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【EX5】LEGACY -友情の剣-

 スマートフォンでセットしておいたアラームが鳴り響いている……。

「(ん……もう朝か……)」

顔の上に乗っかっている本を払い除け、アラームを止めながらスマートフォンに表示されている時刻を確認するアスカ。

現在時刻は午前7時22分。

普通ならば起きている時間だ。

「アスカちゃん、起きてる? 朝ご飯ができているわよ」

朝が早い老夫婦は既に起床しているのか、奥さんのフランシスは1階から朝食の準備ができていることを教えてくれる。

「あ……起きてます! 着替えたら降りますから……!」

それを聞いたアスカはドアを開けながらそう返答し、スーツケースの中から着替えを取り出すのであった。

「(読書に夢中になって寝落ちするなんて……年甲斐も無いわね)」


 着替え終わったアスカは1階へ降りると、老夫婦のジェレミー及びフランシスと共に朝食へありつく。

献立はトマトとマッシュルームのソテー、ベーコンエッグ、ベイクドビーンズ、ソーセージ、ブラックプティング、スコーン、魚の燻製といったイギリス式のフル・ブレックファストだ。

世界的に「食事の均一化」が進んでいる中、こういった伝統的な食事を守っている家庭はなかなか見られない。

「アスカ、昨晩はよく眠れたかい?」

「ええ、よく眠れました」

「今日は少し余分に作っておいたから、たくさん食べてもいいのよ」

「あ、ありがとうございます……」

まるで実の娘のように接してくれるジェレミーやフランシスと会話を交わしつつ、数年ぶりに他の人たちと食卓を囲むアスカ。

彼女は単身渡英してからは一人で黙々と勉学に励んでいたため、こうやって食事を楽しむのは母国日本で暮らしていた時以来であった。

「そうだ、食事が終わったら君に渡したい物があるんだ。後で君の部屋まで持って行くよ」

食事を終え食後のティータイムを楽しんでいると、ジェレミーはアスカに対して突然「渡したい物がある」と話を切り出す。

「いえ、私が下の階で待っておきますから。ちょうど新聞を読みたいと思っていたので」

しかし、老人に階段の上り下りを強いたくなかったアスカは申し入れを断り、食器を片付けると客間へ移動し今朝届けられた朝刊を読み始める。

「偉いわねぇ、今時私たちみたいな年寄りでも新聞はあまり手に取らないのに」

その様子を見たフランシスは感心しながら食器洗いに取り掛かるのだった。


「(ロクなニュースが載ってない……これだからマスメディアは)」

しょうもないゴシップ記事ばかりが掲載された大衆紙をテーブル上に置き、天井を見上げながら一息つくアスカ。

「待たせたね」

「ああ……大丈夫です」

しばらく待っていると小箱を手に持ったジェレミーが現れ、彼はその小箱をテーブルの中央に置くとアスカの向かい側のソファーに腰を下ろす。

「ところで、突然だけど君は刀剣類には興味があるかね?」

「無くはないです」

ジェレミーの突然すぎる質問にアスカは何の捻りも無い答えを返す。

日本人の血を半分引いている彼女は侍や武士道には多少興味が有るものの、資料を読み漁るほどのマニアというわけではない。

「そうか……あまり興味無さそうだね。まあいい、いずれは信頼できる若者に託そうと思っていた」

あまりにも率直な返答に苦笑いしつつ、小箱を開けて中身を見せるジェレミー。

「侍の……短刀?」

「これは僕が異世界から帰ってきた時、唯一こちらへ持ち帰ることができた物だよ」

そこには日本刀に関する博物館に展示されていても不思議ではない、長さ一尺程度の小さな刀らしき武器が収められていた。


「私は刀剣類の専門家ではありません。この剣を本物とも偽物とも断言することはできません」

それを見てもアスカには剣の価値が判断できず、相応しい扱いはできないかもしれないと述べる。

真贋(しんがん)は関係無いんだ。ただ……君がこれを託すに相応しい相手だと直感的に思ったのだよ」

だが、そう忠告されたジェレミーはあくまでも「直感的に相応しいと感じた」と語り、昨日出会ったばかりの若者へ大切な宝物を託したいという意志を変えない。

「直感ですか……それだけの理由で私に大切な宝物を渡していいんですか?」

「フッ、これをくれた親友と雰囲気が似ているのさ。君を見ていると彼のことを思い出す」

「はぁ……」

君はかつての親友に似ている――。

そう言われても「親友」のことを全く知らないので、適当に返事をして茶を濁すしかないアスカ。

「彼も僕と同じだったのだよ。彼は異世界に残り現地住民として生きることを選んだが、別れ際に『友情の剣』として渡してくれたのがこれなんだ」

しかし、この発言を聞いたことで彼女は自らの考えを明確にする。

生き別れになった親友から託されたという『友情の剣』――。

「だったら尚更……友情の証ならば、そう簡単に手放してはダメでしょう!」

そんな大切な物を貰うわけにはいかないと感じたからであった。


「彼――本田 清正は日本で生まれ育ち、異世界スターシアで『キヨマサ』として新たな人生を得た。だが、その選択は『本田 清正』という人間の死でもあった」

珍しく語気を荒げるアスカを冷静にいなしつつ、「友情の剣」を渡してくれた親友の出自を説明するジェレミー。

「日本人の血が流れている君に『本田 清正』という男が存在した証を受け継いでほしい。押し付けるようで悪いのだがね」

だからこそ、彼はアスカに宝物を託すべきだと確信したのだ。

本田 清正と同じ日本人の魂を持つ彼女ならば、それを正しいカタチで大切に守ってくれるだろう――と。

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