表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/150

【135】PINCER ATTACK -本当の敵-

 彼ら――。

レガリエルによると「彼ら」なる者が僕のような異界人を排除しようとしているらしい。

おそらく、ロイヤル・バトルの時に僕を拘束しようとした秘密警察「シュタージ」のことを指しているのだろう。

「誰なんです? 『彼ら』って」

「シュタージ……あるいは特殊業務課のどちらか。いや、普段はいがみ合っている両組織が珍しく協力関係を結び、今回の事件に関与しているのかもしれない」

やはり、ロイヤル・バトルの一件やキヨマサ暗殺未遂事件にはシュタージが絡んでいるらしい。

しかし……レガリエルが名前を挙げた「特殊業務課」という組織は聞いたことが無い。

この世界で生まれ育ち、裏社会についても詳しいはずのイレインですら首を傾げている。

「シュタージは知っているわね? 治安維持という名目で不穏分子を粛清している連中よ」

レガリエルから「シュタージを知っているか」と聞かれた僕たちは力強く頷き、彼らに対する不満を一言二言漏らす。

シュタージの悪名高さは一般レベルにまで浸透しているようだ。

「ちなみに、『特殊業務課』という名前を聞いたことがある人はいるかしら?」

逆に「特殊業務課は知っているか」という質問に対しては誰も答えられず、頭の上に?マークを浮かべる有り様であった。


「……当然ね、特殊業務課は王室の組織図には載っていない部署だもの」

組織図には一切記載されない、公には「存在しない」とされている部署――。

どうやら、レガリエルは一般知識のみならず国家機密にも精通しているらしい。

「んで、その特殊業務課とやらは何をしている連中なんだい?」

落ち着きを取り戻したイーディスは自分の席に戻り、グラスに注がれた水を飲みながらこう尋ねる。

「そうね……基本的にはシュタージと同じく不穏分子の監視や排除を目的としているのだけれど、シュタージは公に存在する組織である以上、行動を起こす時には何かしらの大義名分を必要としているわ」

先ほど不平不満の嵐が巻き起こったことからも分かる通り、シュタージはスターシア人の誰もが知っている組織だ。

裏を返せばその存在を知られているからこそ、権限を越えた極端な活動を行うことは難しいと言える。

「それに対して特殊業務課は業務内容こそよく似ているけど、指揮系統では王室に直属しているわ。つまり、王室関係者の誰かが命令を下せば面倒な手続きを踏むこと無く行動に移れるというわけよ」

一方、特殊業務課は王室直属の秘密組織であるため、指示を実行するためならばあらゆる手段を用いることが許されているのだ。

公にバレるとマズい痕跡は徹底的に隠蔽され、何事も無かったかのように処理されていると考えられる。

だが……どうしても納得のいかないことがある。

スターシア王国の王室はなぜ僕たちを不穏分子だと判断したのだろうか?


「賢者さま、一つ質問がありまーす」

「うん? 何かしら?」

次に質問の許可を求めるため手を挙げたのは、意外なことに万引きシスターズの妹ソフィであった。

年端もいかない彼女には難しい話だと思っていたが、質問が思いつく程度には内容を理解していたらしい。

「シュタージや特殊なんとかって人たちは、どうしてジェレミーたちを狙っているんですか? あと、それと私たちにはどういう関係があるんですか?」

「フフッ、良い質問ね。まずは一つ目の疑問に対する答えだけど……」

ソフィが提示した二つの疑問に答えるため、席から立ち上がり部屋を歩き回りながら返答内容を考えるレガリエル。

「権力者――つまり王室から様々なカタチで『支援』を受けているシュタージは、支援者の意向に沿った行動を取ることでそれに応えている。支援者が『異界人を排除せよ』と命令したら、自分たちの権力を維持するためには協力せざるを得ないのよ」

「なんとか業務課のほうは?」

「特殊業務課は王室直属の秘密組織。命令権を有する関係者が『異界人を排除せよ』と指示したら、それを忠実に遂行しなければならない」

結局のところ、自己保身のためには上からの命令に従うしかない――。

そこに確固たる信念など無いというのが「一つ目の疑問」に対する答えだった。


「偉い人の言うことを聞かないといけない――それは分かったわね?」

自分の席へと戻ってきたレガリエルはグラスの中の水を飲み干すが、彼女は席に座ること無く部屋を歩き回り続ける。

「今の王家は異界人を敵視しているけど、一般人は必ずしもそうではない。その証拠にあなたたちはジェレミーたちに協力しているでしょう?」

「ま……偉い連中に振り回されたから、そのお詫びってヤツだ」

レガリエルからの指摘に対し、明後日の方向を向きながら照れ隠しにこう答えるイレイン。

「そう、異界人に協力者がいると彼らにとっては厄介なのよ。事実、ロイヤル・バトルの予選大会でジェレミーの拘束未遂事件に居合わせた観客たちは、試合が終わった後シュタージの本部へ抗議のために押し寄せたのよ」

確かに、あの時の試合の熱狂ぶりは凄まじかったが、まさか逃避行の最中にそんなことになっていたとは……。

「本当はジェレミーを連行して秘密裏に処刑するつもりだったのに、彼の逃亡を許したせいで一連の出来事が広く露呈してしまった。だから、国王陛下は全ての関係者と観客に異例とも言える箝口令(かんこうれい)を敷いた。もし、それを破って体制側に不利な発言をした者は……」

そして、レガリエルは「二つ目の疑問」に答えとして衝撃的な事実を告げるのであった。

「……最近、リリーフィールドで行方不明者が続出しているらしいの。奇妙な話よね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