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【6】BEGINNING -冒険の始まり-

 共同倉庫と同じ1階にある会議室へ向かう僕とキヨマサ。

「そういえば名前を聞いていなかったな……俺はキヨマサ。グッドランド冒険団のメンバーだ――と言っても、古強者揃いのここじゃヒヨコ扱いだが」

団長の話では僕と同年代と聞いていたが、彼のほうが少し男らしく見える。

……いや、きめ細かな白い肌や艶やかな黒髪はむしろ女性的かもしれない。

「……どうした、俺は名乗ったぞ。人の顔ばかり眺めてないで、自己紹介をしたらどうだ?」

「あ……ごめん! 僕はジェレミーっていうんだ」

チョット嫌なヤツだなあと思いつつも、キヨマサに右手を差し出し握手を求める。

「ジェレミーか。お前が実技試験を突破できるかは分からんが、よろしく頼む」

相変わらず厳しい口調ではあったが、彼は意外なほどあっさりと僕の右手を握り返してくれた。


 グッドランド冒険団の実技試験には数種類のパターンがあり、僕のような未成年者が受けるのは最も簡単な「宝探し」だ。

町の西側に広がる森を抜けた先にある高台の宝箱から「証拠」を回収し、ギルド本部へと無事に持って帰る。

俗に「ダンジョン」と呼ばれる危険地帯の奥地にある物を採って来る依頼は、全ての冒険者が一度は経験する仕事である。

ちなみに、成人の入団希望者や他ギルドからの移籍者が受ける実技試験は非常に厳しいらしい。

そもそも、未成年者には入団資格の無いギルドのほうが多いため、明確に規定を設けているグッドランド冒険団はかなりのレアケースと言える。

「――とまあ、試験内容はこんな感じだ。とにかく、俺が率先して動いたり指図しなければいけない状況になったら、少なからず減点対象になることを覚えておけ。冒険者になったら単独行動を求められる場面も多くなるからな」

実技試験の説明を終えた後、あくまでも自分は審査員であることを強調するキヨマサ。

「分かった、可能な限り問題は自己解決しろということだね」

「このレベルの実技試験は一人できないと困るが……お前、モンスターの一匹も殺したことの無さそうな顔だな」

彼の指摘はごもっともだが、むしろスターシア人は日常的にモンスターと戦っているのだろうか。

「……逆に聞くけど、君はモンスターを何匹殺したんだい?」

意趣返しの意味も込めて、僕はキヨマサに対し意地悪な質問をぶつけるのだった。


「13匹。全て自衛と依頼のために斬り殺した」

少なからず怒るかと思いきや、キヨマサは何食わぬ顔で真面目に回答してくれた。

そして、勢いそのままに彼は衝撃の事実をカミングアウトする。

「記憶が無いのさ……2~3年前、町の周りの森で倒れてた俺はギルドの人に拾われ、彼女の養子としてここで住み込みバイトをしている」

なんと、キヨマサも僕と同じ記憶喪失者だったのだ。

「どこで生まれたのか、なぜ奇妙な服装で森の中に倒れていたのか――名前以外は全く思い出せないんだ。でも、食っていくためにはこの世界のやり方に適応するしかなかった。モンスターどもに恨みは無いんだがな……」

天井に向かってそう呟く彼の表情は、初対面時からは想像できない憂いを帯びていた。

「奇遇だね、僕も同じような出来事に遭ったんだ。この世界で目覚めてからまだ2日目だよ」

先ほどまでは嫌なヤツだと思っていたが、同じ境遇と知った今ならば同情心を抱くことができる。

「ジェレミー……お前もか」

相手の方も同じ気持ちだったのだろう。

昨日のことをキヨマサに一通り話すと、彼は真剣な表情で相槌を打ってくれた。

もちろん、僕だってかなり驚いている。

まさか、自分と全く同じ境遇の人間がスターシアにいたなんて……。


 旅支度を終えたキヨマサに連れられ、僕は町の西側のチェックポイントへと向かう。

「俺のジョブは剣士(ソードマン)だ。射手(アーチャー)であるお前の直掩ぐらいはこなせるさ」

そう言いながら愛用の武器を見せてくれるキヨマサ。

彼が携えている剣はスターシアでよく目にする物とは異なる、反りが入った片刃の刀身を持っていた。

「珍しいだろ? これは『カタナ』という斬撃に特化した剣で、癖はあるが使いこなせば強力な武器だ」

弓矢を購入した武器屋の店主から聞いたことがある。

スターシア王国で生産される剣は両刃且つ斬撃・刺突の双方に対応できるタイプが主流だが、それに当てはまらない物も非売品を中心に珍しくないと。

「基本的には傍観者に徹するが、俺だって鬼じゃない。命の危機に瀕するようなアクシデントが起こった時は助けてやる。ただし、俺が動く時は減点対象であることを忘れるな」

カタナを鞘へ納めると、キヨマサは僕に対してそう忠告する。

「その言葉、肝に銘じておくよ」

……言われるまでも無い。

これから先は一人で生きねばならないのだから。


 グッドランドの西側には広大な広葉樹林が広がっている。

他の町へと繋がる道路が整備されている北や東に対し、南や西の森はあまり人の手が入ってないという。

生態系に関しても多少の違いがあり、自然豊かな分若干強いモンスターが生息しているらしい。

「ジェレミー、団長から渡された地図を広げてみろ」

キヨマサにそう促され、僕は古ぼけた地図を道具入れから取り出す。

「その地図は古いからアレだが、街中で買える地図は胸ポケットにでも入れておくといい。道具入れを漁らずとも取り出せるし、そのために折り畳みやすい紙を使ってあるからな」

「なるほど……」

「あそこに何とも形容し難い岩があるだろ?」

彼が指差す先には地図に描かれているものと同じ岩があった。

現実世界の光景と地図のヒントを照らし合わせながら正しい道を進み、宝箱を見つけろ――ということなのだろう。


「タイムリミットは往復1時間。2時間でギルドへ戻れなければタイムオーバーで失格だ。時計合わせ――セット、計測開始」

キヨマサの持っている懐中時計が「コチコチ」という動作音と共に時を刻み始めた。

「さあ、前に進め! もたもたしてると間に合わないぞ!」

彼が急かすように背中を押してきたため、僕は地図と方位磁針を頼りに森の中へ足を踏み入れる。


――これが、僕の約3か月に及ぶ「冒険」の始まりだった。

【ダンジョン】

スターシアではモンスターと遭遇する可能性が高い区域をダンジョンと呼ぶ。

裏を返せば、どれだけ危険な場所であったとしても「モンスターが出ないのならダンジョンではない」とも言える。

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