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【72】SWORD VS. KNUCKLEⅡ -カウンターの極意-

「オアーッ!」

最初に動き出したのはヴェガのほうであった。

彼女は突進しながらの右ストレートでキヨマサへと襲い掛かる。

「これはヴェガ選手の十八番(おはこ)の『マッドネスバイソン』だーッ! いやぁ、いきなり大技を繰り出してきましたね!」

「なるほど、短期決戦を狙うつもりみたいだね。ふむ……」

「あれ? ジュリエット選手、何か気になることでも?」

ハイペースな試合展開を見守っていたジュリエットは少しだけ考え込んだ後、実況解説者に対して自らの見解を述べる。

「ヴェガの奴、キヨマサ選手の放つプレッシャーを感じ取って焦っているな。相手を痛めつけてからトドメを刺すタイプのあいつが、あそこまで速攻に拘るのは珍しいよ」

「でも、キヨマサ選手は回避で精一杯に見えますけど……」

「彼のほうが精神的に余裕があるのさ。試合は最後まで何が起こるか分からないとはいえ、大勢は既に決しているように思える」

ジュリエットの指摘通り、火花を散らし合う二人の戦士の精神状態は……。


「(クソッ、クソッ……クソッ! 一発当てればダウンを奪えるのに、なぜ当てられないんだ!? あたしは本気でやってんだぞ!)」

一見すると、猛烈なラッシュで攻め立てるヴェガが試合をリードしているように見えるかもしれない。

だが、自分を散々舐めくさっている「ガキ」の身のこなしに彼女は焦りを感じ始めていた。

「(落ち着くんだ、ヴェガ。闇雲にパンチを打ち続けても動きを読まれるだけだ。ここは作戦を変えるべきだな……)」

深呼吸で気分を落ち着かせ、勢い任せの攻撃ではなく「狙い澄ました一撃」を放つ作戦へと切り替えるヴェガ。

攻撃の手を緩めることでキヨマサの油断を誘い、少しでも隙を見せたところへ全力でパンチを叩き込む――という算段だ。

「(何だ、もう疲れてきたのか……? まあいい、このタイミングで強化系マギアを使っておくか)」

ヴェガの予想通り、相手の動きが鈍くなったと騙されたキヨマサは身体能力を総合的に引き上げる補助マギア「ビルドウップ」の詠唱準備に入る。

これは費用対効果に優れる強力な補助マギアである一方、詠唱時間を長く取らなければならないという欠点も抱えている。

「(ヘッヘッヘ……その油断が命取りなのさ!)」

作戦変更が上手くいったと確信したヴェガは右の拳に魔力を込め、ほくそ笑みながらキヨマサへと襲い掛かるのだった。


「これでお陀仏だッ! ジェノサイドブラックブル!」

ヴェガの右手が真っ黒な魔力を纏い、未だマギア詠唱中のキヨマサに牙を剥く。

彼はカタナを正面に構える防御態勢を取っているが、強烈な破壊力を誇る必殺技「ジェノサイドブラックブル」のダメージを完全に抑えることは不可能だろう。

「オアーッ、オアーッ、オアーッ……ウリャーッ!!」

得意の「マッドネスバイソン」を3連発しながらキヨマサを追い詰め、そこから体を横回転させる際の運動エネルギーを乗せたコークスクリュー・ブロー「ラグナセカ」を放つヴェガ。

複数の大技を繋いで繰り出すこの「超必殺技」に耐えられる者は一人もいない……はずだった。


「掛かったな……アホがッ!」

「な、何ィ!?」

ヴェガが放った渾身の一撃を烈火刀「ヨリヒメ」だけで受け止め、不敵な笑みを浮かべるキヨマサ。

驚くべきは攻撃のエネルギーを完全に打ち消し、その場から一歩も動かずに無効化したことだ。

果たして、「ジェノサイドブラックブル」の運動エネルギーはどこへ消えたのだろうか?

「一体何が起こっているんです? 物理法則もあったもんじゃ……」

「おお、これは……!」

状況を把握できていない実況解説者をよそに椅子から立ち上がり、ジュリエットは目をキラキラと輝かせる。

「このラウンドはキヨマサ選手の勝ちだな! いやはや、『労せずして勝つ』とはまさにこのことだよ!」

「は、はぁ……」

最初は彼女の発言を理解できなかった実況解説者だが、すぐにその意味を知ることになる。


 先の読めない試合展開にすっかり眠気が吹き飛び、キヨマサとヴェガの戦いを息を呑んで見守る観客たち。

「ぐ……ぬぉぉぉぉぉぉッ!!」

自身最強の必殺技を容易く受け止められる――生まれて初めて味わう屈辱を認めることができず、ヴェガは力任せに拳を押し込むことでキヨマサを無理矢理ダウンさせようと試みる。

「おいおい、これだけか? 図体はデカいくせに案外大したこと無いんだな」

そのキヨマサは余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)といった様子でヴェガを挑発しつつ、彼女を一撃で仕留めるための「準備」を開始する。

そう、キヨマサの狙いは初めからこれだったのだ。

「が、ガキが……舐めてると潰すと言ったはずだッ!!」

追い詰められた挙句散々煽られたことでついに堪忍袋の緒が切れ、自暴自棄になったヴェガはフォームが崩れた状態で右ストレートを放つ。

「フッ……この瞬間を待っていたのさ!」

勝利を確信したキヨマサはニヤリと笑う。

彼のカタナとヴェガの右ストレートがぶつかった時、押し負けたのはなんと後者であった。


 ヴェガの拳が烈火刀「ヨリヒメ」の刀身に触れた次の瞬間、彼女は謎の反動を食らってフィールドの端にある壁まで吹き飛ばされてしまう。

反動が非常に強かったのか、ヴェガが叩き付けられた際の衝撃で大理石製の壁はボロボロに崩れていた。

すぐに駆け付けた審判と医者が彼女の無事を確認し、それと同時に審判団へ「ラウンド続行は不可能」という合図を送る。

「な……何が起こったのか我々も理解が追い付かないのですが、第1ラウンドを先取したのはキヨマサ選手です!」

「あれはヴェガの『ジェノサイドブラックブル』のエネルギーをカタナに集中させ、倍にして返したんだ。俗に『カウンター技』と呼ばれる難度の高い必殺技だね」

やっと試合の顛末(てんまつ)を理解できた観客たちが大歓声を上げる中、キヨマサは「ヨリヒメ」を鞘に収めながら手を振ってそれに応える。

「相性が悪かったな、ボクサーおばさん。俺の『ツバメガエシ』は物理攻撃主体の相手には滅法強いのさ」

ツバメガエシ――物理攻撃の運動エネルギーを武器で吸収し、倍にして反射する高難易度な新技。

キヨマサが既にこの技を使いこなしている以上、戦法を改めない限りヴェガに勝ち目は無かった。

【カウンター技】

相手の攻撃を反射することに特化した技を一括りにこう呼ぶ。

技ではないがマギアを弾き返す補助マギア「マジックミラー」もこれに含まれる。

完璧にハマれば一撃で決着が付くほど強力な反面、対人戦では読まれやすいため使いこなすのが難しい技である。

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