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【34】BURGLAR -奪われたカタナ-

 ジェレミーたちがナイトホーク相手に大暴れしていた頃、マーセディズとキヨマサは営巣地で最も立派な巣穴――群れのリーダー「ブラックバード」の寝床へと近付いていく。

リーダーの巣穴の周りには誰もいないが、それが逆にマーセディズたちの不安を掻き立てていた。

「!? 姉さん……!?」

周囲を警戒しながら歩いていたその時、ブラックバードの巣穴の奥から女性の声が聞こえてくる。

「何だ……? 誰の声だ……!?」

彼女の声を聞いたキヨマサはすぐに武器を構え直すが、マーセディズはこの声に明確な心当たりがあった。


「……シャルル! 本当にシャルルなんだな!?」

声が聞こえる方向を振り向いたマーセディズの表情が一気に明るくなる。

その視線の先にはブラックバードの巣穴――そこからひょっこりと顔を覗かせる銀髪碧眼の少女がいた。

「(あの髪色に碧い瞳……そうか、彼女がマーセディズさんの妹か)」

キヨマサはマーセディズの妹――シャーロットのことについては存在以外全く知らなかったが、全体的な容姿から親族であることは一目で分かった。

「大丈夫か! 怪我はしてないか!?」

「ええ、擦り傷ぐらいだから……でも……」

シャーロットの様子を見たキヨマサはちょっとした違和感を抱く。

確かに、彼女は自己申告通り大きな怪我を負っているようには見えない。

体調面で特に問題が無いということは、それ以外の点で何か懸念を抱えていることになる。

「待ってろ、すぐに助け出してあげるからな!」

「!? ダメッ、姉さんッ! これは罠よ!」

自らの姿を見て駆け寄る姉をシャーロットは必死に止めようとしたが、残念ながら彼女の制止は少しだけ遅かった。

次の瞬間、マーセディズの足下からバチバチバチという音と共に小規模な爆発が発生し、銀色の騎士はそのまま倒れ込んでしまうのだった。


「ッ!? クラッカーボールだとッ!?」

爆発の瞬間を見たキヨマサは驚きを隠せなかったが、すぐに冷静さを取り戻しマーセディズが立ち上がるのを手伝う。

娯楽用の爆薬であるクラッカーボールは人殺しができるほどの火力は持っておらず、幸いにも彼女に怪我は無かった。

「クソッ、罠が仕掛けられているなんて聞いてない!」

誰かが仕掛けた卑劣な策へ憤りを露わにするマーセディズ。

普段冷静な彼女がここまで憤慨しているのを見る限り、相当腹が立っているのだろう。

「マーセディズさん、これはナイトホークの巧妙な罠かもしれないぜ」

「何だって?」

「おそらく、シャーロットさんを誰かが助けに来るのを見越してクラッカーボールを埋めていたのさ」

そう言うキヨマサもにわかには信じられなかったが、考え得る限り最も有力且つ現実的な説はこれしかない。

しかし、文明の利器である火薬を使用した道具を使いこなすとは……。

どうやら、人間が思っている以上にナイトホークは高い知能――そして、深い憎悪を抱ける感情を有しているようであった。


「キヨマサ、あれを見ろ!」

地中に埋められているクラッカーボールを除去していたその時、マーセディズが夜空を指し示しながら声を上げる。

彼女の視線の先にあるのは二つの黒い影。

今日は月明かりが無い新月なので大変分かり辛いが、確かに鳥のような影が真っ暗な夜空を滑空していた。

「あれもナイトホークなのか……?」

「武器を構えておけ、キヨマサッ! この距離でもプレッシャーを放ってくるモンスターだ……タダのナイトホークじゃないぞ!」

マーセディズの声音から事態の深刻さを察したキヨマサはすぐに烈火刀「ヨリヒメ」を構え直し、上空の様子を窺う。

「て、敵が来てるの……?」

「奥に隠れてくれ、シャーロットさん! 敵は俺とマーセディズさんでどうにかする!」

