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【42】MEMORY ERROR -記憶の在処-

「どうした? 大丈夫か?」

こちらの様子が気になったのか、心配するように僕の顔を覗き込んでくるマーセディズ。

「あ……大丈夫。この本の表紙が少し気になっただけで……」

「どれどれ……うーん、何だこれは? 全く知らない文字で書かれているし、カバーイラストのこの巨鳥は何者なんだろうな?」

彼女は僕の手から取り上げた本のページをパラパラとめくっていくが、内容は全く読み取れなかったらしい。

「セヴリーヌさん、ちょっといいかな? この本について詳しく聞きたいことがあるんだが……」

結局、マーセディズは独力での解読を断念し、呼び出したセヴリーヌへ未知の言語について尋ねることにした。


「これですか? あー、困りましたね……この本、じつを言うとレガリエル様も内容を解読できていない書物の一つなんです」

セヴリーヌの口から出たのはあまりにも意外な答えだった。

まさか、賢者レガリエルにも分からない言語があったとは。

「この世界にも『オリエント語』という文字体系が近い言語がありますが、それとは単語や文法が根本的に異なるみたいです。レガリエル様は『オリエント語の系譜に属する、我々にとっては未知の言語』と考えられているようですが、まだまだ研究の余地がありますね」

オリエント語?

僕はスターシア語以外見聞きしたことはないが、この世界には他にも言語が存在しているらしい。

「ああ、北の大陸で使われているという言葉か。あれでさえ読み書きに一苦労するのに、その系譜などスターシア人に理解できるわけが無い」

オリエント語のことを思い出すや否や、少し不機嫌そうに語り始めるマーセディズ。

「ボクたちがいる大陸と北の大陸はそれぞれ独自に文明を作り上げてきたからね。言語のみならず文化的な共通点も少ないのさ。共通点を強いてあげるなら、生物学的には同じ種族ってことぐらいかな」

スターシア王国とは全く異なる文化を持つ土地――。

そうだな……記憶が戻らなかったら、新天地へ旅立ちこの世界で一生を終えるのも悪くないかもしれない。


 僕とマーセディズが書棚にある本を適当に眺めていると、質問攻めを終えたキヨマサが疲れ気味な表情でこちらへ戻って来た。

「キヨマサ、どうだった? 記憶の手掛かりは掴めた?」

「あのおば――賢者様、気を付けたほうがいいぜ。油断すると質問が次々と飛んで来るからな」

後ろから突き刺さる視線を察したのか、肩をすくめながら僕の問い掛けに答えるキヨマサ。

「んで、記憶のことについてだが……残念ながら、現時点で取り戻すのは難しいとのことだ」

「そう……」

「まあ、気に落とすことは無い。ゆっくりと思い出していけばいいさ。さて、次はお前が質問攻めに遭う番だぞ」

そう言いながら彼は僕の左肩を叩き、こちらに軽く手を振っているレガリエルを見やる。

「元々はお前のためにここまで来たんだからな。お前が何者だったのか……分かるといいな」

小声で激励してくれるキヨマサに背中を押され、僕は賢者の前にある椅子へと腰を下ろすのだった。


 キヨマサとの対談で得た情報を書き残しているであろう紙を置き、こちらに対して微笑みかけるレガリエル。

「待たせたわね。では……記憶の在処を探すための対談を始めましょうか」

ついに賢者との1対1の話し合いが始まる――かと思いきや、彼女は羽根ペンをクルクルと回しながら何やら考え込んでいる。

「あの……レガリエルさん? どうかしましたか?」

「ん……いえ、じつを言うと君が本当に『異界人』なのかどうか、判断しかねているところなのよ」

確かに、僕はスターシア王国の文化やマギアをすんなりと受け入れ、すぐに順応することができていた。

もしかしたら何らかの理由で記憶を失っているだけで、生まれも育ちもスターシア王国のどこかなのかもしれない。

それも悪くない。

生まれ故郷があるのならばそこへ向かい、僕のことを知っている人と出会うことができれば、本来あるべき姿へ戻れるかもしれないのだ。


「それで、一つ気になったことがあったんだけど……これを見てもらえるかしら」

羽根ペン回しを止め、レガリエルは机の引き出しから一枚の大きな紙切れを取り出す。

その紙は(たと)え難い特徴的な匂いを発しており、灰色の紙面には色鮮やかながらも写実的なイラストが描かれている。

また、びっしりと敷き詰められている文字はスターシア語に大変よく似ていた。

一見すると街頭で売られている新聞のようだが、カラフルな挿絵が入れられているものは見たことが無い。

そもそも、スターシア王国の印刷技術ではここまで綺麗な新聞は刷れないはずだ。

「少し前に独力で内容を解読してみたけど……」

「みたけど?」

「一応読むことはできるけど、具体的な内容はサッパリよ。『コンコルドⅡ』や『爆破テロ』といった謎の単語が出てくるし、見た感じは異世界の――それも、極めて高度な文明を持つ世界の新聞みたいね」

首を横に振りながら僕へ不思議な新聞を手渡すレガリエル。

彼女が頭を抱えるようなものなど、僕には読める気がしないのだが……うッ!?。

「一番上の大きい文字は『London Times』と書いているみたいよ――って、聞いているの? ねえ、大丈夫!?」

心配げな表情を浮かべながらレガリエルが駆け寄った時、僕の意識は既に朦朧としていた。


 どうしてだろう?

この「London Times」なる新聞を見た瞬間、僕は突然眩暈(めまい)や吐き気を覚え、目の前が真っ暗になってしまった。

新聞自体の匂いが堪えたとか、内容が不快だったというわけではない。

……まさか、僕はこの新聞を知っているのか?

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