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【59】CONFESSION -ノエルの過去-

 今から30年ほど昔――まだ私が結婚する前の話だ。

当時血の気盛んな若手冒険者だった私はギルドの依頼でスターシア西部に赴いたのだが、そこで一人の異界人が行き倒れていた。

先ほど話した異界人虐殺から10年ぐらいしか経っていなかったこともあり、最初は関わらずに見捨てようかとも思った。

だが……人間としての良心がそれを許さなかったのさ。

結局、私はその異界人に水と食料を与えたうえで近くの町まで連れて行き、「ここから先はお前の力だけで生きろ。この規模の町なら仕事の一つや二つは見つかるはずだ」と一度は突き放した。

彼との付き合いはここで終わりだと思っていたが……いやはや、運命というのは不思議なものだな。

数か月後、彼がリリーフィールドのギルド本部に依頼人としてやって来て、私を指名してこう頼み込んできたんだ。

「僕が何者なのか知りたいから、唯一頼れそうなあなたに手伝ってほしい」と……。


 異界人の少年は「ジェンソン」と名乗っていた。

もっとも、それが本名なのかは結局分からずじまいだったがな。

年齢は今のお前たちと大体同じぐらいで、ジェレミーのような金髪と碧い瞳をしていた。

じつを言うとだな……ジェレミーを初めて見た時、一瞬だけ勘違いしそうになったんだ。

30年前、私の目の前で息絶えたジェンソンが帰って来た――と。

ああそうだ、彼はもうこの世にはいないのさ。

さっき話した「裏切り者」から私を庇って殺されたんだ!

私に人を見る目があれば、あんなことにはならなかったんだが……今更後悔しても遅い。

とにかく、ジェンソンの「依頼」を私は断ることができず、人助けを兼ねた修行だと割り切って長い旅に出た。


 本格的に旅立つ前、私は助言を仰ぐために父親のコネを使って王室関係者と話し合う機会を設けてもらった。

……今だから言えることだが、この時の私の判断は非常に愚かだった。

さっき説明した通り、スターシア王家というのは異界人排斥を扇動していた張本人だ。

そこに「異界人を助けるためにはどうしたらいいですか?」なんて相談を持ち掛けてみろ。

ロクなことにならないのはお前たちだって容易に想像できるだろう。

でも、あの時の私は本当に若すぎたうえ、スターシア王家を「高潔な一族」だと勘違いしていたのさ。

王室関係者との面談で知っていることを洗いざらい話してしまった結果、私とジェンソンは王室から「危険人物」としてマークされ、どこへ行くにも尾行を付けられるハメになった。

まあ、私はそこまで鈍感な女ではない。

尾行に関しては存在をすぐに嗅ぎ付け、こちらから返り討ちにしてやることで自然といなくなったさ。

しかし……本当に排除すべきだったのは「裏切り者」――。

旅のサポートという名目で王室関係者が紹介してくれたマギア使いの女だった。

早い段階でそれに気付いていればな……。


 旅の一行に加わったマギア使いの名は……思い出したくもないが、忘れることもできん。

奴の名前は「ブリュンヒルデ」。

スターシアでは聞き慣れない名前なんで後年調べてみたら、やはり北の大陸の山岳国家「ゼーバッハ=ゾルト帝国」から家族と共に移民してきた女だったらしい。

ゼーバッハ人というのは謀略を好み混沌をもたらす民族でな、こう言っちゃ悪いが関わるとロクなことにならない。

そこまで分かってて、なぜスコードロンに迎えたのかって?

そうだな……大人の事情ってヤツだ。

ブリュンヒルデを紹介した王室関係者は頭脳明晰な歴史研究者で、彼女の意見は常に論理的で正しいという風潮があった。

下手に断ってその歴史研究者の機嫌を損ねたら、たとえ正論だったとしても「無教養」扱いされたのさ。

話し上手だったが人格面は控えめに言っても「クソ」だったんで、今どこで何をしているのかは知らん。

あと、王室関係者と繋がりがある父親の顔に泥を塗りたくなかったという、私の個人的な事情も関係している。

当時は親子関係がギクシャクしていたから、無理を承知の上で頼み込んで何とか要求を呑んでもらったのに、それを無下(むげ)にしたら実家を勘当され今も冒険者をやってたかもな。

ともかく……その辺りの事情とブリュンヒルデ自身の「人柄を良く見せる演技」に見事騙され、私たちは獅子身中の虫と旅路を共にすることになってしまった。


 さて、じつは私たちのスコードロンにはもう一人メンバーがいた。

旅路の途中で加わった彼女は正真正銘の「仲間」であり、ジェンソンやブリュンヒルデと違い今も生きている。

彼女の名は「シルヴィア」。

マーセディズとシャーロットの母親――すなわち、私の妻となった女性だ。

私たちに王室関係者の差し向けた尾行が付いていたのは先ほど話した通りだが、その対策として仲間と相談した上で迎え入れたのが、当時軽装戦士(スカウト)として腕を鳴らしていたシルヴィアだった。

よくよく考えると、行動を掌握できないイレギュラーの加入をブリュンヒルデが拒否しなかった理由が気になるが、今更お前たちと議論しても仕方あるまい。

とにかく、野外活動が得意で機動力に優れるシルヴィアの加入によってスコードロンの役割分担が徹底され、私たちの旅はとてもスムーズに進んだ。

賢者レガリエルから異界人を帰す方法を聞き出し、そのついでと称して潜在能力を引き出す「洗礼」を受けさせてもらい、そこで得た力は困難な旅路において助けとなった。

……何? お前たちは「洗礼」を受けていないのか?

そうか……それは単純に実力が足りないだけだろう。

もっと腕を磨いてから再び賢者へ会いに行くといい。

空の柱――あそこを登り切るには「洗礼」による潜在能力の解放が必須だからな。


 少し話が逸れてしまったが……いよいよ赤の他人に話す時が来たか。

ああ、かつて私と妻が異界人を帰すために空の柱を登り切り、その頂上で史上最大の挫折を味わったことを娘たちへ話したことは無い。

話す機会が訪れることは無いと思っていたからな。

だが、私たちが果たせなかった偉業をお前たちが成し遂げるつもりなら……真相を知ってほしい。

世界線を超えるために「神」へ挑んだ人間たちの末路を……。

【ゼーバッハ=ゾルト帝国】

オリエント超大陸西部の山岳地帯に位置する軍事国家。

元々は「ゼーバッハ大公国」「ゾルト王国」という二つの独立国家だったが、約150年前にゼーバッハ主導でゾルト及び周辺の小国が併合され現在に至る。

オリエント超大陸においてはヴワル-オリエント王国やアロンソ王国と肩を並べる列強として覇権を争っている。

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