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【65】MATCHING -運命の組み合わせ抽選-

「観客の皆さん、大変お待たせいたしました! 第85回ロイヤル・バトル最終予選に参加する、8人のファイターたちの入場です!」

司会進行役のアナウンスと共にアンフィテアトルムのフィールドへ入った僕たちを待っていたのは、雲一つ無い青空とはち切れんばかりの大歓声。

まだ予選のはずだが、全周囲の観客席に座る観衆たちは大いに盛り上がっている。

「ファイターの皆さん、中央の石板の前に横一列で並んでください」

司会進行役に指示を出され、僕たちは事前の打ち合わせ通りトーナメント表が書かれた石板の前まで移動。

そこで横一列に並んで軽く一礼すると、観衆たちは再び大歓声を上げる。

このチヤホヤされる感覚……少しクセになるかもしれない。


「さて、本日はゲストとしてロイヤル・バトル7連覇中の最強剣闘士(グラディエーター)――ファイターナンバー1番、ジュリエット選手をお呼びしています」

「……どうも」

ふと視線を観客席の一部分に移すと、司会進行役とジュリエット選手なる人物が座っている場所を見つけることができた。

あの辺りは直射日光が絶対に入らない設計になっているらしく、他の観客席に比べてかなり過ごしやすそうに見える。

「ジュリエット選手、今年の予選は最後の1枠を決める大会が必要になるという珍しい事態になったわけですが……フィールドにいる8人の中で注目すべき選手はいますか?」

「うーん……」

やはり、ロイヤル・バトルで7連覇するような剣闘士の興味を引く選手など簡単には現れない――かと思いきや、彼女の視線は何となくこちらに向けられているような気がする。

「そうだな……強いて言えば32番と44番は興味深いね。彼らのような少年がロイヤル・バトルに参加するのは珍しいから、きっと何か事情があるんだろう」

「32番と44番――剣士のキヨマサ選手と射手のジェレミー選手ですね」

「ああ、その事情とやらが彼らの力の源になることを期待したい。それ以外は……まあ、目ぼしい選手はいないかな。優勝候補はもう決勝大会進出が決まってるしね」

「ジュリエット選手、ありがとうございました」

ジュリエットが僕とキヨマサを注目選手として挙げた瞬間、僕はライバルたちのプレッシャーを全身に感じるのだった。


「アンフィテアトルムへ駆け付けた大観衆の皆さん、いよいよです! これより最終予選の試合展開を左右する組み合わせ抽選を行います!」

最終予選初日のメインイベントである組み合わせ抽選会が始まるというアナウンスを受け、満員御礼の観客たちは再び大歓声を上げる。

彼女らにとってはもちろん、選手である僕たちにとっても重要な時間だ。

「最終予選に限った話ではありませんが、ロイヤル・バトルのフォーマットを採用する試合は一部を除き1対1の3ラウンド制・2本先取で行われます。今回の最終予選に参加する選手は8名なので、総試合数は7試合になりますね」

ロイヤル・バトル最終予選の日程は以下の通りとなる。

まず、1日目は前述したように組み合わせ抽選会を行った後、翌日以降の試合で使うフィールドのチェックが認められている。

選手が試合以外でフィールドの感触を確かめられる機会は極めて少ないので、じつは初日というのは試合当日並みに重要なのだ。

2日目は組み合わせ抽選に基づいた初戦を4試合行い、この時点で4人が敗退となる。

ロイヤル・バトルに敗者復活は無いため、1度でも負けたらその時点で終わりだ。

初戦を勝ち残った4人は3日目の準決勝へ進み、この日行われる2試合の結果によって決勝戦の組み合わせが決まる。

4日目は決勝戦に向けた休息日と位置付けられているが、ファイナリスト以外の選手はエキシビションマッチへ招待されることがあるらしい。

そして、最終日となる5日目は午前中から昼過ぎにかけてフィールドの再チェックが行われた後、2人のファイナリストは夕方から始まる5ラウンド制・3本先取の決勝戦で雌雄を決するのだ。


