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【28】TURNING POINT -重要な証拠品-

 重々しい空気に包まれた森の中の進んで行く僕たち。

ただ湿度が高いだけではない。

何と言えばいいか……プレッシャーのようなモノがこの森には漂っている。

「ん? 何だこの木片は?」

その時、道に落ちていた木の板を拾い上げながらキヨマサが呟く。

歩きながら周囲をよく見渡すと、同じような木片が道沿いに多数散らばっているのが分かった。


「キヨマサ、ボクにもそれをよく見せてくれ」

「あ、ああ……」

半ば強引にキヨマサの手から木の板を取り上げ、じっくりと調べ始めるマーセディズ。

僕の足下にもそれらしき木片があったので、試しに手に取ってみる。

「(何の変哲も無い木材かなぁ……いや、周りに生えている木とは種類が違う気もするけど……)」

僕が何気無く拾った木の板は白色系のあまり色濃くない物だが、この森で自生している木はもっと暗めの色合いをしていた。

つまり、林道に散らばっている木片は自然の物ではない可能性が高い。

そもそも、複数の木材を接着した合板など自然界にあるわけがないのだ。


「ふむふむ……なるほどね……」

例の木の板を観察しつつ、何か思い当たりがあるのかマーセディズは一人頷いていた。

「やけに冴えているようだな、マーセディズ。遠征隊のヒントでも見つけたのか?」

道沿いに散乱している木片を見やりながら尋ねるキヨマサ。

やはり、加工された木材が無造作に散乱している状況は、誰の目から見ても不思議でならないらしい。

「この木の板、ボクたちが乗っていた帆馬車に使われている物と同じだな」

そう言われてみると、数時間前に横転して壊れた帆馬車も確かにこういう木材を使っていた気がする。

マーセディズは木の板のある部分を指し示し、皆に向かって詳しい説明を行うのだった。


「しかも、つい最近手入れされた痕跡がある。長らく放置されているのだとしたら、もっと腐敗していてもおかしくないはずだ」

適切に管理されていない木材が腐りやすいことぐらい、僕だって知っている。

その点を考慮に入れた場合、マーセディズが持っている木の板はあまりに綺麗すぎるのだ。

まるで、数日前にバーニッシュを塗り込んだかのような……。

「つまり、この辺りに散らばっている木片は遠征隊の馬車の残骸かもしれない――というわけか」

「ああ、あまり考えたくは無いけどね」

キヨマサから取り上げた木の板を返却し、首を横に振るマーセディズ。

僕たちが乗っていた帆馬車は横転だけで済んだが、それでも結構な量の残骸がばら撒かれていた。

この林道には数百メートルに亘って馬車の破片が散乱している。

おそらく、そうさせるだけの「何か」に襲われたのだろう。

もし、これらの破片が遠征隊の馬車の物だったとしたら……。


 そういえば、先ほどからずっと気になっていることがある。

「ガートルードさん、なんでマギアロッドを上に掲げているんですか?」

隊列の前の方にいるガートルードの行動が気になり、彼女へこう尋ねてみた。

きっと何か意味のある行動だとは思うのだが、マギアに詳しくない僕にはよく分からなかった。

「これ? これは魔力の流れを感知することで、周辺の様子を探っているのよ。生きとし生けるモノは必ず魔力を持っているからね」

そう言いながら丁寧且つ簡潔に説明してくれるガートルード。

彼女によると、この世界における生き死にの違いは「魔力を持っているか否か」にあるという。

人間もモンスターもファミリアも、命ある限りは常に魔力を放ち続けている。

これを何かしらの方法で感知すれば、周囲に生き物がいるのか判別することができる。

逆に言えば、魔力の喪失はこの世界においては死と同義なのだ。


「私が使っているマギアロッドは『アリアンロッド』という研究所指定の物で――」

ガートルードが自慢げにマギアロッドの説明をしていたその時、先端にはめ込まれた蒼い宝玉が強く輝き始める。

「ん? 何の光?」

「!? どうやら、私たち以外の人間の魔力を感知したみたいね……!」

すぐに宝玉の模様変化を確かめ、魔力の流れを探ろうとするガートルード。

マギアロッドに使用されている宝玉は魔力の存在を感知し、何かしらの反応を示す性質があるという。

前述したようにこの世界の生き物は必ず魔力を持っているので、宝玉を見れば少なくとも「周囲に何かがいる」ことぐらいは分かるらしい。

「どうして人間だって確信できるんですか?」

だが、それだけでは種族までは判別できないはずだ。

その点に疑問を抱き、僕は忘れないうちにガートルードへと質問するのだった。


「ああ、それはね……宝玉を少し調整して、人間の魔力に近いパターンの時だけ反応するよう弄っているのよ」

宝玉の模様を凝視しながらもガートルードはしっかりと答えてくれた。

しかし、今度は別の疑問が浮かび上がる。

……人間の魔力に「近い」パターンとはどういう意味だろうか?

「ジェレミー君は直立二足歩行のモンスターは見たことある? 結構レアなモンスターらしいんだけど」

「直立二足歩行ですか? 僕が知ってるモンスターはフォックスバットとナイトホークぐらいですよ」

質問に質問で返されて少々戸惑ったが、僕はとりあえず素直に答えておく。

本物を見たことがあるモンスターは前述の2種類とフォックスハウンドだけであり、それ以外の種族は書物で紹介されているものしか知らないのだ。

ちなみに、僕が読んでいた書物に直立二足歩行のモンスターは載っていなかった。


「世の中には私たちみたいに二本足で歩くモンスターがいて、不思議なことに彼らは私たちに近いパターンの魔力を発しているのよ」

「なるほど、モンスターって色んな種類があるんですね」

四足歩行の肉食獣型に飛行可能な鳥型、そして人間のように二足歩行を行うタイプまで――。

どうやら、マギアと同じぐらいモンスターも奥が深い存在らしい。

「……あー、二人とも会話に花を咲かせてるところ悪いんだけど……あれを見てくれ」

僕とガートルードが盛り上がっていた時、少し不機嫌そうな顔をしながらマーセディズが割り込んでくる。

別に彼女の機嫌を損ねた覚えは無いのだが。

「ねえ、ガートルードさん……あの馬車はまさか……」

「!? 宝玉の輝きが激しくなった……!?」

マーセディズが指し示す先を見ていたガートルードの表情がたちまち青ざめ、彼女は堪らずその方向へ走り出す。


 僕たち捜索隊の行く手には、無残なまでにバラバラにされた帆馬車の姿があったのだ。

そして、その周囲には更に衝撃的な光景が……。

【バーニッシュ】

木材の表面を保護するために用いられる塗料の一種で、現実世界では「ニス」とも呼ばれる。

バーニッシュ自体は極めて透明度が高く、光沢が生じる以外に見た目の変化は少ない。

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