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【137】AWAKENING -解き放たれる力-

「さて……『洗礼』は複数人同時には行えないから、一人ずつになるけど……順番について要望はあるかしら?」

床に描かれている魔法陣を修正しながらこう尋ねてくる賢者レガリエル。

しかし、「洗礼」がどういうものなのか分からない僕たちには答えようが無い。

誰かが先に受ける姿を見て、それで何事も無ければ安心して臨める気もするが……。

「……要望が無ければこちらで決めさせてもらうわね。ええっと、まずは久々に儀式を執り行うから準備運動をしないといけないわ」

いくら博識な賢者といえど準備運動は必要らしい。

「(前から思ってたけど、この人って世俗的だよなぁ……本当に大丈夫か?)」

僕たちの頭の中に一抹の不安が浮かぶ中、こちらの姿を見渡していたレガリエルの視線がピタリと止まる。

「……え、僕ですか?」

その視線は明らかに僕の方へと向けられていた。


「あなた、今『こいつ賢者のくせに準備運動とか必要なのかよ(笑)』って思ったでしょう?」

「お、思ってない……です」

おかしいな、知らないうちに頭の中を読まれていたようだ。

「嘘を言わないの。ちょっと誇張表現だったかもしれないけど、似たようなことを考えていたのは分かるんだから」

「は、はぁ……」

そう指摘するレガリエルは別に怒っているわけではないものの、今の遣り取りのせいで準備運動の「犠牲者」が僕になることはほぼ決まってしまった。

周囲が笑いを堪えている様子が少しムカつくが……こうなってしまったら仕方がない。

どうせ「洗礼」は全員授からなければならないのだから、順番が少し早くなったと前向きに捉えよう。

「それじゃあ、魔法陣の中心部まで移動してちょうだい。儀式中はそこから動かないように」

レガリエルからの指示に従い巨大な魔法陣の中心へと移動し、僕はそこで儀式の開始を待つ。

洗礼を授かった先に何が待っているのか――。

僕の心の中では期待と不安が入り混じっていた。


 賢者の指示通り魔法陣の中心に立つと、それを確認した彼女はやはり僕たちには聞き取れない言語で呪文を唱え始める。

「****、****……***********!」

その直後、魔法陣の外縁部に配置されているマジックアイテムらしき物体が呪文に反応し、色とりどりの煙のようなオーラを発生させる。

これらのオーラは色を見る限りマギアの属性に対応しているようだ。

「****……!」

レガリエルが力強い口調で何かを叫んだ次の瞬間、7色のオーラが一斉に僕の方へと向かってくる。

「う、うわぁッ!?」

反射的に身体が動くよりも先に7色のオーラに包み込まれ、それらは主に鼻の穴から僕の中に入ってこようとする。

澄んだ空気と湿った土、そして綺麗な水と生い茂る草花の匂い。

炎のような温かさと氷のような冷たさ。

あと、雷属性マギアに触れた後のように鼻の中がピリピリしている――ような気がした。

とはいえ、初めて鼻うがいをやらされているかのような不快感はすぐに消え去り、むしろスッキリとした感覚が広がり始める。

身体も少し軽くなったような気がするが……本当に今のが「洗礼」だったのだろうか?


「え……?」

「おい、鼻うがいみたいになってたけど大丈夫か? 外から見てたら完全にマヌケな光景だったぜ」

もっとド派手な儀式を想像していたマーセディズは肩透かしを食らい、キヨマサに至っては明らかに噴き出しそうになっていた。

期待と不安が入り混じった状態で「洗礼」に臨んだのに、これじゃあまるで笑われるために出てきたみたいじゃないか。

「お疲れ様。これであなたは潜在能力を解放され、より強力なマギアを扱えるようになったはずよ。試しに魔力を絞った状態で初級マギアを放ってみたらどうかしら?」

顔をしかめながら賢者レガリエルの方を振り向くと、彼女はいつも通りの穏やかな表情で僕にマギアの試し撃ちをしてみろと促す。

「はあ……ええっと、『ソニックブーン』!」

いつもと同じ感覚で魔力を両手に集中させ、僕は風属性マギア「ソニックブーン」を放つため握り拳を振るう。

一応、当たってもそよ風程度で済む威力に抑えていたつもりだったが……。

「おおっと!?」

予想以上の反動で吹き飛ばされそうになった僕は咄嗟に後ろ足でバランスを取り、転倒しないよう身体を支える。

風の刃は壁に当たったことで消滅したが、その際に生じた余波は僕たちの所まで届くほど凄まじかった。


「(今のが魔力を絞った状態でのソニックブーンだって? マギアバングルを発動させた時ほどじゃないけど、それでも普段の全力並みの威力は出ていたぞ!)」

これが「洗礼」がもたらした力なのだろうか。

いつもなら体力を削るほど魔力を消費しないと出せない一撃が、今回は少し力を入れただけで簡単に繰り出せてしまった。

もし、この状態で命を引き換えに大技を放ったとしたら……。

「おめでとう、『洗礼』は上手くいったみたいね。今のあなたは魔力の限界が大きく引き上げられているから、その分だけマギアに大量の魔力を流し込めるようになっているの。鍛練を積めばより強大な上級マギアを扱うこともできるでしょう」

試し撃ちの様子を見守っていたレガリエルはパチパチパチと手を叩き、見事試練を乗り越えた僕に改めて「洗礼」の成功を伝える。

「もちろん、そのレベルの魔力になると暴走したら手に負えない事態を招く可能性もあり得る。自らの力を過度に恐れたりせず、そして驕り高ぶること無く振るいなさい。必要な時に必要な分だけ扱うこと――さすれば、その力はあなたを守り未来を切り拓いてくれるはずよ」

そして、彼女は一番大切なこと――「洗礼」で引き出された力の正しい扱い方を説いてくれるのであった。

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