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【43】DETERMINATION -決意に満たされる時-

「(うぅ……)」

重いまぶたを開けると、目の前には見慣れない天井が広がっていた。

ここは……どこだ?

僕は……何をしていた?

ベッドから上半身を起こし、部屋の中を見渡す。

「zzz……!」

扉のすぐ隣に置かれている丸椅子に座り、ウトウトしている人影――。

それは、腕を組んだまま眠るマーセディズの姿であった。


「……! ああ、ジェレミー……目が覚めたか?」

寝ぼけまなこを擦り、背筋を伸ばしながらこう尋ねるマーセディズ。

状況がイマイチ把握できていないが、とりあえず意識はハッキリとしている。

「君が突然倒れた時はさすが慌てたよ。キヨマサは『疲れが溜まってたんだろう』と言ってたが、ボクにはそうは思えなくてね……」

彼女の言う通り、遠征隊の捜索を巡るハードワークで僕は確かに疲れていた。

でも、いきなり気を失うほどの疲労ではなかったはずだ。

何と言えばいいか……レガリエルが差し出した「London Times」なる新聞を見た瞬間、急に意識が遠のいたことまでは覚えている。


コンコンコン……。


「ジェレミー君、起きてるかしら? 晩御飯を持って来たわよ」

扉を3回ノックする音に続いて聞こえてきたのは、心配げに僕の状態を尋ねるレガリエルの声。

「ああ、ジェレミーもボクも起きていますよ」

僕の代わりにマーセディズがそう答えながら扉を開けると、エプロンを身に纏ったレガリエルが部屋へと入ってくる。

彼女は2つの皿を乗せたトレイを両手に持っており、そのうちの一つをマーセディズへと渡す。

「ごめんなさい、私が食事に無頓着だからこういうものしか出せなくて」

「と、とんでもない……! 賢者の手料理を頂ける機会なんて滅多にありませんよ!」

申し訳なさそうな表情を浮かべるレガリエルを咄嗟にフォローし、「こういうもの」を観察するマーセディズ。

賢者の手料理がどういうものなのか少々気になるが、僕が座っているベッドの位置から皿の中身を見ることはできなかった。


 しばらく待っていると、レガリエルは料理が入った陶器製の皿をトレイごと僕の膝へ置く。

これは……ポリッジだろうか?

