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【140】NEW WEPON -新たな剣、新たな盾-

「オレ様は……今はこの剣があるから新しい武器は必要無いかな」

即席の鞘に収めている「無名剣」の柄に右手を置き、目の前にある武具の山から視線を逸らすイレイン。

貴重な武具の数々は彼女にとっても十分魅力的な物ばかりだが、それだけでは「無名剣」から乗り換える理由にはならなかった。

「あなたが持っているその剣、前々から気になっていたんだけど……」

複雑な事情を持つ「無名剣」は賢者にとっても興味深い対象なのか、以前から気にしていたと語るレガリエルはこのタイミングで初めて「無名剣」について言及する。

「ああ、これですか? こいつは――」

「言わなくても分かるわ。それには人間の魂が込められている、言うなれば持ち主に合わせて力を高めていく『生きている剣』とも表現できるわね」

しかし、それに気付いたイレインがせっかく説明しようとしたにもかかわらず、レガリエルはそのお株を奪うように「無名剣」が持っている性質を解説し始める。

「その剣はあなた次第で聖剣にも魔剣にもなる。どちらに成長するかは断言できないけど、一生モノとして大切にすればいつかきっと報われるはずよ」

宝物庫に眠っているあらゆる武具よりも強くなる可能性を秘めた特別な剣――。

レガリエルが「無名剣」を大切に使い続けることを勧めると、イレインは胸を張りながら次のように答えるのであった。

「へッ、賢者様に言われるまでも無い……! オレ様にはこの剣に拘る理由があるからな」


「アタシも武器には興味無いね。基本的にいつも足技で戦っているし」

そう語るイーディスの武器は比類無き脚力による華麗な足技――端的に言えば自分の肉体だ。

僕は居合わせていなかったが、キヨマサは彼女の技のせいで酷い目に遭ったことがあるらしい。

「そういえば、使い方が分からなくて宝物庫の奥にしまっていた『変わった武器』があったわねぇ……」

イーディスの考えとは裏腹にレガリエルは彼女にも武器を授けたいらしく、わざとらしい演技をしながら宝物庫の奥へと足を踏み入れる。

「これなんだけど……もしかしたらあなたなら使いこなせる武器かもしれないわ」

賢者にすら「変わった武器」と言わしめるそれの正体は、小さな子どもたちの遊び道具であるボールをスケールアップしたかのような金属製の球体であった。

「何じゃこりゃ? 球遊びで使うボールかよ?」

武器として扱うには(いささ)か非力そうな金の球を渡され、特に期待すること無くリフティングで「変わった武器」の感触を確かめるイーディス。

「なるほど……趣味の悪いゴールデンボールかと思いきや、意外なほど足に馴染むな……」

悪目立ちする金色の外見はハッキリ言って気に入らないが、武器としては案外使い道があるかもしれない。

「賢者様、アタシはこのボールでどこまで行けるかやってみるよ。ここで朽ち果てるぐらいなら、どんなカタチであれ使われたほうがこいつにとっても幸せだろ?」

そう考えた彼女はおふざけで作られたとしか思えないゴールデンボール――蹴球(しゅうきゅう)「スフィア」をあえて選び、この武器を何としてでも使いこなしてみせることを心に決めるのだった。


「賢者様、こういう感じの……刀身に反りが入ったタイプの剣とかは無いのか?」

キヨマサはマーセディズと同じ剣士系であるが、彼女と異なり「カタナ」と呼ばれる刀身に反りが入った物を愛用している。

参考資料として差し出した烈火刀「ヨリヒメ」もまた、刺突ではなく斬撃に特化した典型的なカタナであった。

「それは東洋風の……少し待っていてちょうだい」

烈火刀を一目見たレガリエルは似たような武器が宝物庫に眠っていることを思い出し、たまたま足元に放置されていた鞘を拾い上げる。

「これは菊水刀『トヨヒメ』。あなたが持っているそのカタナと対になり得る、水の力を持った妖刀よ。炎属性が得意なあなたとは相性が良くないかもしれないけど……」

ヨリヒメは異国の職人の手で作られた「究極のカタナ」にすぎない一方、トヨヒメはいつ誰が作ったのかさえ分からない「謎のカタナ」である。

その出自や得意属性があまりに対照的なことから、同時に扱っても互いの足を引っ張りそうなだけだが……。

「炎と水……一見すると相性は最悪だが、上手く調和できれば途轍も無い力を生み出せるかもしれない」

しかし、長年カタナを愛用してきたキヨマサは目の前の菊水刀が秘めている可能性を感じ取り、賢者の忠告を考慮したうえでこの武器を新たに得物とすることを決める。

「ここで出会えたのは運命だったのかもしれないな。こいつが秘めている力……必ず引き出してみせる」

烈火刀「ヨリヒメ」と菊水刀「トヨヒメ」――。

二振りの行く末は固い絆で結ばれた姉妹か、それともいがみ合う双子になるのか……。


「賢者様、この宝物庫に盾はありませんか?」

強力な聖剣「ストライダー」を所有しているマーセディズに新たな武器は必要無い。

「あら? そういえば前に来た時は持っていた魔盾(まじゅん)はどうしたの?」

「ええ、邪神との戦いで攻撃を受け止めた時に壊れてしまって……」

ただし、聖剣とセットで使用していた魔盾「ラーズグリーズ」は魔神アラヴィアータの攻撃で壊れてしまったため、彼女はそれに代わる新たな盾が欲しいと考えていた。

「……あれの封印が甘かったのはひとえに私の責任。いいでしょう、あなたに魔盾に代わる新たな盾を授けましょう」

事情を聞き入れたレガリエルは再び宝物庫の奥へと足を運び、そこから引っ張り出してきた銀色の盾をマーセディズに手渡す。

「それは神盾(しんじゅん)『スヴァリン』。北の大陸の言葉で『冷やすもの』という意味を持つ、マギアの反射と放出が可能な盾よ」

「(軽さと強度を両立しているのか……神盾の異名は伊達では無さそうだな)」

賢者から神の盾を受け取ったマーセディズは初めて触った時点で良い感触を抱き、この盾ならば安心して命を預けられると確信するのであった。

「ありがとうございます。この盾は壊さないよう大切に使わせていただきます」


 これで全員の装備は一通り強化されたはずだ。

……本音を言うと僕も新しい武器が欲しいのだが、不思議なことに宝物庫には弓矢らしき武器は一つも見当たらなかった。

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