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【EX1】MR.McLAREN -マクラーレン先生-

 西暦207X年10月、ここはイギリス・イングランドの地方都市スティーブニッジ。

ロンドンから列車で25分ほどの場所にある、イギリス初のニュータウンとして歴史に残る町だ。

今、スティーブニッジ唯一の駅に一人の女子大生が降り立った。

「(ここがあの『マクラーレン先生』が住んでいる町……こう言っちゃ悪いけど、随分と田舎ね)」

彼女の名はアスカ・ウィリアムズ。

日欧で通用する作家を目指すべく単身渡英した、イギリス系日本人である。


 アスカの目的はイギリスの有名作家であるマクラーレン先生――ジェレマイア・マクラーレン氏に会うことだが、せっかくなのでスティーブニッジ名物の噴水広場と時計台も見に行ってみる。

「(あれ? こんな銅像、ガイドブックに載ってたかしら)」

実際に噴水広場を訪れると、落成したばかりと思わしき綺麗な銅像が置かれていた。

最新のガイドブックには掲載されていなかったため、本当につい最近設置された物だろう。

銅像のモチーフは、ヘルメットを脇に抱えた青年とタイヤが剥き出しの古めかしいレーシングカー――。

土台の碑文には「7回のワールドチャンピオン」を筆頭に彼の功績がズラリと書き記されている。

これは……昔活躍した地元出身のレーシングドライバーを讃える記念像だ。

そういえば、今年初めに「イギリス出身の元F1チャンピオンが天寿を全うした」というニュースを耳にしたことがある。

もしかしたら、この銅像の人物が天に召された偉大なチャンピオンだったのかもしれない。


 噴水広場近くの伝統的なパブで昼食を取った後、アスカはタクシーを拾いマクラーレン先生の自宅へと向かう。

この車両は見た目こそオールドスクールなロンドンタクシーだが、中身は完全電気自動車化された最新型である。

「ロンドンっ子のお嬢さん、あんたはマクラーレン先生の知り合いかい?」

自動運転の様子を見守りながら、後席のアスカへ話し掛けるタクシードライバー。

人間が車のステアリングを握る時代は十数年前に終わりを告げ、運転手の仕事は緊急時に備えて待機するぐらいとなった。

今では運転免許証所持率は10%以下となり、車が走る理屈すら知らない若者も多いという。

……それはともかく、このタクシードライバーはアスカをイギリス人だと勘違いしているらしい。


「ええ、彼は伯父の友人なんです。あと、私の中に流れているブリティッシュの血は半分だけで、残りはジャパニーズですよ――まあ、日本人っぽくないってよく言われますけどね」

アスカはイギリス人の父と日本人の母の間に生を受けた。

両親は共に純血なので、娘には五分五分の比率で二つの国の血が流れていると考えられる。

だが、幼少期からアスカには欧州系の特徴が色濃く表れており、髪や瞳の色を除くと東洋系らしさは微塵も感じられない。

そのため、日本の学校に通っていた頃は男子生徒にチヤホヤされ、一部の女子生徒からは嫉妬の目で見られたものだ。

「ほほう、ということはお嬢さんは日英同盟の申し子というワケだ」

感慨深げにそう呟くタクシードライバーのおじさん。

「フフッ、そうかもしれませんね」

彼の陽気な笑い声に冷静沈着なアスカも思わず釣られてしまうのだった。


 噴水広場からタクシーで走ること十数分。

スティーブニッジの外れにマクラーレン先生は暮らしているらしい。

料金支払いを終え、オレンジ色の邸宅前で車から降りるアスカ。

「(ここがマクラーレン先生の家か。意外と質素な生活をしているみたい)」

有名作家ということでもっと個性的な家に住んでるか思いきや、色合いを除くと典型的なブリティッシュ・スタイルの一軒家であった。

色彩感覚は……いや、人のセンスに外野がどうこう言う筋合いはあるまい。


 憧れの人物との対面を前に身だしなみを整え、アスカはインターホンのボタンへと手を伸ばす。

「ハロー、ミスター・マクラーレンさんはいらっしゃいますか?」

インターホン越しでも人の気配は感じられるが、それがマクラーレン先生なのかは判断できない。

「――君がアスカ・ウィリアムズさんだね? 話はフランクから聞いているよ。遠慮せずに上がりたまえ」

しばらく待っていると、中年男性の朗らかな声がインターホンのスピーカーから聞こえてくる。

間違い無い……!

彼こそが航空テロから奇跡の生還を果たし、その後作家として成功を収めたジェレマイア・マクラーレン氏だ。

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