巣穴から顔を覗かせるシャーロットを引っ込めさせ、彼女を守るように配置に就くキヨマサ。

「シャルルのことは頼むぞ! ボクが前衛をやる!」

黒髪の少年へ後衛と妹の護衛を任せ、銀色の騎士は聖剣「ストライダー」を構えながら黒い影たちを睨みつけるのだった。


 二つの黒い影――ブラックバードとナイトホークは徐々に高度を落とし、巨大な翼を力強く羽ばたかせながらマーセディズたちの前へと降り立つ。

「ホホーゥ……!(ほほぅ、貴様らが我が同胞を(ほふ)った人間じゃな……!)」

「バーカッ……!(そうです、長老! こいつらが……!)」

黒鳥たちの威嚇に怯むことなく睨み返すマーセディズとキヨマサ。

モンスターと人間、先に行動を起こすのはどちらなのか……。

「ホーホーゥッ!!(我が灼熱のマギアを食らえぃッ!!)」

しばしの沈黙の(のち)、その静寂を破ったのはブラックバードの咆哮であった。

彼は自慢の鋭い嘴を大きく開き、魔力の集中により生み出した火炎弾を憎き人間へ向かって放つ。

「くッ、マギアを使うモンスターとは途轍もない大物だ!」

予備動作があったおかげで回避自体は容易だったが、地面を焼き尽くすほどの威力にマーセディズは思わず戦慄する。

マギアを扱える強力なモンスターの噂は聞いていたものの、まさかこれほどの力を秘めているとは……。


 マーセディズがブラックバードと一騎打ちを繰り広げる中、キヨマサは肉弾戦を仕掛けてくるナイトホークと激闘を展開していた。

「バーカッ!(武器に頼っている限り俺には勝てんぞ!)」

「チィッ、鳥のくせに良い立ち回りをしてやがる!」

キヨマサが使用する烈火刀「ヨリヒメ」は分厚い鉄板すら容易に切り裂くほどの切れ味を持っているが、ナイトホークは厳しい自然環境下で鍛え上げられた(あしゆび)で銀色の刃を受け流していたのだ。

また、獲物をガッチリと捕らえて放さない脚力も驚異的なものであり、キヨマサの腕力ではカタナを持っていかれないように抵抗するので精一杯だった。

「(クソッ、このままじゃ俺の腕が壊れる……!)」

瞬間的なパワーこそ拮抗していたものの、持久力勝負になってくるとさすがにキヨマサのほうが分が悪い。

「グアー!(疲れてきたようだな! この瞬間を待っていたのさ!)」

彼が腕の痛みを堪え切れなくなる頃合いを図り、一気に追い込みを掛けるナイトホーク。

次の瞬間、力比べに負けたキヨマサは両腕を守るため本能的にカタナの柄を手放してしまい、烈火刀「ヨリヒメ」はモンスターの手――いや、趾に堕ちてしまうのだった。


 人間の武器を奪い取ったナイトホークは器用に嘴へと咥え直し、本来の持ち主であるキヨマサに対して烈火刀を振るい始める。

「(もうそろそろだな……『ヨリヒメ』をそこら辺の市販品と一緒だと思うなよ)」

一番多用する武器を奪われるカタチとなったキヨマサだが、彼は傍から見ると不自然なほどに落ち着き払っていた。

謎の確信がどこから来るのかというと……。

「グ……グエー……!?(な、なんだ!? 魔力が身体を逆流してくる!?)」

その時、我が物顔で烈火刀を振るっていたナイトホークは突然苦しみ出し、嘴に咥えていた武器を落とす。

それを見たキヨマサは冷静沈着にカタナを拾い上げ、地面に倒れ悶え苦しむ黒鳥の眉間へ銀色の刃を突き付けた。

「バ……バーカ……!(い、命だけは助けてくれぇ……!)」

「烈火刀には盗難防止用のマギアが施してあったのさ。元々は武器狙いの盗賊に奪われないためのものだがな――」

残念だが、モンスターがいくら命乞いをしても人間には通じないのだ。


「――あばよ、泥棒鳥。自らの浅はかさはあの世で恥じることだ」

そして、こう吐き捨てながらキヨマサは烈火刀を「泥棒鳥」の頭頂部へ突き立てるのであった。

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