確かに、賢者と呼ばれる人が作る手料理にしては質素と言えなくもない。

「いつもは使用人たちに作らせているんだけど、今回は特別よ? 余程のことが無ければ自分で料理を作るなんて滅多に無いんだから」

照れくさそうに頭を掻きながら呟くレガリエル。

この仕草のおかげで親近感が湧くのは良いが、これはこれで賢者としての威厳が損なわれるような……。

いただきますと手を合わせ、僕は賢者お手製ポリッジをスプーンで口へ運ぶ。

「あ! 美味しい……!」

変な癖や余計なアレンジを一切廃した、素朴ながらも食べやすいポリッジ。

純粋に漏れた感想を笑顔のレガリエルに聞かれ、僕は思わず顔を赤くしてしまう。

「まあ、それはともかく……君が本当に異界人なのかどうか、私なりの見解を述べないといけないわね」

そう言いながら彼女はパチンと指を鳴らし、自らの手元へ一枚の古びた紙切れを召喚するのだった。


 レガリエルの手元に突如現れた、一枚の古く黄ばんだ紙切れ。

「率直に言うと、君とキヨマサ君が異界人である可能性は限り無く100%に近いと思う。もっとも、完全な0%と100%は神様以外にあり得ないけどね」

神様云々のくだりはよく分からなかったが、僕とキヨマサが異界人であることはほぼ確実らしい。

だが、それが分かったところで記憶が戻ってくる気配は無い。

やはり、この世界で生きていくしかないのか――。

失われた記憶と生まれ育った世界への未練を捨て去ろうと決意した時、項垂れる僕の左肩へレガリエルが手を置く。

「君は……あくまでも真実の追究を望むのかしら?」

これまで見たことが無い、賢者らしい真面目な表情で彼女はこう問い掛ける。

「僕は……記憶の在処を知りたいです……!」

その質問に対する僕の答えは既に決まっていた……。


「口だけなら何とでも言えるわ、それが異界人の悪癖だもの。『絶対に元いた世界へ帰ってやる』――それを有言実行できた者は長い人生の中で一度も見たことが無い」

僕が眠っていたベッドの縁へ腰を下ろし、かつて異界人が辿った末路を語り始めるレガリエル。

ポリッジを持って来てくれた人と同一人物とは思えないほど冷たい眼差し。

その姿を見ると背筋に寒気が奔る。

おそらく、これが「賢者レガリエル」の本当の姿なのだろう。

「二刀流ってだけで図に乗ってた剣士に盾使いの自称勇者――ああ、それにこの世界じゃ使えない文明の利器へ頼ろうとするバカもいたわね」

彼女は僕以前に関わったと思わしき異界人たちの特徴を挙げ、まるで「思い出すだけでも嫌だ」といった顔で天を仰ぐ。

特徴だけを聞くと僕よりも強そうな人たちだが、何か問題でもあったのだろうか?


「――異界人はボクたちが知らない技術と共に現れることがあり、その点に限っては特筆に値する。だが……」

黙々とポリッジを頬張っていたマーセディズが食事の手を止め、僕の疑問に答えようとしてくれる。

「……彼らの大半は『強さ』に対し『心』が伴っていなかった。正しき心を持たない者はマギアの瘴気に呑み込まれ、身を滅ぼすことになる」

マギアの瘴気?

そんなモノが存在するとは初耳だ。

マーセディズは何かしらの理由で事実を伏せていたのかもしれないが、僕がマギアを扱う時は特に瘴気らしきものは感じなかった。

「異界人でありながらマギアの瘴気をものともしない――君ほどの『正しき心』を持つ者ならばもしかしたら……!」

そう言いながらレガリエルはベッドの縁から立ち上がり、僕の両肩に手を置いてこう尋ねるのであった。

「かつて誰一人として成し遂げたことの無い、帰れるかも分からない困難な旅になるわよ。それでも……真実を追い求めるつもりかしら?」


 100回聞かれたら100回答えてやるつもりだ。

僕は失われた記憶を取り戻すためにここへ来た。

その為ならばどんなことでもする――と。

「白状すると、私は君とキヨマサ君を本来在るべき世界へ帰せる方法を知っているわ。だけど、生半可な決意ではそれを教えることはできない」

姿勢を低くし、僕の目を真っ直ぐ睨みつけるレガリエル。

おそらく、その視線に恐れを抱いて目を外した瞬間、彼女の失望を買うことになるだろう。

「スターシアの文化に順応できている君は、もしかしたらこの世界で生きていくほうが幸せかもしれないのよ?」

「でも、本来はこの世界にいるべき存在ではないんでしょう?」

賢者が見せる凄みに臆する事無く僕は言い返し続ける。

彼女が折れてくれるまで決して諦めない。

「真実を追い求めるということは、この世界を管理する存在へ挑むということ」

「世界を管理する存在……?」

「そう、単刀直入に言えば『神様』よ」

神様……か。

だが、真実を知るためには相応のリスクを背負わなければならない。

「僕は……たとえ僕は神にだって従いません! 真実へ至るためならば……!」

自分でも後悔しそうになるほど罰当たりな宣言。

しかし、それを聞いたレガリエルは微笑みながらこちらを見つめていた。


「……いくら言っても無駄というわけね。仕方ない、私の負けよ! これを持って行きなさい!」

諦めたように両肩をすくめ、先ほど召喚した紙切れを僕へと手渡すレガリエル。

「その地図の上の方に離れ小島があるでしょう? 真実を求め、在るべき世界へ帰りたいのならそこに建つ『空の柱』へ向かうのよ」

スターシア王国と思わしき陸地の北方――「ランドグリーズ海峡」と書かれている海にポツンと浮かぶ孤島。

その島には巨大な塔「空の柱」と思わしき建築物が描かれていた。

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