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【142】SURPRISE -意外な人物-

 賢者レガリエルの転移マギア「スキマー」でアーカディア郊外へ移動した僕たちの目の前に現れたのは、シャーロットが療養中だという小さな診療所。

「ここがアーカディア……」

予定通りアーカディアに辿り着いたマーセディズやキヨマサと異なり、色々なことがあった僕にとっては初めて訪れる町だ。

「そうだ。本来はお前とここで落ち合い、更に北にあるカクリコンという村から『空の柱』へ向かう予定だったんだが……」

ここが妹を託した場所で間違い無いと判断したマーセディズは装備を外し、始業準備中の診療所の玄関扉に手を添える。

「ボクはシャルルに事情を話してくる。5~6分で済ませるから少しだけ待っていてくれ」

「ええ、気を付けて」

この5~6分間は彼女の個人的な事情だ。

僕たちはそれが終わるまで待ち続けるしかない。

「さて、それまで私たちは姿を消して待っておきましょうか」

既に朝日は昇り始めている。

朝早い人々が活動し始める時間帯である以上、人目に付くことを警戒するレガリエルの懸念は正しい。

「おいおい賢者様、この辺りに隠れられる路地は無いぜ?」

しかし、イレインが指摘しているように近くに息を潜められそうな暗い路地は存在しない。

「大丈夫、マギアで姿を消してしまえば関係無いわ」

隠れる場所が無いのなら、自分たちの姿を見えないようにすればいい――。

「霧中に混じれ……『ミクスレスト』」

逆転の発想に至ったレガリエルが謎のマギアを詠唱すると、アーカディアの町は季節外れの白い濃霧に覆われていくのだった。


「し、失礼します……」

マーセディズが挨拶しながら診療所の待合室へ足を踏み入れると、奥の方から人の足音が近付いてくる。

「おはようございます、今の時間帯は急患しか受け入れ――ってマーセディズさん!?」

彼女を出迎えてくれたのは見覚えのある人物――マギ研遠征隊捜索やロイヤル・バトルの時に行動を共にしたルシールであった。

「ルシールじゃないか! どうしてここに!?」

「どうしてって……ここ、私の実家なんですけど」

予想外の再会に驚いているマーセディズに対し、実家へ帰省していることがそんなに不思議なのかと怪訝そうに答えるルシール。

「ん? ということは……」

ここでマーセディズは一つの事実に気付く。

ルシールの実家とはつまり、シャーロットの治療を任せている医者ヒューゴーが切り盛りする診療所のことである。

「おい、静かにしろ。騒がしいと患者が起きるだろ――ってマーセディズ!?」

険しい表情を浮かべながら待合室に姿を現し、先ほどのルシールと全く同じリアクションをしているこの青年の名はヒューゴー。

「あ、紹介するわね。この人は私の兄のヒューゴー。見て分かる通り医者をやっているわ」

知り合いと兄が初対面だと思っているのか、マーセディズに自慢の兄を紹介するルシール。

「ああ……彼のことはよく知っているよ」

世界は意外に狭いものだな――。

さすがのマーセディズもこの状況には苦笑いするしかなかった。


「それにしても驚いたわ。お兄ちゃ――兄さんとマーセディズさんが顔見知りだったなんて」

「ああ、3年前に彼を助けたことがあってな。それ以来救助者の受け入れ先として度々世話になっている」

自らとヒューゴーの関係に驚くルシールに対し、マーセディズは交友関係が生まれた理由について簡潔に説明する。

「妹さんの意識が回復したから一度デンショサードを飛ばしたんだが、その時は君たちを見つけられなくて戻ってきたんだ」

彼女たちを再び引き合わせるキッカケとなったヒューゴーはマーセディズに連絡を試みたものの、その時は上手くいかなかったらしい。

タイミング的に考えてマーセディズはヴァル・ログ神殿にいたはずであり、それが連絡に失敗した理由と見て間違い無い。

「シャルルの容態はどうなんだ?」

「身体面については何ら問題無いよ。もう少し療養すれば仕事復帰できるだろう。ただ……」

シャーロットの容態について尋ねられたヒューゴーは前向きな答えを示すが、「身体面は」という注釈付きで言葉を詰まらせる。

その理由は……。


「ただ?」

「精神面のコンディションに関しては不調みたいだ。僕やルシールが理由を尋ねても曖昧な答えしか返してくれない」

怪訝な表情を浮かべるマーセディズに対し、身体の怪我は癒えても心に何か問題があるのかもしれないと語るヒューゴー。

マーセディズは妹に何があったのかを本人やキヨマサから聞いており、精神面が不調な原因について察しが付いていた。

「……」

「何か心当たりがあるみたいね、マーセディズ?」

彼女が考え込む姿を見たルシールもそれに気付いたらしく、自分たちにも教えてほしいと優しく声を掛ける。

「ここから先はボクたち姉妹の問題だ。君たちは外で待っていてくれないか?」

しかし、当のマーセディズはあくまでも「姉妹間で解決すべき問題」だと主張し、医者兄妹には病室の外で待っておくよう伝える。

「……分かった。ただし手短にな」

同じ「妹を持つ者」であるヒューゴーは彼女の意思を尊重することを決め、そう答えながらシャーロットがいる病室のドアをノックするのであった。

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