をさすっているヴィルジニアへ右手を差し伸べる。
「良い勝負だった。来年は決勝大会で戦いたいな」
「うむ……余はもう一度修行の旅に出る。そして、次こそは必ず貴様に勝ってみせよう」
互いに力強い握手を交わし、カガとヴィルジニアは来年のロイヤル・バトルでもう一度手合わせすることを誓うのであった。
【リシュリュー王国】
オリエント超大陸西部に位置する国家。
マギア研究が盛んな国として知られており、首都のパニスには国際的な研究機関が多数置かれている。
【ミナルディ共和国】
リシュリュー王国の南西方向に位置する、作中世界初の共和制国家。
温暖な気候を活かした観光産業や「アルフェッタ」と呼ばれる高性能馬車の生産で有名。




