【67】FIRST MATCHⅡ-レウクトラの本気-
「やったわね、次のラウンドを取れば初戦突破よ! この流れを維持して突っ走りましょう!」
「ええ……でも、相手の諦めの早さは少し奇妙でした」
シャーロットから褒め言葉を貰いながら僕は水を頭から被って身体を冷やす。
「おそらく、無理をして戦い続けるよりも装備の補充を優先したんでしょう。とにかく……相手は後が無い以上何をしてくるか分からないから気を付けて。追い詰められたオコンはジャッキューズよりも凶暴だからね」
最後にそう忠告しつつ、僕の肩を叩いて笑顔で見送ってくれるシャーロット。
8分間の小休憩を終え、僕は再びアンフィテアトルムのフィールドへ赴くのだった。
1ラウンド目の時と同じように僕とレウクトラはフィールドの中央に立つ。
「さあ、まもなく第2ラウンドが始まろうかというところですが……どうやらレウクトラ選手は装備を変えてきたようですね」
「大盾使いにとって大盾ではない盾に持ち替えるというのは、かなりプライドに関わる決断だと思う。そのプライドを捨ててまでスタイルを変えてくるとは……レウクトラ選手は本気で勝ちに来たようだね」
ジュリエットの解説通り、今回のレウクトラは一味違うようだ。
先ほどまでは左腕で大盾を構えていたが、第2ラウンドでは中型の盾を両腕に装備する「ダブルシールド」で臨むつもりらしい。
「まさか、初戦から死に物狂いで戦わなければならない相手が来るとは……戦士としては最高の気分だ! ジェレミー選手、私はまだまだ諦めんぞ! このラウンドは必ず奪ってみせる!」
「……僕は最後まで勝ち抜かないといけないんです! あなたを踏み台にして僕は先に進む!」
お互いの決意を述べた後、僕とレウクトラは白線まで下がり第2ラウンド開始に備える。
「それでは、第1試合第2ラウンドを開始します! 5、4、3、2、1……ファイトッ!」
まさか、レウクトラの本気をここで思い知らされることになろうとは……。
「(第1ラウンドの敗因は彼を侮っていたことにあった。少年相手に大人げ無いと思われるかもしれんが、今回は最初から本気で行かせてもらう!)」
両腕の盾で正面を覆い、その体勢のまま全速力でこちらに突撃してくるレウクトラ。
「ッ! ジェレミー、避けてッ! まともに当たったら……!」
セコンドエリアからシャーロットの悲鳴のような声が聞こえてくる。
僕は第1ラウンドと同じ戦術を採ってくると考えていたため、残念ながら初動が遅れてしまうことになった。
「くッ……!」
「我が全力を以って粉砕する! 食らえッ、チャリオット・アサルト!」
戦車の如き突進力で迫って来るレウクトラを間一髪のところで回避し、反撃のために僕は弓を引こうとした。
「避けたか……ならば!」
ところが、乾坤一擲の突撃をかわされたレウクトラは大地属性攻撃マギア「ストーンエイジ」で小さな岩場を作り、それを蹴ることで反動を利用して方向転換。
大盾使いとは思えない軽い身のこなしで宙を舞い、気が付くと彼女は僕の頭上で攻撃態勢に入っていた。
「力一杯ぶん殴る……それだけだ、耐えてみせろ!」
既に弦を引いてしまっている以上、これをどうにかしなければ動くことができない。
命中率にはあまり期待できないが、僕はあえて真っ向勝負を受けて立つという賭けに出るのだった。
「ッ!」
右腕を後ろに引いた姿勢で宙を舞うレウクトラを正面に捉え、弦を押さえていた右手を放す。
撃ち放たれた矢は大盾使いに直撃――せず、彼女の左頬を掠めていくだけに終わった。
残念ながらその程度の攻撃でレウクトラを止めることはできない。
「砕け散れぇぇぇッ!」
右腕に装備されている盾が紅いオーラを纏って光り輝く。
おそらく、魔力を込めることで攻撃力を増幅しているのだろう。
「ジェレミーッ!!」
「くッ……!」
シャーロットの悲鳴と僕が防御態勢を取るのはほぼ同時だった。
次の瞬間、まるで鉄拳制裁を食らったかのような鈍い衝撃が僕を襲う。
