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【41】QUESTION&ANSWERS -記憶の追求-

 当然と言えば当然だが、この書庫には見渡す限り本棚が置かれている。

これら一冊一冊がレガリエルの集めてきた書物なのだろうか。

「レガリエル様、お茶をお持ち致しました」

初めて聞く女性の声にハッとし、僕の視線は賢者の方へと戻される。

レガリエルの隣にはハツユキと同じ服装を身に纏う使用人――いや、どちらかと言うと「メイド」のような女性が笑顔で佇んでいた。

「(綺麗な人だな……)」

別にマーセディズたちが不細工というワケではないが、この使用人の女性はスターシア人とは違う方向性の美貌を持っている。

何と言えばいいか……僕の彼女に対する第一印象は「妖精のような儚さ」であった。


「ありがとう、セヴリーヌ。折角だから貴女も話を聞いていってはどうかしら? もしかしたら、彼らの境遇も貴女と同じかもしれないからね」

セヴリーヌと呼ばれた使用人は驚いたような表情で僕たちを見た後、レガリエルの方へ視線を戻す。

「(……彼らも(わたくし)と同じ異界人なのですか?)」

「(まだ確証は無いけど……その可能性はとても高いと思う。まあ、これから行う質疑応答で証拠は出揃うわよ)」

僕たちには聞こえない小声でコソコソ話すのを怪訝そうに見つめていると、それに気付いたレガリエルは取り繕ったかのような笑顔をこちらへ向ける。

悪い人では無いと思うが……何を話していたのか気になるところだ。

「この娘はセヴリーヌ、私に仕えている使用人の一人だけど……彼女の耳に注目してちょうだい」

そう言いながらセヴリーヌの耳を指差すレガリエル。

「ふむ……耳の先が尖っていますな」

使用人の頭からつま先まで一通り観察し、マーセディズが指摘したのは耳の先の形状である。

彼女やレガリエルは端的に言うと「普通の耳」をしているが、セヴリーヌのそれは僕たちとは大きく異なっていた。


「そう、少なくとも『尖った耳の人類』の存在はまだ確認されていない――聡明なマーセディズさんなら、この意味が分かるはずよ」

聡明ではない僕は少し理解が追い付かなかったが、マーセディズとキヨマサはレガリエルの発言から何か察したようだった。

「ボクたちの知らない異世界からやって来た人類――か」

「所謂『多元世界』というヤツだな。俺も噂話では聞いたことがあったが……」

彼女らの話を整理すると、セヴリーヌはスターシア王国がある「この世界」とは異なる世界からやって来た――という話らしい。

「はい……私はこの世界の人間ではありません。私が生まれ育った世界の人類では尖った耳を持つ種族は『エルフ』と呼ばれ、もう一つの人類と醜く凄惨な戦争を繰り広げていました」

その答えはセヴリーヌ自身が教えてくれた。

マーセディズとの雰囲気の違いから気になってはいたが、やはり彼女はスターシア人ではなかったのだ。


「――このように、我々が今いる世界と異なるところからやって来た者は『異界人』と呼ばれているわ。セヴリーヌは元々いた世界から何も失うこと無くこちらへ来れたけど、中には世界線を越える際に魂と肉体を再構成され、その過程で全てを失ってから生まれ変わる『転生』を経験する者もいる」

世界線? 転生?

聞き慣れない言葉の連続に僕はポカンとしていたが、レガリエルは「お前のことだぞ」と言わんばかりにこちらを指差す。

「ジェレミー君、キヨマサ君、今から君たちにいくつか質問をしたいのだけれど……少し時間をいただけるかしら?」

質疑応答の結果次第で失われた記憶の手掛かりを掴めるかもしれない――。

僕とキヨマサに千載一遇の機会を拒む理由は無かった。

「お願いします、レガリエルさん。僕たちはその為に貴女を訪ねたのですから……!」

僕自身が驚くほどの力強い返事に感心したのか、レガリエルは何度も頷きながら紙と羽根ペンを取り出すのだった。


「これから君たちに簡単な質問をします。肩肘を張らず、でも正直に答えてちょうだい」

ちゃんと食事は取っているか? 基礎を教えてくれる者はいるのか?

どんなことを尋ねられるのか想像し、頭の中で答えを用意しながら僕はレガリエルからの質問を待つ。

「最初の質問です。単刀直入に聞くけど……転生前のこと、些細な記憶でもいいから覚えてないかしら?」

本当に単刀直入すぎる質問だ。

それが分からないから僕はここへ来たのに……。

でも、真実を探求するためには何か答えるべきだろう。

「うーん……本当に些細なことかもしれないけど、青空を見てると心が落ち着くんです」

「奇遇だな、俺も全く同じことを言おうと思ってた。今はそうでもないが、この世界のやり方に順応できるまでは何かにつけて空を見上げていたな」

「そうそう、まるで大空こそが心の在処みたいな……」

そんな僕たちの遣り取りをスラスラと紙へ書き写していくレガリエル。

内容を見返している様子を見る限り、彼女は僅かな情報だけで何かしらの確証を得たようであった。


「それじゃあ、次の質問――まあ、答え次第ではこれで結論が出るかもしれないけどね」

結論が出せる――。

レガリエルのその一言に僕とキヨマサは思わず気を引き締める。

「君たち……この世界で初めて見聞きしたものに『デジャヴ』を抱いたことはないかしら?」

デジャヴ、デジャヴ、デジャヴ――。

キヨマサは首を傾げているが、僕はこの単語自体をどこかで聞いたような気がする。

それだけではない。

スターシア王国の地名やマギアの名前、そしてスターシア人の人名――。

初めて見聞きする言語のはずなのに、僕はなぜかスターシア語をすんなりと受け入れることができていた。

我ながら不思議な話だ。

「俺は特に……2~3年前はスターシア王国の全てが新鮮に見えていて、こっちの言葉を読み書きするのにも苦労していました」

しかし、意外にもキヨマサはそうではなかったらしい。


「ジェレミー、お前がすぐにスターシアの生活スタイルへ順応できたことには驚かされた。俺はちっちゃい子どもたちに混じってスターシア語の勉強をさせられるほどだったし、常識や礼儀作法を覚えるのにも少し時間が掛かったからな」

「! それは少し気になるわね……キヨマサ君、まずはあなたに質問を集中させてみましょうか」

何か気になることがあったのか、レガリエルはキヨマサの真相究明を優先すべきだと判断し、彼にもっと椅子を近付けるよう促す。

「ごめんなさい、ジェレミー君。こっちの話が終わるまでの間、本棚にある書物を自由に読んでいいわよ。質問があればセヴリーヌに尋ねなさい」

「あ……はい、分かりました」

二人が話し込んでいる間、僕はマーセディズの隣まで椅子を下げ、何気なく目に入った一冊の本を手に取る。


 その本の表紙には全く見たことが無い文字でタイトルが記されていたが、カバーイラストに描かれている「純白の巨鳥」を見た瞬間、僕の脳裏に強い電流が奔ったような気がした。

【世界線】

平行世界を隔てる不可視の境界を指す。

「平行世界を分けるための国境線」に例えられるが、研究はまだ進んでいない。

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