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【138】AWAKENINGⅡ -強大な力の扱い方-

 当然ながら僕だけが「洗礼」で強くなっても不公平なので、マーセディズやキヨマサも同じ儀式を受けなければならない。

「クソッ、鼻の中が熱っぽくて気持ち悪いんだが……」

僕が儀式を受けていた時の光景を散々笑っていたキヨマサも鼻から例のオーラを吸うハメになり、無事に戻ってきた彼は不快そうに鼻の上の方を揉んでいる。

「でも、心なしか身体が軽くなったでしょ?」

「ああ……お前が突然強くなった理由が少し分かった気がするぜ」

しかし、鼻以外の調子はすこぶる良いようだ。

マギアの試し撃ちをしたくてウズウズしているあたり、今のキヨマサは調子が良すぎてテンションがおかしいらしい。

「見ろよ、魔力をギリギリまで絞った状態でもこれだけの火の玉が……ってあっつッ!?」

魔力で作り出した火の玉で火傷しそうになっている彼は放っておくとして、僕は「洗礼」を受けている最中のマーセディズの方へ視線を移す。

さすがと言うべきか、たとえ鼻からオーラを吸わされる状態でも彼女は全く動じていなかった。


「……」

無事に儀式を終えたマーセディズは静かに魔法陣の中心部から離れ、僕たちの所へと戻ってくる。

「あの……マーセディズさん?」

「くしゅんッ!」

あまりに無口なので心配になって声を掛けると、彼女は可愛らしいくしゃみでそれに答える。

これ自体は生理現象なので別に気にしていないが、マーセディズがそういうくしゃみをするのは少々意外であった。

「すまない、鼻の奥が変な感じでな……だが、もう大丈夫だ。今のくしゃみでスッキリしたよ」

よかった、単に鼻の調子が少し悪かっただけのようだ。

「ところで、今の『洗礼』であんたも強くなったんだろ? その成果を少しだけでいいから見せてくれないか?」

さっきの火の玉で危うく火傷しそうになったことを懲りていないのか、銀色の騎士に対し「洗礼の成果が見たい」と要求し始めるキヨマサ。

これはこれで力に呑み込まれている気もするが……賢者レガリエルが何も言わないということは、少なくとも彼女は心配していないという証拠なのだろう。

「そうだな……まずは小手調べといこうか」

キヨマサの好奇心旺盛な言動を咎めることはせず、彼の要望に応えるカタチで簡単な氷属性マギアを放つマーセディズ。

しかし、元々強い魔力を持つ彼女の一撃は少し強すぎたようで……。


 マーセディズが指先から何気無く放った氷の塊は着弾点の周囲を凍結させる効果を持つ。

それ自体は今までと変わらないのだが、問題は従来よりも魔力が桁違いに上がっていることだ。

「うおッ!? テメェ、アタシを氷漬けにするつもりかよ!?」

氷の塊は着弾点の前方を一気に凍らせただけでなく、その直線上にたまたま立っていたイーディスの足元まで巻き添えに凍結してしまう。

今の試し撃ちのせいで(すね)の辺りまで魔力の氷に覆われたため、それが融けない限り彼女は下半身の身動きが取れない事態になってしまった。

「む……いや、申し訳ない。まさかそこまで強化されているとは思っていなくてな」

一歩間違えれば重大事故に繋がる恐れがあったミスについて謝罪すると、マーセディズはキヨマサに対し氷の除去を手伝うよう頼み込む。

「『目には目を、歯には歯を』と言うが……氷には炎をぶつけるのが一番良い。キヨマサ、彼女を縛っている氷を溶かしてやってくれないか?」

「ああ、お安い御用だ」

それを受けた黒髪の少年は手の平から真っ赤な火の玉を生成し、悪戦苦闘しているイーディスの足元に狙いを定める。

「あ、おい待てッ! そんなモノに当たったら黒焦げになるだろうが!」

明らかにビビっている金髪のメガネ美人をよそにキヨマサは魔力の炎を投げつけ、彼女を縛っていた氷を無理矢理融かしてあげるのだった。


 そうこうしているうちにイレインも「洗礼」を終え、魔法陣の中心部から歩いて戻ってくる。

「ふむ……悪くない感じだな。試しに弱めのマギアを使ってみてもいいか?」

「止めておきなさい。あなた、得意属性は大地属性でしょう? ここで迂闊に放ったら建物が崩壊するかもしれないわよ」

引き出された潜在能力を持て余している彼女が試し撃ちについて尋ねると、レガリエルは首を横に振りながらそれだけは止めるよう忠告する。

ヴァル・ログ神殿での戦いの時、イレインは周囲の地形を一変させるほど強力なマギアを使用していた。

それを超えるマギアともなれば建物に与える影響も相当大きいのだろう。

「とにかく、試し撃ちは外の安全な場所でしなさいな……さあ、さっきから騒がしかったみたいだけど『洗礼』を受ける準備はできたのかしら?」

儀式を終えたイレインには待機するよう伝え、冷たかったり熱かったりで騒がしいイーディスを「洗礼」のために呼び寄せるレガリエル。

まだ幼い万引きシスターズは残念ながら儀式の負担に耐えられないと判断されたため、洗礼を授かることができる人物はイーディスが最後であった。


「お疲れ様。あなた、なかなかに個性的な能力の持ち主みたいね」

イーディスへの「洗礼」も無事に終了したが、彼女に対しレガリエルは僕たちには無かった言葉を掛ける。

「そうかい? アタシは自分を特別な人間だと思ったことは無いんだけどさ」

「いえ、毒属性にあそこまで適性を見せる人間はそうそういないわよ。貴重なアイデンティティは大切にすることね」

そういえば、イーディスの「洗礼」の時だけはなぜか紫色の毒々しいオーラが混じっていた気がする。

あれが毒属性のオーラ――賢者をして「個性的な能力」と言わしめたモノなのだろうか。

「それと、あなたほどの力を持つ者の毒属性マギアは本来人間の手に余る危険なモノです。扱い方を誤れば破滅的な結果を招く恐れもあるから、詠唱はこれまで以上に慎重を期すように……いいわね?」

強化された魔力に関する注意自体は僕たちも受けている。

しかし、イーディスに対するそれには「人間の手に余る」「破滅的」といった不穏な単語が含まれていた。

レガリエルが表情を引き締め、普段とは異なる賢者らしい口調で説明していることからもその危険性が窺い知れる。

「みんなお疲れ様。これで子どもたち以外は無事に潜在能力を引き出されたわね。この子たちは少し不満かもしれないけど……」

慰めるように万引きシスターズの頭を撫でつつ、全ての儀式が終わったことを伝えるレガリエル。

今後の戦いにおいて助けとなるであろう新たな力を獲得し、これでようやく旅路に戻れるかと思われたが……。

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