 別の入り口から現れたスタッフたちが石板の前にテーブルを設置し、その上に「Lottery(くじ引き)」と描かれた簡素な木箱を置く。

「選手の皆さん、この木箱の中にあるくじを引いてください。順番についてはあなたたちにお任せします」

スタッフにそう促され、僕とキヨマサを含む8人の選手は互いに顔を見合わせる。

こういう状況で最初に動くのはそれなりに勇気がいるだろう。

「私は一番最後でいいよ。アキナには『残り物には福がある』という(ことわざ)があるからね」

そう言い放つとカガは集団から少し距離を置き、一歩引いた場所で組み合わせ抽選の様子を見守る。

誰が相手であろうと勝ち抜いてみせる――両腕を組んでいる彼女の表情はそう言いたげだ。

「フンッ……んじゃ、一番槍として引いてやるぜ! アタシはとにかく一番じゃないと気が済まないんだ!」

一方、ヴェガは露骨に足音を立てながらテーブルの前へ歩み寄り、木箱の中に武骨な左腕を突っ込む。

「――5番か。ということは明日の第3試合目だな」

「はい、ヴェガ選手は第3試合ですね。それでは他の選手の抽選が終わるまでしばらくお待ちください」

「ヘッヘッヘ、誰とぶつかることになってもこの拳でボコボコにしてやるぜ……!」

離れた場所で観客の声援に応えているカガの方を見やりつつ、僕たちが集まっている所へ戻って来るヴェガ。

何と言うか……この時点で既に一方的なライバル関係ができているようであった。


 結局、カガとヴェガ以外の選手はファイターナンバーが小さい順にくじ引きを行うことになった。

「ふむ……1番か」

「分かりました、レウクトラ選手は第1試合ですね」

トーナメント表に自らの名前が書き記されたのを確認し、石板の前から戻って来るレウクトラ(17番)。

まだ相手が分からないというのもあるかもしれないが、彼女は抽選結果を見ても全く表情を変えなかった。

さて、ヴェガ(24番)は既にくじを引いているので次はキヨマサの番だ。

「キヨマサ、できれば楽な相手とぶつかるといいね」

「おう、お前と同じブロックじゃなければ尚良いな。俺とお前が決勝戦以外でぶつからない組み合わせなら、どちらかが勝ち残れる可能性が上がる」

僕の難しい要望に対してハンドサインでそう答え、木箱が置かれたテーブルの前まで歩くキヨマサ。

上面に開けられた穴へ右腕を突っ込み、中に入れられている紙切れを取り出す。

「ええっと……6番? げげっ、初戦からイヤな奴と当たっちまったな……」

紙切れに書かれている数字を見たキヨマサは眉をひそめながらトーナメント表を確認する。

6番の選手が出るのは第3試合――つまり、対戦相手は5番の選手となる。

「ほう、アタシの初戦の相手は可愛らしい坊やか。ヘッヘッヘ……こりゃ初戦は頂きだな」

そう、キヨマサはよりによって初戦でヴェガと当たってしまったのだ。


「クソッ、俺のくじ運はイマイチだったようだな」

悪態を()きながら戻って来るキヨマサだったが、言動に反してあまり落ち込んでいるようには見えない。

「あはは、災難だったね……じゃあ、次は僕が行って来るよ。2番から4番のどこかを引ければいいんだけど……」

次はいよいよ僕のくじ運が試される時だ。

ライバル選手や大観衆が見守る中、僕は運命の木箱の前へと歩みを進める。

「(頼む……Aブロックのどこかが出てくれ!)」

雲一つ無い青空に向かってそう念じながらくじを引く……。

紙切れに記されていた数字は――2番!

「2番――ということはジェレミー選手は第1試合、レウクトラ選手との対戦ですね」

僕から紙切れを回収したスタッフがトーナメント表に名前を書き込んでいく。

初戦の対戦相手は大盾使い(ファランクス)のレウクトラ。

どんな戦術を使ってくるのか全く予想が付かない、ある意味では戦い辛い相手だった。


 最終的に確定した組み合わせは以下の通りだ。

前述したように最終予選の開幕を告げる第1試合では僕とレウクトラ選手が戦う。

その次の第2試合は「上級魔術師(ソーサラー)のアンヌ=マリーVS義賊のエリノーラ」という対戦カードに決まった。

1時間半のランチタイムを挟んで行われる第3試合ではキヨマサとヴェガが激突する。

そして、初日の締め(くく)りとなる第4試合はくじを引かなかったカガと槍騎兵(ランサー)のヴィルジニアによる一騎打ちが行われる予定だ。

……まさか、これがロイヤル・バトル史上有数の大番狂わせの始まりであろうとは誰にも予想できなかった。

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