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【39】ANCIENT CASTLE -ノウレッジ・パレス-

 ホームステッド東部に広がる森は木々がまばらで、ナイトホークの営巣地周りに比べると幾分か明るい印象を受けた。

木々の間から降り注ぐ木漏れ日が心地良い。

2~3日前のクソ気持ち悪かった冷たい雨が嘘のようだ。

大地は泥沼から適度に湿った土へ戻り、僕たちの頭上には雲一つ無い青空が広がっている。

「そういえば、なんで俺たちが『ノウレッジ・パレス』へ行くことを知ってたんだ?」

思い出したかのように疑問が浮かび上がり、先頭を歩くマーセディズへそう尋ねるキヨマサ。

「ああ、ガートルードさんからの伝言で教えてもらったのさ」

質問に対し笑いながら答えると、銀色の騎士は木々の隙間から見える廃墟を指差す。

「ほら、あの古城がボクたちの旅の目的地――『ノウレッジ・パレス』だ」

木々が途切れ、僕たちは人為的に切り拓かれた場所へと出てくる。

そこには壁一面に蔦が生い茂り、すっかり朽ち果てた宮殿のような建物が佇んでいた。


 申し訳程度に整備された砂利道を進んで行くと、かつては広大な庭園が築かれていたであろう場所へ辿り着く。

庭園への出入口となる正門に扉は設置されておらず、警備員らしき人も見当たらない。

人の気配は全く感じられないが、花畑や並木には丁寧な手入れが行き届いており、少なくとも庭園を整備する人がいることは分かる。

「やけに静かだな……」

武器を構えるほどではないにせよ、不気味なまでの静寂さにキヨマサは警戒心を抱く。

「詳しいことはあまり知らないけど、ボクが生まれるよりも前の時代に栄えていたらしい。この城を造った貴族は今はホームステッドに住んでいて、城の所有権は既に放棄したと云われているね」

この世界で生まれ育ったマーセディズなら城の事情に詳しいかもしれないと思ったが、さすがに生まれる以前の出来事はよく知らないようであった。


「ここが『ノウレッジ・パレス』……!」

朽ち果ててもなお色褪せない威厳を見せつける古城の姿に、僕は思わず息を呑んだ。

庭園を貫く道の終点にあったのは、敷地内へ入る時に見たものと同じタイプの門。

しかし、こちらの門は木製の扉で閉ざされており、丁寧に錠前まで掛けられていた。

ノーマン所長の部屋と違い鍵を差し込めば開く一般的なタイプだが、当然ながら僕たちは鍵など持っていない。

呼び出しベルも見当たらないし、どうしたものか……。

「……ん? 二人とも、あれを見てみろよ」

その時、周囲を見渡していたキヨマサが何か気になるものを見つけたらしく、僕とマーセディズを呼び止める。

彼が指差しているのは門柱と一体化した郵便受けだが、よく見ると投入口の上に貼り紙がしてあった。


御用の方は郵便受けに通行許可証をお入れ下さい -Regaliel-


「通行許可証か……よいしょっと」

貼り紙を読んだ僕は道具袋の中から通行許可証を取り出し、それを郵便受けに投入する。

しばらく待っていると魔力ロック式の錠前が解除され、固く閉ざされていた扉がゆっくりと開かれていく。

「これ、通行許可証を抜いたら閉まったりしないだろうな?」

「さあ? 確かめてみればいいんじゃないか?」

通行許可証の紛失を危惧するキヨマサに対し、なかなかに無責任な反応を示すマーセディズ。

「……ああ、そうさせてもらうぜ」

彼女の投げやりな態度をスルーしながら通行許可証を引き抜くキヨマサだったが、特に扉が閉まりそうな様子は見られない。

一度開いたらしばらくは閉じない仕様になっているのだろう。

確かに、勝手に閉じるような扉では使い勝手があまり良くないはずだ。

「ノーマン所長に感謝しねえとな、ジェレミー。彼が通行許可証をくれなかったら、ここで立ち往生していたからな」

通行許可証が無かったら、まずチェックポイントで立ち往生してたでしょ――心の中でそうツッコみつつ、僕とキヨマサとマーセディズは「ノウレッジ・パレス」の玄関を目指す。

僕たちが古城に向かって歩き始めた時、木製の扉はマギアの力で既に閉ざされていた。


 二重に亘る門を通過し、僕たちは最後の扉――「ノウレッジ・パレス」の玄関前へ辿り着く。

「ここも鍵が掛かっているのかな? まあ、とりあえずノックしてみるか……」

最低限のマナーとして在宅を確かめようとするマーセディズだったが、彼女がドアノッカーに触れた次の瞬間、ガチャリという音を立てながら古城の玄関扉が動いた。

スターシア王国は内開きの扉が主流なため、まさか開くとは思っていなかったマーセディズは前のめりになってしまう。

「なるほど……正式な通行許可証を持っている人間なら、今更身分確認をするまでも無いというわけか」

コケそうになりながらも何とか体勢を立て直し、鍵が開いていたことについて独自に分析するマーセディズ。

「……失礼します」

銀色の騎士を先頭に僕たちは古城の中へと足を踏み入れる。

「もっと埃っぽいかと思っていたが、キチンと掃除されているな」

キヨマサの言う通り、「ノウレッジ・パレス」の内部は外観からは想像できないほど綺麗に整えられていた。

床には落ち着いた色の絨毯が敷かれ、壁には傷を修繕したような痕跡が見受けられる。

何より、玄関ホールを照らすシャンデリアはつい最近取り付けられた物だ。

見てくれはアレだが、内装には相当拘っていることがよく分かった。


「さて……これだけの屋敷で特定の部屋を探し出すのは骨が折れる――ぞ?」

賢者の部屋を探すために歩き出そうとしたその時、マーセディズは今まで気付かなかった「あるもの」に目を奪われる。

彼女の視線の先にあるのは2階へと繋がる大階段――その中腹に一匹のモンスターがいたのだ。

「ネコー! ネコー!」

2本の細長い尻尾を持つモンスターは鳴き声を上げ、ついて来いと言わんばかりに大階段を駆け上がる。

白銀の体毛が美しい彼女(?)は時折こちらを振り向き、その度にゆっくりと尻尾を揺らしていた。

「2本の尻尾に特徴的な鳴き声――ネコヤンケか! まさか、レアモンスターを生きているうちに見れるとは……!」

希少な絶滅危惧種「ネコヤンケ」との邂逅(かいこう)に驚きつつも、彼女(?)が何かしらの意図を持っていると判断し、マーセディズは追い掛けるように2階へと上がっていく。

「ちょ、ちょっと待って!」

僕とキヨマサが息切れしながらも何とか追い付いた時、マーセディズは廊下を前に呆然と立ち尽くしていた。

銀色の騎士が廊下まで辿り着いた時、ネコヤンケは既にその姿を消していたのである。


「ネコー!」

だが、姿は見えずとも特徴的な鳴き声はしっかりと聞こえている。

この廊下のどこかにいることは間違い無い。

「そっちから来いというわけか――よし、こうなったら意地でも見つけて賢者の居場所を聞き出すぞ」

躍起になっているマーセディズに促され、僕たちは深紅の絨毯が敷き詰められた廊下を進んで行く。

「ネコー!」

鳴き声が徐々に大きくなり、白銀のモンスターは来賓を古城の奥へと(いざな)う。

そして、突き当たりを左へ曲がった僕たちが目の当たりにしたのは……?

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