レウクトラが放つチャリオット・アサルトからの派生技――天空神の名を冠した「アエロ・インパクト」の攻撃力は凄まじく、もろに直撃を受けた僕は十数秒ほど気を失ってしまった。
「ジェレミー、立ち上がりなさいッ! 本気で殺されるわよッ!!」
必死になって叫ぶシャーロットの声も聞こえない。
ロイヤル・バトルは対戦相手を殺害したら即失格だが、逆に言えば彼女を取り乱させるほどのプレッシャーをレウクトラは放っていたのだ。
「少年よ、君には悪いがこのラウンドは確実に取らせてもらう……ぬんッ!」
地面に伸びている僕の所へゆっくりと近付き、こう呟きながら僕の身体を軽々と持ち上げるレウクトラ。
「……!? ぬ、ぬわぁぁ……!?」
その直後、背骨と肋骨に筆舌し難い激痛が奔ったことで僕は呻き声を上げながら覚醒する。
「おおっと! レウクトラ選手、鍛え抜かれた肉体を活かしたベアハッグでジェレミー選手に襲い掛かったぁーッ!」
「これはマズいね……ジェレミー選手は早めに抜け出さないとこのまま絞め殺されるぞ」
「あ、相手を殺したら失格なのはレウクトラ選手も分かっているはずですが……」
不慮の事故が起こるかもしれない試合展開に不安を抱き始める実況解説者とジュリエット。
当然、僕だってこのまま絞め殺されるつもりは無い。
「この! このッ!」
身体を締め上げられている状態で僕は必死に抵抗するが、体重が乗らないパンチでは何の解決にもならない。
ポカポカという軽い音だけが空しく響き渡る。
そうしている間にもレウクトラは締め付ける力を徐々に強めていき、僕は呻き声すら上げられないほど苦しい状況にまで追い込まれていく。
マズい……このままじゃ……本当に背骨をへし折られてしまう……!
「ジェレミー君、ここは素直に降参してくれないか? 前途有望な若者である君を殺めたくはないのだが……」
僕の身体を力一杯締め上げながら降伏勧告を突き付けてくるレウクトラ。
腹部を圧迫されているため声を絞り出すことも叶わないが、それでも僕は首を横に振ることで徹底抗戦の意思を示す。
「……そうか、残念だ。無駄に力だけはあってな……手加減はできんぞ!」
次の瞬間、僕の身体を締め付ける力がこれまで以上に強くなる。
「全力あの世に持って逝けッ……アレウズ・ブリーカー! 死ねぇぇぇ――!」
レウクトラが正真正銘のトドメを刺そうとしたその時、ぼやけ始めていた僕の視界に審判の姿が映り込む。
「ストップ! ジェレミー選手のセコンドが降参を表明しました! 対戦の中止をッ!」
審判の指示を聞いたレウクトラはすぐに力を緩め、意識を失いぐったりとしている僕を解放する。
「審判、彼はまだ生きているな?」
「確認します――ええ、命に別条は無いようです。骨折などはもっと診察しないと分かりませんが……」
「次のラウンドまでに目覚めるといいんだがな……とにかく、すぐにセコンドの所まで運んでやれ」
「は、はい!」
ラウンド終了が宣言されたことですぐに係員たちが飛び出し、気を失ったままのジェレミーをフィールド外まで運び出していく。
「こ、これで取得ラウンド数は両選手共に1対1……決着は次の最終ラウンドに持ち越されますね?」
「ああ……だが、今のベアハッグでジェレミー選手は相当消耗しているはずだ。これは後々悪影響を及ぼすかもしれないな……」
その様子をジュリエットは心配そうに見守り続けていた。
【オコン】【ジャッキューズ】
オコンはオリエント超大陸原産のモンスターで、普段は温厚だが窮地に陥ると火事場の馬鹿力を発揮する。
一方、スターシア西部の砂漠地帯に生息するジャッキューズは狡猾な捕食者だが、怒ったオコンに返り討ちにされることも珍しくない。
【アエロ】
レウクトラの母国である宗教国家パルテノンで信仰されている天空神。
大気を司る神と言い伝えられており、パルテノンでは最も篤く信仰されている神である。
【アレウズ】
レウクトラの母国である宗教国家パルテノンで信仰されている軍神。
精鋭として名高いパルテノン軍のシンボルマークに採用されており、国民からの人気ではアエロと肩を並べる。




