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【64】WAITING ROOM -ライバルたち-

 ここはスターシア王国最大の円形闘技場「アンフィテアトルム」の選手控室――。

会場入りと同時に身元確認を済ませた僕とキヨマサは「ファイターナンバー」と呼ばれる番号が刻まれたビブスを受け取り、この部屋で開会式の時を待ち続けていた。

ちなみに、僕は何となく頭に浮かんだ「44」、キヨマサは「自分がこの世界で目覚めた日」という理由から「32」をそれぞれ選択している。

アンフィテアトルム選手の中には外国出身の非スターシア人も少なくないため、スタッフも観客も選手を番号で区別しているという。

それにしても、開会式が10分後に迫っているというのに控室の選手は随分少ないように見える。

無論、競合相手が少なければそれに越したことは無いのだが。


「おや? 君たちみたいな可愛い男の子がこういう荒事に顔を出すなんて珍しいね」

ビブスに描かれた「44」という数字をジッと見つめていたその時、選手と思わしき軽装戦士(スカウト)が僕とキヨマサに笑顔で話し掛けてくる。

ボーイッシュな彼女のビブスに描かれている数字は「13」。

この数字はスターシア王国では所謂「忌み数」とされているため、それを好き好んで選んでいる時点でスターシア人ではないことが分かる。

「は、はぁ……これには事情がありまして……」

「ジェレミー、他の選手と慣れ合う必要は無いぜ。俺たちは友達を作りに来たわけじゃない」

「でも……話し掛けられたのにシカトするのは失礼じゃない?」

この遣り取りがよっぽど面白いのか、僕たちに話し掛けてきた軽装戦士はそれを見てクスクスと笑っている。

「いやはや、その黒髪の少年の言う通りでもある。私たちはたった一つの出場枠へ滑り込むためにここへやって来たんだからね。それじゃ……お互い決勝まで残れるといいな、44番と32番」

そう言い残すと彼女は片手を上げながら元々座っていた椅子へと戻っていく。

試合で誰と戦うかは開会式中に行われる組み合わせ抽選会で決まるが、その結果次第では彼女やキヨマサと鉢合わせする可能性も十分考えられる。

もちろん、キヨマサと潰し合う最悪のパターンはできれば避けたいが……。


「選手の皆さん、これより開会式を行いますのでファイターナンバーが若い順に整列してください。ええっと……まずはファイターナンバー13番、高機動戦士(レンジャー)のカガ選手」

「はいよ」

スタッフの指示を受け、先ほど僕たちに話し掛けてきた女性――カガが両肩を回しながら立ち上がる。

「高機動戦士ですって?」

「あの女、ヘラヘラしているが腕は良さそうだ。注意したほうがいいかもしれん」

「13番の女……スターシア人が嫌う数字を選ぶのはやはりアキナ人か」

カガのジョブを聞いた他の選手たちが突如としてざわめき出す。

あと、誰かの口から出てきた「アキナ人」というのがカガの人種なのだろうか。

「ねえキヨマサ、『アキナ人』ってどこの人?」

「ああ、スターシアからずっと東にある『アキナ』という島国に住んでいる人種だ。カガの肌をよく見てみろ、一般的なスターシア人よりも少しだけ黄色いだろ?」

キヨマサにそう促されたことで僕はカガの姿をじっくりと観察してみる。

女性をジロジロと見つめるのは変態みたいで気が引けるが、これから戦うかもしれない相手の偵察だと思ってやるしかない。

「……(無言のVサイン)」

「!?」

スタッフと話し込みながらもこちらの視線に気付いていたカガに対し、僕は「この人は本当に強いかもしれない」と明確な警戒心を抱くのだった。


 警戒すべき相手はカガだけではない。

「次、ファイターナンバー17番、大盾使い(ファランクス)のレウクトラ選手」

「ハッ!」

次に呼び出された人物は「大盾使い」という珍しいジョブを名乗る、筋骨隆々とした女性戦士。

僕たちとは比べ物にならないほどの筋肉量を持つ、まるで彫刻がそのまま歩いているかのような人物だ。

「次、ファイターナンバー24番、拳闘士(ボクサー)のヴェガ選手」

「おうッ! 組み合わせ抽選が楽しみで仕方ないぜ!」

生粋のアンフィテアトルム選手と思わしき拳闘士が拳を合わせながら立ち上がる。

身長2mを優に超える巨人である彼女は見るからに乱暴者っぽく、正直に言うとあまり当たりたくない相手だ。

「次、ファイターナンバー32番、剣士(ソードマン)のキヨマサ選手」

「はい」

名前を呼ばれたキヨマサはスッと立ち上がり、ヴェガ選手の真後ろに並ぶ。

「これはこれは……可愛らしい坊やじゃねえか。せいぜいアタシのパンチの餌食にならないよう、お祈りでもしとくことだ」

「フンッ……あんたが他の選手に潰されることを期待してるぜ」

屈強な拳闘士からの挑発に対し、黒髪の少年は全く物怖じしていなかった。


「次、ファイターナンバー36番、義賊(ジェントルシーフ)のエリノーラ選手」

「……」

フードで顔を隠している女性が静かにキヨマサの後ろへと移動する。

背丈がキヨマサよりも低いため、もしかしたら僕たちと同年代以下の少女なのかもしれない。

「次、ファイターナンバー44番、射手(アーチャー)のジェレミー選手」

いよいよ僕の名前が読み上げられる。

「はい」

「本人確認……問題無し。前の選手たちについて行って入場してください」

「分かりました」

「次、ファイターナンバー51番――」

開会式についての簡単な説明を終えると、スタッフは次の選手を呼びに向かう。

「(ついにこの時が来た……この中の何人かと戦うことになるんだ……!)」

周りの人たちがどう思っているかは知らないが、少なくとも僕は不安と緊張で胸が一杯だった。

【アキナ】

オリエント超大陸の極東――赤道直下付近の低緯度に位置している島国。

スターシアよりも長い歴史を持つ海洋国家であり、「ウキヨ」と呼ばれる絵画や個性的な魚介料理で有名。

アキナ人の大半は所謂「黄色人種」に相当し、肌の色が少しだけ黄色いことで容易に見分けが付く。


【義賊】

異世界スターシアにおける義賊とは「主にギルドと契約を交わし、同業者を相手に戦う正義の盗賊」と定義されている。

義賊(ジェントルシーフ)と盗賊(バンディット)は紙一重の存在であり、更生した盗賊が義賊へジョブチェンジすることも珍しくない。

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